くびなしオバケがやってきた!(13)
「ふうん。」
とシホちゃんは首を傾げます。
「しんのあくごろうが、さんもとごろうざえもんと同じくらい、物知りで頭が良いのは、シホにも分ってるけど、しんのあくごろうはアヤメちゃんが『みをひく』って、よく分かったね。なんでだろ?」
こう問われて神野悪五郎は
「それが女心と云うものよ。」
と答えました。
そして
「シホちゃんには、まだ難しいかな。」
と天狗の団扇で自分の顔を扇ぎました。
「ちょっと暑いなぁ。」
シホちゃんは
「失礼しちゃうわね。シホはレディなのに。」
とプンスカします。
困ってしまったのか神野悪五郎は
「おおい! 菖蒲。汝に頼む。」
と声を上げました。
「観ておるのであろう。出でよ。」
押し入れの襖が開いて、中に座っていたのは巫女さんです。
ですが顔には狐の面を付けています。
振袖ではなく巫女装束なのは、神狐になった証でしょうか。
ただし菖蒲は、口元を押えて笑っているばかりで、立ち上がることすら出来ません。
「これ、菖蒲。笑ってばかりいないで、シホちゃんに女心とやらを教えてやってくれ。」
と神野悪五郎が言います。
「我から受けた恩を返すというならば、今を置いて、他に無し。」
「はいはい、悪五郎様。」
ようやく菖蒲は笑いを収めることができました。
「流石の魔王も、シホちゃんに掛かっては形無しですね!」
そう言うと菖蒲は押し入れから出てきて正座しました。
「シホちゃん、あのね。『今では』人間と狐とが結婚するのは無理なのよ。」
「そうなんだ!」
とシホちゃんは感心します。
「昔なら、良かったの?」
でも、おじいちゃんが子供だったころなら、大昔なんじゃない? とシホちゃんは思います。
「そう。うんっと大昔だったらね。おじいちゃんが子供だった頃よりも、もっと・も~っと大昔。」
と菖蒲が頷きます。
「じゃあ、きょうりゅうがガオ~っていってたころだ!」
とシホちゃんが言うと、菖蒲は「いや、流石にそこまで古くはないけど」
と首を振り
「ホタルが怖いって思われていたくらいの大昔よ。」
と説明しました。
「それって、せいしょうなごんが”ご本”を書いたころ?」
菖蒲は、今度は
「そう!」
と頷きます。
「清少納言が生まれる50年くらい前に、安倍晴明っていう人が生まれているんだけれど、その人のお母さんが狐だったって言われているの。」
「あべのせいめい? あべのせいめいって、おんみょうじじゃん!」
シホちゃんは、テレビで陰陽師の安倍晴明が活躍する映画を観たことがあります。
いろいろな魔法を使えるスゴイ人でした。
「シホちゃん、物知りだねぇ。」
と今度は菖蒲が感心します。
「安倍晴明のお父さんは、安倍保名っていう人なんだけど、お嫁さんは『葛の葉』っていう狐だったのよ。だから安倍晴明は狐の子。」
「うわぁ! あべのせいめいが、まほうがつかえるのも、なんだか分かった気がするよ。」
そう考えたシホちゃんでしたが
「なんでダメになっちゃったのかなぁ?」
と”そっち”の方が気になります。
「それはねェ」
と菖蒲は溜め息を吐きました。
「ニンゲンと動物とが結婚するのは、『動物虐待』だって言う人たちが出てきちゃったからなのよ。」
「あ~」とシホちゃんも納得しました。
「どうぶつぎゃくたいって、ニャンコとかカモとかを、いじめる人だよねぇ。そうだねェ、そんな人たちと一緒にされたらイヤだよねぇ。」
「でしょう?」
と菖蒲も頷きます。
「おじいちゃんが『動物虐待してるっ!』とか、言われたくないしさ。だから結婚は諦めたのね。」




