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THE ORION  作者: 黒羽感類
西編 ー都市ー
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闇魔法

ブドウ農家での手伝いを終えたガブリエルとエバは、帰路についていた。


相変わらず静かなエバにガブリエルは話しかける。


「そういえば、エバ。お前の引力凄かったな! 俺の友達みてーだったぜ!」


オリオンほどの範囲の広さと強さではなかったが、それでも普通の人間では出せないほどの力強さがエバの引力にはあった。


エバはボソッと返事をする。


「・・・使徒・・・だから・・・」


「使徒ってみんな引力強いのか?」


「・・・強い・・・人が・・使途になる・・・師匠が言ってた」


「なるどなー。やっぱ才能ある奴はちげーんだなー」


やっとエバと普通に会話ができたことにガブリエルが心の中で喜んでいると、知らない若い男三人が目の前に現れた。


「ちょっといいか?」


「なんだ、おまえら」


「そこのお嬢ちゃんに用があんだわ」


「エバに?」


三人の男は怒りを露わにして言う。


「テメェ! 何度も何度も俺達のこと無視して、舐めてんのか‼」


急な男達の激昂にガブリエルは危険を感じ、構える。


「エバが無視?」


「そうだ! こいつはこっちが親切心で話しかけても一切何も答えない! 俺達を舐めてんだ!」


ガブリエルは想像する。


エバがもし、道に迷っていても、誰かに頼ることは出来ないだろう。それは頼り方がわからないからだ。


逆に親切心で他人(ひと)から話しかけられたとしても、エバはなんと伝えればいいのかわからないだろう。


だから、エバは黙ってしまったんだ。


ガブリエルは三人の男に頭を下げた。


「ごめん‼ こいつ、他人(ひと)に自分の気持ちを伝えるのが得意じゃなくて、もしお前らを不快にさせたんなら、すまなかった! ちゃんと俺が会話の仕方を教えるから‼ この通りだ。許してやってくれ‼」


そのガブリエルの態度に三人の男は、表情を緩めて「ま、まぁそれなら仕方ねぇか。今度からは、返事の一つくらいは返してくれよな」


「ああ‼ 約束するよ‼」


ガブリエルの返事を聞いた三人の男は、その場から去っていった。


それを見届けると、エバがガブリエルを見つめていることに気付く。


「どうした、エバ? 言いたいことあるなら言葉にしようぜ」


エバは、ゆっくり口を開いて「・・・ありがとう・・・」と言った。


すると、「だいぶ打ち解けたようですね」と言いながらイエスタデイが現れた。


「イエスタデイさん!」


「ガブリエル君。エバを助けてくれてありがとうございます。勇敢でしたね」


大賢者からの賞賛にガブリエルは照れながら「なんか、ほっとけないんだよなぁエバは」と言った。







その日の晩。


三人と一匹で夕食を囲っていると、イエスタデイが話を始める。


「さて、魔法の修行について打ち合わせをしましょう」


ガブリエルはスープを掬う手を止めた。


「何を教えてくださるのですか?」


「その前に質問させてください。ガブリエル君は、自分の魔法に何が足りていないと思いますか?」


「んーと。やっぱ、欲しいのは今以上の火力ですかね。身体能力を生かした武術と魔法の組み合わせを意識して魔法を開発したんですけど、どちらかと言うとじわじわと相手を追い込む組み立て方が多くなってしまうんですよ。だから重い一撃を与えられるような技が欲しいんです」


「つまり必殺技のようなモノですか?」


「そうそう‼ そんな感じです‼」


「なら、やはりガブリエル君のレベルを考えれば『バースト』を覚える段階でしょうね」


ガブリエルは『バースト』という単語に聞き覚えがあった。


それはラビュリントスで怪報のソラン二が使っていた魔法である。


(アイツの魔法、壁や天井に床って自由に動かしていたよな。バーストを覚えれば、あのレベルの事ができるってことか?)


更に、エルザがアネッテの出力を容易に上回る程の火炎放射を放っていたことも思い出した。


イエスタデイは言う。


「今のガブリエル君が思っている限界を大幅に超えた量の魔力が使えるようになる。それを加味した上でこれからの魔法開発プランを聞きたいです」


ガブリエルは自分の必殺技のプランをイエスタデイに話した。


イエスタデイは応える。


「それなら闇魔法を覚えるといい」


「闇魔法かぁ。でも、光と闇は五大基本属性だけど俺はメタリオスだったから、習ってないんですよ」


「闇のマナの集め方についてはアドバイスします。闇のマナを集められるようになったら、エバと共に試練を受けてもらいます」






夕食後、月に照らされた丘の上にガブリエルとテピベラは来ていた。


「テピベラ、お前ついて来たのか?」


「あたりめーよ。弟子が夜に一人で修行するってんなら師匠もついて行くだろうが」


「やっぱ、優しいなテピベラは」


「ち、ち、ち、ちげーし! イエスタデイの代りに来ただけだし! あーめんどいわー、たりーわー、はよねてーわー」


ガブリエルは微笑んだ後、月を一瞥すると、目を閉じた。


イエスタデイのアドバイスを思い出す。


『闇のマナを感じ取るには、まず影を動かす練習から始めるといいですよ』


月が照らしたガブリエルの背後に影ができる。


『光と闇は二つで一つ。月の光を感じながら、背後の影(やみ)を感じなさい』


ガブリエルは考える。


(光がなくても闇は存在するかもしれない。でも、それだと初心者の俺では何も掴むことができない。だから、光で照らすことで闇の輪郭を曝け出すんだ)


月の光を正面から受けることで、背後に露出した影を感知する。


(その影を構成するモノを把握しろ‼ 俺‼)


するとガブリエルはパッと目を開いた。






「駄目だこりゃ‼ なーんにも感じねぇ‼」


その言葉に寝そべるテピベラは「ま、そんな簡単じゃあねぇよ。根気よくやりな」と言った。





そして、その日から昼はエバと町の人の手伝いに出かけ、夜は闇魔法の修行をしに丘へ出かける日々が続いた。


そんなある日。連日連夜の修行の影響で寝不足になっていたガブリエルはボッーとしながらも農家の手伝いをしていた。


するとエバが何かを言いたそうにガブリエルを見つめだした。


しかし、ガブリエルはそれに気づかずに作業を続けていると、エバがガブリエルにコツンと軽い頭突きをした。


「ん? どうした、エバ?」


エバはもにょもにょと口を動かして何かを喋ろうとしていた。


ガブリエルは応援する気持ちでエバの言葉を待った。


エバは言う。


「・・・無理・・・しないで・・・私がやるから・・・休んでいて・・・」


「エバ・・・・・・エバァ‼」


初めてエバの方から話しかけられ、そしてその言葉が優しい言葉であったためにガブリエルは驚きと嬉しさが一緒にやってきた。


ガブリエルはエバの手を取って「エバが喋った‼ エバが喋った‼」とはしゃいだ。


それに困惑しながらもエバは「おおおおお落ち着いて・・・・・・」と言うとガブリエルは正気を取り戻す。


ガブリエルは言う。


「心配してくれてありがとなエバ。でも、俺は大丈夫だ‼ 絶対すぐに闇魔法使えるようになってやるから‼ 試練までもう少し待っててくれ‼」


エバはコクリと頷いた。





その晩。ガブリエルはいつにも増して集中していた。


(引力で水のマナを集める際、川の水や水溜り、土の湿り気、植物のが持つ水分をイメージして小さな粒を集める感覚だった。ならば、闇は何をイメージするべきだ? 月の光のおかげで、影(やみ)を知覚できた。ここ数日で俺の影が今どんな形をしているのかもはっきりとわかるようになった。闇とはなんだ? 光とは何だ?)


ガブリエルの意識は思考の海へ深く深く潜っていく。


そうして、ガブリエルにとっては数時間が経過したと感じるほどの思考を経て、数分ぶりに、ガブリエルが、パッと勢いよく目を開いたのだ。


すると、ガブリエルの影がうねうねと動き始めた。


ガブリエルが「伸びろ」と言うと影は縦に伸び「縮め」という影は縮んだ。


その光景を見たテピベラは「ほーう‼ やるじゃねぇか‼」と感嘆の声を上げた。


ガブリエルは闇魔法に手ごたえを感じた。


(闇魔法は影を塊として捉えるんだ。他のマナは粒だけど、光と闇は扱い方が少し違う。だけど、わかる。これを扱えるようになったら人並外れた力を得ることが出来る‼)


そして、すぐに再び影を操ろうとすると首にかけている骨のペンダントが震え始める。


震えはこれまで以上に激しくガタガタと音を鳴らしていた。


「またかぁ、なんなんだよこれ」


ガブリエルが戸惑っていると、テピベラは「今日はこれまでにしておけ」と言った。

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