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くびなしオバケがやってきた!(12)

 「我(われ)のことを甘(あま)い甘(あま)いと言いやるが、ヌシとて大甘(おおあま)の魔王(まおう)であろうが。」

と神野悪五郎(しんのあくごろう)が、山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)に向(む)かって言い出します。

「菖蒲(あやめ)一人(ひとり)で行かせるよりも、河童(かっぱ)の頭領(とうりょう)から『水浮(みずう)きの術(じゅつ)』を伝授(でんじゅ)してもらったらよかろう、と知恵(ちえ)を出したのはオマエではないか。」


 そして神野悪五郎(しんのあくごろう)は、今度(こんど)はシホちゃんに向(む)かって

「シホちゃんのお母さんの肝試(きもだめ)しに出た鬼(おに)というのが、コイツだったのよ。」

とニヤリと笑(わら)います。

「いい子だから、是非(ぜひ)とも身体(からだ)を丈夫(じょうぶ)にしてやりたい、と言うてな。」

 ・ ・ ・ ・ ・

 山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)は、まず家(いえ)の家守(やもり)と段取(だんど)りを決(き)めます。

「まずはオヌシが布団(ふとん)に落(お)ちよ。あの子はオヌシを見慣(みなれ)れておるから驚(おどろ)くまい。」


 アオダイショウは、分(わ)かった、というように首(くび)を縦(たて)に振(ふ)ります。


 「よしよし。その後(ご)に吾輩(わがはい)が『邪魔(じゃま)をされた』『先(さき)を越(こ)された』と言いながら出て行(ゆ)き、負(ま)けを認(みと)める。この手(て)で行(い)こうかの。」

 ・ ・ ・ ・ ・

 「さんもとごろうざえもんも、しんのあくごろうも、やさしいねェ。」

とシホちゃんが感心(かんしん)します。

「魔王(まおう)っていうより、ザシキワラシとかナマハゲみたいな福(ふく)の神(かみ)みたい。」


 「そんな事は無(な)いぞ!」 「違(ちが)う、違(ちが)う!」

と二人の魔王(まおう)は首(くび)を横(よこ)に振(ふ)ります。

「我(われ)こそは日本一(にほんいち)の大魔王(だいまおう)、皆(みな)が畏(おそ)れる神野悪五郎(しんのあくごろう)なるぞっ。」

「吾輩(わがはい)が世界一(せかいいち)の大魔王(だいまおう)、皆(みな)がひれ伏(ふ)す山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)でアルッ。」

「じゃあシホは、ぜったいぜったい宇宙一(うちゅういち)ィィィ!」


 三人(さんにん)は顔(かお)を見合(みあわ)わせて、ゲラゲラと大笑(おおわら)いしました。


 「お母さんはねぇ、物知(ものし)り鬼(おに)は恩人(おんじん)だ、って言ってたよ。それに、せいしょうなごんのお話も聞(き)かせてくれたよ。ホタル、きれいなのに、昔(むかし)のひとは怖(こわ)かったんだ、って。」

とシホちゃんは山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)に教(おし)えてあげました。

「ありがとね。さんもとごろうざえもん!」


 お侍(さむらい)姿(すがた)の山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)は、顔(かお)を赤(あか)くして

「……ウム。」

と頷(うなず)き、頭(あたま)をポリポリと掻(か)きました。


 「うん? 照(て)れておるのか? 山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)、照(て)れておるのだな!」

と天狗(てんぐ)の神野悪五郎(しんのあくごろう)が茶化(ちゃか)します。

「はっはっはっ、これは愉快(ゆかい)だ。」


 大笑(おおわら)いする神野悪五郎(しんのあくごろう)でしたが

「しんのあくごろうも、ありがとね。」

とシホちゃんから言われると、ピタッと固(かた)まってしまいました。

「おじいちゃんとアヤメちゃんを、助(たす)けてくれて。」


 「それだけじゃないぞ。」

と今度(こんど)は山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)が反撃(はんげき)に出ます。

「神野悪五郎(しんのあくごろう)は、おばあちゃんの嫁入(よめい)りの夜(よる)にも、骨(ほね)を折(お)っているからなぁ。」


 シホちゃんはそれを聞いて

「えっ、しんのあくごろうは、ホネをおっちゃったの? 痛(いた)かった?」

と心配(しんぱい)しました。

「大変(たいへん)だったねぇ。」


 「違(ちが)う、違(ちが)う。」

と山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)が説明(せつめい)します。

「この場合(ばあい)の”骨折(ほねお)り”というのは、”物凄(ものすご)く頑張(がんば)る”という意味(いみ)だよ。」

 ・ ・ ・ ・ ・

 菖蒲(あやめ)は、幼馴染(おさななじみ)だった男(おとこ)の子が、結婚(けっこん)することになったのを知(し)りました。


 そのころ菖蒲(あやめ)は修行(しゅぎょう)を終(お)えて、既(すで)に神狐(しんこ)となっで神社(じんじゃ)で働(はたら)くようになっておりました。


 菖蒲(あやめ)は「目出度(めでた)やな!」とは思(おも)いましたが、幼馴染(おさななじみ)が別(べつ)の女(おんな)の子と結婚(けっこん)するのですから、モヤモヤした気分(きぶん)ではありました。


 けれど仕(つか)えている神様(かみさま)に相談(そうだん)するのは恥(は)ずかしかったので、昔(むかし)お世話(せわ)になって事情(じじょう)をよく知(し)っている神野悪五郎(しんのあくごろう)を訪(たず)ねてみようと考(かんが)えたのです。


 神野悪五郎(しんのあくごろう)は、菖蒲(あやめ)に

「よく来(き)た。」とも「何(なに)しに来(き)た。」

とも言わず、黙(だま)ったまま茶(ちゃ)を点(た)てました。


 菖蒲(あやめ)はその茶(ちゃ)を飲(の)むと、不思議(ふしぎ)に素直(すなお)な気持(きも)ちになれて、心(こころ)のモヤモヤを吐(は)き出すことが出来(でき)たのです。


 「子供(こども)の時分(じぶん)に、『けじめ』を付(つ)けさせなかったのは、我(われ)の落(お)ち度(ど)でもある。」

と神野悪五郎(しんのあくごろう)は言い

「宜(よろ)しい。手を貸(か)して進(しん)ぜよう。」

と菖蒲(あやめ)に約束(やくそく)しました。


 「幼馴染(おさななじみ)の新妻(にいづま)に会(あ)わせてやる。得心(とくしん)がいったら、新妻(にいづま)に礼(れい)を施(ほどこ)せ。いかずば捨(す)て置(お)き、直(す)ぐに席(せき)を立(た)て。」

 ・ ・ ・ ・ ・

 「ふぅん。それでアヤメちゃんは、おばあちゃんにお辞儀(じぎ)したんだねぇ。おばあちゃんが、おじいちゃんにお似合(にあ)いのお嫁(よめ)さんだと思(おも)ったんだねぇ。」

 でもさ、とシホちゃんには納得(なっとく)がいかない部分(ぶぶん)も残(のこ)っています。

「アヤメちゃんがおばあちゃんのことを、気(き)に入(い)らなかったら、しんのあくごろうは、どうしてたんだろうね?」


 「神野悪五郎(しんのあくごろう)は、ああ見(み)えて頭(あたま)が切(き)れる。」

と山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)がライバルを評(ひょう)します。

「菖蒲(あやめ)は九分九厘(くぶくりん)、身(み)を引(ひ)くであろう、と分(わ)かっていたのだよ。」


 山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)は、こう言い切(き)ってから

「あ! シホちゃん。この場合(ばあい)の『頭(あたま)が切(き)れる』は『頭(あたま)が回(まわ)る』と同(おんな)じで、『知恵(ちえ)がある』という意味(いみ)だぞ。それから『身(み)を引(ひ)く』は、『諦(あきら)める』と同(おんな)じな。」

と付(つ)け加(くわ)えました。


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