リウ・ジンロンVSダヴィ・アーリマン
五人を送り出してから数刻にも満たない時間が流れた。
仙人は使命を悟りながらも、小屋の中でゆっくりとリラックスして過ごしていた。
体を休ませ、意識は小屋の外の結解に向けていた。
するとカシアスが張った深い霧の結解に異変が生じたのを感じ取った。
仙人は即座に立ち上り、小屋を出た。
普段よりも霧が薄くなってきたかと思うと急激に霧が晴れて行き、人影が現れた。
人影の主は言う。
「お久しぶりですね。ここへ来るのは二十年ぶりくらいですかな」
「儂は別に招いていないんじゃがな」
「じゃあ、招かれた五人の生徒はどこへ逃がしたんです?」
と言うと、人影の主であるダヴィ・アーリマンが姿を現し「リウ・ジンロン」と続けた。
「さあのぉ。何のことかのぉ~」
「そうか知らないか。ならそこを通してくれますか」
「できんのぉ~」
「なぜ?」
「はて、なぜじゃろなぁ~。ボケちまったかのぉ~」
「冗談はよしてください。このままだと力づくになりますがよろしいですか?」
その言葉に仙人の目つきが変わる。
「儂は構わんよ」
ダヴィは構える。
「貴方と一度お手合わせしたかったんだ」
「一度見逃してやったのに自ら来るとはな」
「あの時とは違いますよ」
二人の戦いはダヴィによる攻撃から始まった。
ダヴィは左足で蹴りかかると次々に打撃技を繰り出した。
しかし、仙人はその全ての攻撃を颯爽とかわしてダヴィの腹部に右拳で一撃を与える。
ダヴィはその衝撃でオッサ山山頂から投げ飛ばされ、木に体を打ち付ける。
「はは‼ さすがに体術で勝つのは無理かぁ‼」
「当たり前じゃろ。儂を誰じゃと思おとる」
「・・・でも少しは衰えているでしょ」
ダヴィは立ち上がり、再び仙人に肉弾戦を挑む。
仙人は思う。
(確かに今の儂は全盛期とは程遠い。素の体術ならばこの男を倒すのは容易い。しかし問題は奴の魔法だ。まったく情報がない分、何をしてくるかわからない。勝ち目のないこの肉弾戦に魔法的な意味があるのかもしれない。だが、儂には関係ない! 全てに対応して見せよう! 儂にはケルベロスがついておる!)
全ての攻撃を受けきられ、すんでのところで仙人の攻撃をかわすダヴィは思いを巡らせる。
(あの怪物はいつ出てくるかな! まあ、体術のみで圧倒している今、わざわざ出す必要はないか。それに俺の魔法を警戒しているだろうし、俺の魔法を見た後、タイミングを計って繰り出すだろう。ていうか、素で強すぎだろ‼)
ダヴィの攻撃を手で受け止め掴んだ仙人は「何を考え事しておる」と言って再びダヴィを山頂から投げ飛ばした。
ダヴィは即座に立ち上り、間髪入れず仙人に立ち向かう。
(やはり、先にこっちが見せるしかないようだ)
「まだやるか‼」
ダヴィの体術が退屈と言わんばかりに、容易にかわし「終わりにしてやろう」と言うと、ダヴィの腹部に強烈な殴打を放とうとした。
ダヴィは山頂から投げ出され、木を倒す程の衝撃で木に打ち付けられたように見えた。
しかし、ダヴィの異変に直接触れた仙人は気付いていた。
仙人は鈍い痛みを覚える拳を一瞥した。
(なんだ・・・⁉ 儂が殴ったのは人間の体ではない⁉ あれは・・・あまりにも硬すぎる‼)
土煙が晴れるとダヴィが姿を現す。
仙人は驚愕する。
全長三メートルはある人型の守護霊がダヴィを包むように立っていたのだ。
「いやぁ、さすがだなぁ。こいつを出してもここまで吹っ飛ばされるなんて」
(儂が殴ったのはこいつか・・・。それにしてもあの守護霊かなりの硬さだ。アレをいちから構築したのならかなりハイレベルな魔法使い・・・)
「どうしました? リウ・ジンロン。動きが止まってますよ‼」
ダヴィは守護霊に投げ出されることで急激に仙人に接近する。
瞬時に構える仙人の背後に守護霊が回り、挟み撃ちにあう。
「なんのこれしき‼」
守護霊の初撃をかわすとダヴィの攻撃を受け止め、ダヴィを守護霊に投げ込む。
守護霊がダヴィを受け止めている隙に間髪入れず、仙人は守護霊を殴打する。
仙人は守護霊を後退させながらも守護霊の硬さを再度実感した。
拳に痛みを感じながら仙人は考える。
(守っているだけにも関わらず、この儂の体にダメージを与えるか・・・⁉ あの硬さならば儂は攻撃しない方が良いな。守護霊はケルベロスに任せ、儂はダヴィを叩こう。どの道、魔法使い本人を倒せば守護霊も消える)
仙人は自分の背後に闇魔法で紫色の渦を発現させる。
「遊びの時間じゃぞぉ‼」
そう言うと、紫色の渦から三つの顔を持つ黒い怪物・ケルベロスが現れた。
ダヴィに緊張が走る。
「来たか‼」
「どうした? ビビっておるのかのう」
「いやぁ、怪物と化物が手を組むなんて、ワクワクするよ‼」
「ワクワクか。それじゃ、遠慮なくいかせてもおう‼」
ケルベロスの爪がダヴィに襲いかかると守護霊が即座にガードする。
ダヴィは守護霊とケルベロスの間を抜け出して、その場から距離を取る。
仙人はすかさずダヴィを追いかけ、背中に蹴ろうとするも避けられる。
ダヴィは思う。
(リウ・ジンロンは異国の人間。魔法は国によって解釈が違う。そのため、俺の知らない魔法を使用してくると思ったが、ケルベロスを呼んだ魔法はオビアスのモノだ。今のところ異質な魔法を使ってくる仕草はない)
仙人は追撃をしながら言う。
「キサマ一人では勝てまい」
ダヴィは顔に余裕を浮かべて言う。
「どうかな」
ダヴィが「守護霊‼」と言うと、その瞬間、離れた場所でケルベロスと戦っていた守護霊が仙人の背後に現れる。
「守護霊は俺を護るために存在する」
守護霊の出現に気を取られた仙人はダヴィの殴打を右頬に受ける。
続けて守護霊の右拳が仙人のガードした両腕にめり込んだ。
仙人は投げ出されながらも空中で態勢を整えて着地をした。
仙人は守護霊を一瞥する。
(ケルベロスに圧倒されていないところを見ると、硬さだけではないと思っていたが、一撃の威力が思ったより大きいのう‼)
リウ・ジンロンがケルベロスと主従契約を結ぶ際、とある条件が組み込まれた。
それはリウが衰えればその分ケロベロスも弱体化するというモノ。
契約中、リウが年を取って衰え、全盛期の力が失われるのと同時に、ケルベロスも同じように契約時よりも力を失っている。
これは本来不可能な人間を主とした怪物との主従契約を実現するために不可欠であった。
全盛期のリウですら、それだけの条件が必要であったのだ。
つまり本来のケルベロスの力を十分に発揮することは不可能。
(それでも怪物としての力は十二分にある。怪物と人間が戦えば本来のセオリー通りになる)
仙人の背後でケルベロスはダヴィを威嚇する。
「ケルベロスよぉ。年の功を見せてやろうじゃないか‼」




