回路
リックは『回路』について説明を始める。
「お前ら、魔法を使用するのに必要なモノはなんだ?」
オリオンは平然と答える。
「マナと引力操作でしょ」
「引力でマナを引っ張って来たらその後どうする?」
今度はアネッテが答える。
「『引っ張る』『留保』『反発』の引力操作を行ってマナを魔力に変えて魔法を作り出す」
「そうだな。だが、それだけじゃあ、五十点だ」
「え‼ 学院ではそう習ったよ‼」
「基礎としては間違ってねぇよ。だが、今のお前らのレベルではその知識じゃあ足りねぇ」
「じゃあ、何が足りないのさ」
「『マナの動き』だ。アネッテが言ったように引力操作には四つの基礎的技術がある。それと同じように火、水、木などのマナにもそれぞれ基本的な『動き』があるんだ」
「ほう?」
「火の特徴を考えてみな」
アネッテは少し考えて「燃えてる」と言うとオリオンも続いて「煙が出る」と応えた。
「そうだ。火は何かを燃やしたり、煙を出したり、温めたり、明かりを灯したりできる。水は火を消したり、流れたり、冷たかったり、潤いを与えたりできる。これらがマナの『動き』ってやつだ」
「なるほど~それで?」
「魔法ってのは、引力操作とマナの属性だけで作られてないってことだ。そこにはマナの動きが利用されている。複雑な魔法を開発するには、よりマナの動きを理解して引力操作を何度も繰り返す地道な作業が必要になる」
リックのその説明を聞いた二人は、ここにはいない三人のことが頭に浮かぶ。
数種類のタイプの違った技を放てるガブリエル、紐にあらゆる命令を与えるサレン、擬似生物を生み出したレンダ。
二人は同時に「もしかしてあの三人、めちゃくちゃ凄い事してたのぉ⁉」と叫んでしまった。
二人の急な叫びにリックは「ど、どうした・・・お前ら」と困惑する。
オリオンは照れながら「いやぁ、急に叫んじゃってごめんごめん」と言うと、首元に違和感を覚えた。
それに気づいたアネッテは「どうしたの?」と聞くと、オリオンは「なんか、今ガブリエル達と繋がりを感じたような気がして」と応えた。
「繋がり?」
「うん。一瞬だけだけど」
リックは「なんだそれ?」と言うと、オリオンは「なんでもない!」と言って修行の再開を望んだ。
リックは説明を再開する。
「つまりだな、それだけ複雑なことを戦闘中に行えるかってことだ」
「え? でもやってたよ」
「本当に間に合ってたか? 多対一で時間を稼いだり、予め準備をしていたのを使用したりしていたんじゃないか? それかそのレベルの相手だったか」
二人はダヴィに手も足も出なったことを思い出した。
リックは言う。
「これからお前達が相手にするのは生半可な魔法使いじゃねぇ。だから、瞬時に魔法を発動できるようにしておく必要がある」
「なるほど。それで、そのために『回路』って技術を使うってことか」
「そうだ。じゃあ、回路の説明に入るぞ」
リックは自分の手の表側を二人に突き出し、それぞれの指に描かれているマークを見せた。
オリオンは「このマークは何?」と聞く。
「回路技術に必要なモノだ。回路技術にもいろいろあるが、これが一般的で簡単な方法だ。俺が呪文を唱えると自動的に魔力が割り振られた回路に流れて魔法が瞬時に発動する。このマークは回路を作る時に行った契約によるものだ」
「じゃあ『回路』ってのは通常意識的に行っている操作を意識から省くってこと?」
「そうだ。回路化することで複数の技を応用することに意識を費やせる。更にその応用も回路することもできるぞ」
「魔力が流れるかぁ」
「回路ってのは、水道管のようなものだ。水が流れる道を作ってあげる。そうすれば水は迷わず流れてくれる」
「一流の魔法使いはそれができているんだね」
「そうだ。回路を作るということは魔法発動を早くするということだけではない。負担を減らすということだ。回路化できれば余裕が生まれる。速さ魔力量、体術。大技を出す余力が生まれる。瞬時の駆け引きに対応できる。自分が使う魔法に特化させていく。これが一流の魔法使いが使う技術だ。俺は詠唱から0.06秒で魔法を発動できる。回路化すれば早くなるわけじゃないから、お前らも修行をしてこれくらいの早さでできるようになれ」
「それで、どうすればいいの?」
「技に名前を付けること。そして体、武器、場所のどれかに印を刻むこと、だ」
オリオンは言う。
「アネッテはいつも技を使う時、叫んでいるから要件を満たしているね」
アネッテは照れながら「恥ずかしいからあんまり触れないで・・・」と言った。
リックは「恥ずかしがることはない。名前が呪文に変わるから名前を付けることは必要だぞ。まあ、今のままだと技を出す瞬間叫んでいるだけだから回路化できていないけどな」と言った。
「わかってるもん‼」
リックは言う。
「お前ら魔力壁は作れるな。女王の魔眼の力から身を防ぐために必要だから、まずはそれから回路化するぞ」
アネッテは言う。
「それならはじめから魔力壁を纏って行けばいいんじゃないの?」
「はじめから魔力壁なんて使っていたら戦闘態勢だと思われるだろ。女王が魔眼を使用する気配を感じたら、瞬時に魔力壁で体を覆い、魔眼から身を守るんだ」
「ねえ、体に印を刻むって言うのは、タトゥーを彫るってこと?」
「いや、必ずしもそうである必要はない。俺はタトゥーだが、羽ペンを使ってインクで体に描いて、発動する時のみ印が現れるようにすることができる」
リックは羽ペンとインク壺を取り出して、魔力壁の回路化の修行を始めたのだった。




