深い霧と問答
夜明け前、まだ辺りは暗く、闇に紛れて出発するには十分な時間に五人はフードを被って小屋の前にいた。
仙人は五人の前に立ち、五人の顔を見た。
「昨夜はちゃんと眠れたようだな。これから君等が行くべき道はそう難しくない。北西に向かって山を下れ。下った先に案内人が待っておる。案内人が秘密結社のアジト付近まで連れて行ってくれる。話は通してあるが、警戒される可能性がある。アジトには五人だけで入るように。よろしいか?」
五人は元気のない声で返事をした。
「ん? 声が小さいのう」
五人は理解していた。自分達がここを離れる理由がダヴィである以上、ダヴィがここへやって来て、仙人と戦うかもしれないのだ。
エルザはどうしたのだろうか。
戦ったのだろうか? それとも他に作戦があって今も誰にも気づかれないように動いているのだろうか。
考えないようにしていたことが、次々と頭の中を巡る。
仙人は五人を抱きしめる。
「心配するな。儂は負けん。儂にはケルベロスがついておる」
オリオンは言う。
「仙人。短い間だったけど修行をつけてくれてありがとう」
アネッテ、ガブリエル、サレン、レンダも順番に感謝の言葉を述べた。
「仙人とカシアスのおかげで向き合わなきゃいけないことと向き合えた。ありがとう」
「ホントはもっとここにいて武術を教わりたいけど、しょうがねぇよなぁ。次会う時は今よりもっと強くなってるからよぉ、元気で待ってろよな‼」
「強くしてくれたお礼にアタシの元気分けてあげる‼ ピピピッ‼」
「一か月半お世話になりました。仙人とカシアスさんから教わったことを今後の魔法の研究に生かしていきます。お体をお大事になさってください」
五人が言い終わると、仙人は五人から離れた。
「うむ。君等には未来がある。まだまだ長い人生が・・・・・・そして、この儂にもな‼」
五人は笑みをこぼす。
仙人は言う。
「早く行きなさい。ダヴィが来てしまうわい」
五人は北西に向かって歩き始めた。
五人は手を振りながら言う。
「じゃあね‼ また必ず戻って来るから‼」
仙人は手を振り返した。
◇◇◇
日の出間際、オッサ山の山頂付近にダヴィの姿があった。
しかし、目の前には深い霧が立ちはだかっている。
昨夜カシアスが出発する前に、張っていった結解である。
「これが調査隊を惑わした霧か。場所が割れているのにも関わらず、発見にてこずるわけだ」
ダヴィは背後に立つモラガに目をやる。
モラガの使用する魔法を見て、半月前のことを思い出す。
それはまだ、学院で襲撃に関する調査を行っていた時だ。
◇◇◇
学院の校舎を出て、まやかしの森のはずれにある小屋に向かってダヴィとモラガは歩いていた。
「俺がするべき学院内での調査は大方片付いた。新しい学院長を連れてくるまで、暫くルンガンに運営をまかせる」
「かしこまりました。続いて、学院長候補の件ですが、二人まで絞れました。しかし両者、タイプの違う暗示魔法の使い手です。ターンニバのモノとの互換性を考慮すると判断が難しいと審査員から報告が上っております」
「わかった。用が済み次第、城に戻って俺が直々に選ぶ」
「かしこまりました。因みにその用と言うのは、いかがほどで?」
「さあな。こいつ次第だろ」
小屋の前についたダヴィは小屋のドアを開ける。
小屋の中には縛られて吊るされているエルザ・リウがいた。
ダヴィとモラガは小屋の中へ入る。
ダヴィは言う。
「そろそろ話す気になったか? 死んだという五人の生徒はどこだ? 墓を掘り起こしても動物の骨しか出てこなかったぞ」
「なんのことですか? 士師に話すことは全て話しました」
ダヴィは笑みを浮かべて言う。
「そうか・・・・・・ならしょうがない。お前の祖父のもとへ行ってみるか」
その言葉にエルザは思わずダヴィを睨む。
ダヴィは更に笑みを浮かべる。
「おいおいおい。睨むなよ。しょうがないだろう。俺にはそれしか伝手がないんだから」
「あの人は関係ないでしょ‼ 隠居して静かに暮らしているだけよ‼」
「じゃあ、丁度いいな。どうせ暇だろうし。話し相手になってくれるか」
「巻き込まないでよ」
ダヴィは踵を返して小屋の出口へ向かった。
「巻き込んだのはどっちだろうな」
ダヴィとモラガは小屋を出て学院に向かって歩き出した。
するとその瞬間、小屋が爆発するように燃えたかと思うとエルザが飛び出してきた。
ダヴィは構える。
「拘束を解いたか‼ 感情が表に出過ぎだぞ‼ エルザ‼」
エルザの炎の籠った拳をダヴィは、魔力壁を作って両腕で受けきった。
エルザの背後にモラガが回る。
「俺に手を出したこと、後悔するぞ」
「しないわね。可愛い生徒のためだもの」
「・・・やはり生徒か。 五人の生徒を祖父のもとへ逃がしたのか? なんのために?」
「さあね。アンタには一生わからないでしょうね」
エルザの挑発には乗らず、ダヴィは淡々と考える。
「生徒と言うことは・・・教育方針に関わることか? お前とクリファは暗示魔法を使った洗脳教育には反対だったもんなぁ・・・・・・そういえば、お前とクリファは、国家魔法の方針において主流派と意見が分かれていた。それが関係しているのか? それともやはり、襲撃犯と関係があるのか?」
「国家魔法や襲撃犯などという大それた理由ではないわ。ただ、国民のために尽くす純粋無垢な可愛い生徒がアンタに汚されるのが嫌だっただけよ」
「国民? 国のためだろう。洗脳が足りていないなぁ。その生徒達は」
「洗脳なんて必要ない‼」
「必要だ。学院長の暗示魔法は時間をかけて完成する。完成すれば痛みや恐怖心を感じなくなる。兵士のためにもなる」
「子どもたちの自由な心や兵士を辞退するチャンスを奪っている‼」
「そもそも暗示による洗脳教育はウロボロスの件以降全てのクラス、学年で例外なく行うようになった。元々はレベルの低い生徒の愛国心を強くして自尊心を捨てさせるために使っていたのだ。あの事件が洗脳は必要だと証明しているのだ。故に、自由な心は兵士に必要ない」
「子供の感受性や自由な発想が国の未来を創る‼」
「それは西を倒し、統一した後でいい。今は心を持たぬ兵が欲しい」
「欺瞞ね‼ 統一しても国の武力を高めることを優先することは国家魔法への考え方でわかっている‼」
ダヴィは呆れた表情をする。
「この話題をここでしても決着はつかんな・・・最後に質問する。エルザ、お前は敵か?」
「私は決して敵ではありません。しかし、ダヴィ第一師子。アナタが私たちの敵になる可能性があります」
ダヴィの表情が強張る。
「それはどっちが国側だ‼」
「さぁ、ただ私は国を裏切ったことも裏切るつもりもありません‼」
「・・・・・・そうか、わかった。答えは俺が灰になるか、お前が人形になるか・・・それでわかる‼」
エルザは言う。
「ギムレット:バースト‼」
◇◇◇
オッサ山山頂付近に立ちはだかる深い霧に晴れる気配はない。
この先にエルザが隠す何かが待っていることをダヴィは理解している。
「俺の動きを妨害するための魔法だろうが、俺には関係ない。全てを凌駕してやろう」
ダヴィは深い霧の中へ歩を進める。
「さて、何が待っているかな」




