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THE ORION  作者: 黒羽感類
西編 ー都市ー
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終戦告知

光る球体はゆっくりとこちらへ進み、オリオンの前で止まった。


オリオンは不思議とその光に恐怖心は抱かず、寧ろ安心感すら覚えた。


光る球体を眺めていると、光が急激に広がり、オリオンを包んだ。


光の眩さに一瞬目を閉じたオリオンは、ゆっくりと目を開けた。


すると目の前には半裸で長い髪をした屈強な男が立っていた。


男は言う。


「私の名はヘラクレス。オリオン・ハナムレ―、お前に父上の命を受け、終戦を告げに来た」


神々しいその姿に目を奪われながら、オリオンは呆然として「ヘラクレス・・・様・・・?」と呟いた。


オリオンのそのぼやけた反応にヘラクレスは自身とオリオンを包む光を消すことで、スパルテーの荒野の中に姿を晒した。


オリオンは周りの景色が現実的なモノに変わったことで我に返った。


それを見てヘラクレスは近くの岩の上に座るとオリオンにも座るように視線を送った。


これまで一度も疑問を持たずに神話を信じて来たオリオンだったが、初めて神様を目の前にして畏怖の念を抱き、更に過去に聞いたイエスタデイの「神は人間の味方ではない」という言葉も恐怖心を煽った。


緊張しながらオリオンはヘラクレスの横に座った。


オリオンは月を眺めるヘラクレスを横目でチラチラと見ながら、ヘラクレスが話し始めるのを待った。


ヘラクレスは口を開く。


「言っておくが、お前を助けるために現れたわけではない。人間の事情など私は関知しない」


先ほどまで『世界を壊す』と豪語していた怪しい連中に囲まれていた事に対してだとオリオンは理解した。


「・・・はい」


ヘラクレスは言う。


「ここでお前に告げることは、あの日の事だ。わかるか?」


「・・・いいえ」


「お前の父親と母親が死んだ日の事だ。あの日何が起こったのか。そして何故起こったのか。それを説明するために私はお前に会いに来たのだ」


オリオンは「父さんと母さんが死んだ日のこと・・・・・・」と反応すると、乗り出して「教えてください‼ 父さんと母さんに一体、何が起きたんですか‼ 何故死ななければいけなかったのですか‼」と言った。


オリオンを落ち着かせるように静かな口調でヘラクレスは語り始めた。


「あの日、両親にもとに落ちた雷をお前は目撃したか?」


「はい。はっきりと見ました」


「何か気付いたことはあるか?」


「確か・・・・・・雷は槍の形をしていました」


「そうだ。あれは私の父が、お前の父・アカラスと母・サキを殺すために放った雷の槍だ」


「殺すため・・・⁉ なぜ・・・そんなことを・・・・・・」


「それを説明するためにはサキの正体について話さなければならない」


「母さんの正体・・・?」


「サキはオビアスの人間ではない。東の方角からバサンと呼ばれる鳥に乗ってやってきた。鳥と言ってもただの鳥ではない。精霊と神の中間のような存在であったと父は仰っていた」


「母さんが・・・・・・」


「オビアスに足を踏み入れた頃のサキの年齢はお前より数歳上だっただろうが、見た目はまだ子どものようなモノだった。年齢の割にどこか使命を背負っているかのような表情をしていた。暫くの間は、ただ必死に異国の地での生活に慣れようとしていた。だが、農民として普通の生活をしていたある日、サキは突然異常な行動を取り始めた」


「異常な行動?」


「オビアスの地に祖国の神を召喚しようとしたのだ。オビアスの国民の信仰心を祖国の神に集め、我々オビアスの神々からオビアスを乗っ取ろうとしたのだ。それは『国盗り』と呼ばれる禁忌の行為だ。その行為に父上をはじめオビアスの神々は怒り、サキに罰を与えようとした。だが、神々の思う様にはいかなかった。サキは祖国の神に守られていたのだ」


「つまり、母さんは召喚に成功したのですか?」


「いや、召喚は失敗した。だが、サキが持つ御守りを通して祖国の神がサキに力を送っていたのだ。サキが召喚しようとした祖国の神の名は『ヤタケル神』と『ユタケル神』という。この夫婦神が健在である以上、オビアスの神々がサキに手を下すことはできない」


(聞いたことのない名前だ)


「召喚の失敗から暫く経って、サキはキラノト村のアカラスという男と結婚した。オリオン、お前の父親だな。アカラスは普通の男だった。何か特別な力があるわけでも思慮深いというわけでもない、いたって普通の優しい青年であった。だから、サキに言われるがまま、サキが異国から持ち込んだ姓である『ハナムレ―』を名乗り始めたのだ。サキがそれに拘った理由はわからない。何はともあれ、二人は仲睦まじく夫婦生活を送っていた。そうして数年後、オリオンが生まれた。だが、そんな平穏な日々を二人は突然終わらせたのだ。ある日再びサキがアカラスと共に動き始めた。二人は突如、パルナッソス山の麓にあるデルポイ神殿に向かった」


「神殿・・・? 何故急に・・・?」


「それが父上ですらわからないと言う。普通の青年のアカラスと度胸はあるがこの地について何も知らないサキが突然、デルポイ神殿に封印されている『あるもの』に目を付けたのだ。二人が何故その情報を得たのか神々は探ったが、私も含め何もわからなかった。我々神々の意識や記憶に『空白』が生まれていたのだ。我々ですら認識できない『何か』がサキ達に接触したのだ」


「『空白』・・・。それで、母さんたちは何をしに行ったのですか?」


「端的に言えば、サキは『神盗り』を行おうとしたのだ。デルポイ神殿には、人々が『神々との繋がり』と呼ぶモノが封印されている。それをオリオンに食べさせることで神の力が得られると考えたのだ」


「お、俺⁉ た、食べた記憶ないですよ⁉」


「生まれてまだ三か月の頃だ。記憶にないだろう。神の力を秘めたお前を育て上げ、いずれは私の父を殺させ、そして神無きこの地にヤタケルとユタケルを召喚して神盗りを終える計画だったのだろう」


「どうして失敗したのですか?」


「ヤタケルとユタケルに対する祖国の信仰が著しく衰え、神の座から降ろされ、別の存在がその座についたのだ。これにより、御守りを通した加護がなくなったサキとアカラスに父上は罰を与えた」


「母さんは何故・・・そんなことを・・・」


「顛末から察するに、祖国の信者達から神の存続を託されたのだろう。祖国に残った者は内側から。祖国を出たサキは外側から。苦難の道とわかっていても自らが信じる神を残したかったのだろうな」


「・・・・・・」


「そうしてお前の両親とオビアスの神々の戦いは終戦を迎えた。私が父上から託された話はこれで以上だ。質問はあるか?」


オリオンはどうしても気になる事があり、少し躊躇ったが質問しようと決心した。


「今の話からすると俺は神々にとって反逆者になりかねないですよね。ヘラクレス様は俺をどうするのですか?」


「今は何もしない。何かをしなければいけないのは人間側だ」


納得できていない表情をするオリオンを一瞥してヘラクレスは続ける。


「神の一部である私は人間世界に無闇に干渉しない。それはオビアスのどの神も同じだ。お前のことも基本は人間達が自分達で解決しなければならない」


ヘラクレスはオリオンの胸を押さえ「この力を上手く使え。お前にはやらなければならないことがあるのだろう?」と言った。


オリオンはヘラクレスに応援されているような気がして「はい‼」と元気よく応えた。


「ならばもう行け。仲間が心配しているぞ」


オリオンは礼を言い、ヘラクレスに背を向けて走り出した。


ヘラクレスはそっとオリオンの首筋に手を伸ばし、獣の刻印を消したのだった。

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