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THE ORION  作者: 黒羽感類
東編 ー迷霧ー
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愛と竜

オッサ山中腹辺りで何かが爆ぜる音がした。


仙人はオッサ山の異変に即座に気付き、ダヴィに視線を送る。


「気になりますか?」というダヴィの問いかけに無言の仙人にダヴィは続ける。


「アナタの予想は当たっていますよ。あれは俺の部下が放った魔法です」


ダヴィの発言によって仙人の「五人が襲われている」という予想が確信に変わると、仙人は覚悟を決める。


(守護霊の瞬間移動によって、サシで戦うことを防がれ、ケルベロスに守護霊を任せることもできない。更に厄介なのは、儂の攻撃が守護霊には効かず、それどころか攻撃を当てただけで儂にダメージが入る。このままのんびり戦うわけにはいかないのう。ダヴィを片付け、その仲間とやらから五人を救わなければ・・・‼ アレを使うしかない・・・‼)


仙人はケルベロスを撫でる。


「ケルベロスよ。ここまでよくやった。だが、もう少しだけ、力を貸してくれるかのう」


そう言うとケルベロスは仙人に頬ずりをした。


ダヴィは「何をするつもりですか?」と言って警戒する。


仙人は言う。


「ケルベロス:バースト‼ 融刃一体‼」


『バースト』とは、魔法使いが自身に課している無意識のリミッターを呪文詠唱により取っ払い、放つ頻度に制限を設けることで、自身最大火力の技を放つ魔法である。


理論上はどんな魔法使いでも使用可能な魔法であるが、魔法使いのレベルによってインターバルの長さは違う。


エルザの場合、一日に一回まで。リウ・ジンロンは一日に発動できる回数に制限がない分、発動した回数分/日でインターバルが必要になる。


仙人がバーストを発動すると、仙人とケルベロスが紫色の渦に飲み込まれていく。


ダヴィが「ついに本気か」と言って構えた瞬間、ケルベロスの爪がダヴィの目の前に現れた。


守護霊は瞬時に庇おうとするが、ダヴィは左腕に切り傷を負う。


ダヴィが怪我に意識を向けている一瞬で仙人に接近されたかと思うと、足元からケルベロスの頭が牙をむき出しにして現れた。


守護霊が盾となるが、守護霊に攻撃が通り、ダメージを負う。


(リウ・ジンロンの奴‼ ケルベロスと同化したのか⁉ ただでさえ高いフィジカルが更に強化され、速さと膂力が向上している。それにケルベロスを自由自在に出現させる技と組み合わせての連続攻撃‼ 守護霊(フルーラ)でもかなりのダメージを負っている‼ かなり危ない状況だが、あくまでバーストだ。完全な同化ではなく一時的なモノ。致命傷を与えれば、同化は解かれる。)


ダヴィは言う。


「守護霊(フルーラ)‼ ソードモード‼」


すると守護霊の両腕が剣へと形を変えた。


ダヴィは更に考える。


(奥の手を使うか? しかしこのじじぃ元気過ぎる‼ アレを使ってケルベロスと仙人どちらかが耐えて生き残ったら勝つのは難しい‼ 確実に大きなダメージを一回は与えなければならない‼)


ダヴィは守護霊に覆われるように守られつつ、守護霊に剣による積極的な攻撃を命じた。


守護霊から離れないように立ちまわることで正面以外の攻撃がダヴィに当たりづらくしたのだ。


だが、仙人の殆ど無いに等しい発動所作にダヴィを守る守護霊の負担が増すばかりである。


突然現れるケルベロスの攻撃を受けながら、正面の仙人からの攻撃を防がなければならない。


高性能な疑似生物である守護霊(フルーラ)であっても防ぎきることは不可能であった。


ケルベロスからの攻撃を優先的に意識していたために、仙人からの攻撃を防ぎきれず、ダヴィに直撃してしまう。


腹部を殴打され、吐血するダヴィ。それと同時に蓄積されたダメージが守護霊を襲う。


守護霊が膝をつき、ダヴィが露わになった。


仙人は千載一遇とダヴィに向かって、ケルベロスの爪を出現させようとしたその時だった。


山頂に人が二人、落下してきたのだ。







仙人は焦燥感を覚え、砂埃が立つ落下地点を凝視した。


すぐに砂埃が晴れて、倒れているエルザとモラガが姿を現す。


「エルザ⁉」


その光景を見たダヴィはすぐさま「守護霊(フルーラ)‼ エルザをやれぇ‼」と言って、守護霊をエルザのもとへ行かせた。


仙人は即座に守護霊を止めようと走り出した。


だが、その瞬間ダヴィが二ッと笑って「守護霊(フルーラ)‼」と言うと守護霊は仙人の背後に瞬間的に移動した。


「言っただろ。守護霊(フルーラ)は俺を守るためにあるんだ」


守護霊は背後から剣で仙人の腹部を貫いた。


「ぐはっ‼」


仙人は腹部から大量の血を流し、倒れ込んだ。


ダヴィが倒れる仙人を眺めているとエルザを追って登ってきたオリオンたち五人が現れた。


ダヴィは言う。


「ここまで誘導ご苦労だった。モラガ」


モラガは「ダ・・・ヴィ・・さま・・・」と言うと意識を失った。


五人は山頂に辿り着くと目の前の惨状に驚愕する。


「仙人・・・・・・‼」


「に・・・げ・・ろ・・・」


仙人は声を振り絞ってそう言ったが、ダヴィから逃げきることが簡単ではないことを理解していた。


ダヴィは仙人のもとへ行き、自らトドメを刺そうとする。


思わずオリオンが叫ぶ。


「待て‼ ダヴィ‼」


ダヴィは仙人の頭を踏みながらオリオンを見る。


「俺達を追って来たんだろ‼ 俺が相手になる‼ だから、仙人から離れろ‼」


「いや、駄目だ。この男を野放しにするのは危険だ。またいつ、反乱分子の刃となるか分かったもんじゃない」


「反乱分子だと‼」


「そうだ。俺は国側の人間だ。エルザが何を考えて、自分と祖父を犠牲にしてまでお前たちを守ろうとしたのかは知らんが、俺と敵対するということはオビアスへの裏切りと同義だ。それだけ俺がオビアスのために人生を捧げているからな」


「エルザ先生だって、学院教師として生徒のことを考えてくれたから俺たちを逃がしてくれたんだ‼ これが国への反逆だって⁉ お前こそ、オビアスの人間としての誇りはないのか‼」


オリオンのその言葉にダヴィは「ふっ・・・ふはははははは」と笑った後、怒りの籠った表情で「お前達もエルザと変わらんな。人形になれば俺の言っていることもわかるさ」と言った。


そして、ダヴィが仙人にトドメを刺そうと足を振り上げた瞬間、ダヴィは自分の体が動かなくなっていることに気付く。


(なんだ⁉ なぜ、体が動かない⁉)


オリオンは言う。


「交渉は終わりです。戦いましょう。ダヴィ第一士師」


ダヴィはオリオンを見て驚愕した。


(まさか・・・⁉ こいつが⁉ この強大な引力を使って俺の動きを止めているのか⁉ そんなはずは・・・。たかが学院の生徒が・・・しかも一年‼ そんなことできるはずがない)


ダヴィは畏怖の念からか無意識に守護霊をオリオンのもとへ動かしていた。


猛スピードで突っ込んでくる守護霊に気付いたアネッテは、守護霊の攻撃を炎の剣で受けた。


力負けしそうになったアネッテは累燃火で対応するも、守護霊は回転することでアネッテの剣を避けて、アネッテの腹部に蹴りを入れた。


続いて応戦したガブリエル、レンダの攻撃をかわし、剣で弾くと、サレンを蹴り飛ばし、そのままオリオンの背中は切ったのだった。


引力から解放されたダヴィは、即座に倒れ込むオリオンへ近づき、胸元を掴んで持ち上げた。


「お前は何者だ。人間か?」


オリオンは苦しみながらも強気に応える。


「俺はオリオン・ハナムレ―。オビアスから戦争を無くす者だ・・・・・・‼」


「ふん。戦争を無くすねぇ・・・・・・なるほど。その引力といいその野望。エルザがお前らを逃がした理由がわかったよ」


すると背後からガブリエルが攻撃を仕掛ける。


ダヴィはオリオンを盾にしてガブリエルの動きを止めると、腹部に蹴りを入れた。


アネッテが炎の剣を振り下ろし、それをダヴィが避けると、それを読んでいたかのようにサレンがオリオンを奪い取った。


走り去ろうとするサレンにダヴィが手を伸ばすと、レンダによって矢が放たれ、手を引っ込める。


五人は固まって、ダヴィに対して臨戦態勢を取った。


ダヴィは言う。


「オリオン。俺は国を預かる者としてお前を生かしておくわけにはいかない。お前の力は人間のそれではない。平和を望むお前がいずれ、その強大過ぎる力を制御できなくなった時、平和どころか国が消滅するだろう。人間の器に収まる力じゃないんだ。お前が自ら死ぬ気がないのならば、俺がここで殺すしかない」


アネッテは言う。


「士師が思っているほど、オリオンは弱くない‼」


ダヴィは落ち着いた声で言う。


「そうだったな。お前らはエルザと同じ。魔法で終わらすしかないんだったな」


五人は警戒心を強めて構える。


ダヴィは言う。


「お前達。ドラゴンを見たことはあるか?」


「ない。それがどうした」


「オビアスで言うドラゴンは基本的に生物としてのドラゴンを指さない」


「・・・?」


「見せてやる。これがドラゴンだ」


守護霊が光を放ち始めた。


ダヴィは言う。


「ディーズバーン:ガーディアンドラゴン」


そう言うと、発光した守護霊は光に包まれ、姿が見えなくなると、次の瞬間にはドラゴンの形に変化していた。


大きな翼を持ち、分厚い装甲のような皮膚を携えた白く光る竜が五人の目の前に立っている。


ダヴィは技を放つ構えを取る。


「これがドラゴンだ。最期に拝めたことを喜ぶがいい」


オリオンは恐怖を感じながらも両手をドラゴンへ向けた。


ダヴィは言う。


「消えろ‼ キサマの中に眠る怪物諸共‼ ガーディアンドラゴン:フィシーア・アミナ‼」


そうダヴィが詠唱すると、ドラゴンは目を開けてはいられないくらいに発光し、飛び上がって、ドラゴンの形が保てなくなるほどのスピードでオリオンたち五人に突進したのだった。


深い傷を負っているオリオンはできる限りの引力をドラゴンへ放つ。


しかし、満身創痍の今のオリオンの引力ではドラゴンを止めることが出来ない。


勢いの衰えないドラゴンが迫る中、打つ手なく諦めかけていたその時だった。


サレンのポケットから小さな熊のぬいぐるみが五人の前に飛び出したのだ。


ぬいぐるみは瞬時に大きくなり、突っ込んでくるドラゴンを受け止めた。


ぬいぐるみは五人を守るために盾になり、ドラゴンの攻撃を受け続けている。


サレンは祈る。


(お願いお願いお願い‼ クマちゃん‼ アタシたちを守って‼)


ぬいぐるみの腹が避け始める。


ぬいぐるみはドラゴンの進行方向を変えようと試みるも力では勝てない。


ぬいぐるみの腕が取れる。


ぬいぐるみは頭を使ってドラゴンに攻撃をするもまったく効いていない。


ぬいぐるみの頭部がもげる。


ぬいぐるみは全身全霊を持てドラゴンを押し返そうと試みる。


ぬいぐるみの足が取れる。



そしてついにぬいぐるみの体から綿が飛び出して砕け散っていった。


妨げるものがなくなったドラゴンは、無慈悲にも五人へと直撃したのだった。


五人は投げ出され、地面に体を打ち付けた。


呼吸をすることも苦しい程の致命傷を負った五人は意識を失った。


「せめて・・・本物の墓だけは建ててやろう」


ダヴィがそう言って、モラガの方へ振り返ろうとしたその時だった。


突如ケルベロスの頭部が頭上に現れたかと思うと、そのままダヴィを咥え、鋭い牙でダヴィの胸を貫いたのだ。


「リ・・・ウ・・・・生き・・て・・いたの・・・・か・・・・・・」


ダヴィはその場に倒れた。


最後の力を振り絞り限界を迎えた仙人は、薄らぐ視界の中で、五人の男と一匹の犬がこちらへ向かって走って来るのが見えた。

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