くびなしオバケがやってきた!(11)
「おじいちゃんが肝試しの夜に、アヤメさんが出てきたのはどうして?」
とシホちゃんが訊きます。
だって、仲良しだったのに死んだことにされて、シホだったら頭にきちゃうよ! と思ったからです。
「そのうえ、おじいちゃんは『失格!』だったんでしょう?」
アヤメちゃんが出てきたのに、途中からカッパと入れ替わるなんて、反則すぎです。
「いや、それは……」と神野悪五郎は口ごもってしまいました。
言いにくい話のようです。
「おじいさんはシホちゃんに嘘を吐いたんだよ。」
けれども、山ン本五郎左衛門がバラしてしまいました。
「おじいさんは、失格なんか、したわけじゃないんだ。」
「おじいちゃん、シホにうそついたの? ……なんで?」
おじいちゃんからウソをつかれていたなら、悲しくなります。
シホちゃんの問い掛けに、山ン本五郎左衛門は
「理由は二つある。」
と答えました。
「一つ目は、もしシホちゃんが肝試しの途中で怖くなって、お母さんやお父さんが寝ている部屋に逃げてしまっても『おじいちゃんも失格だったから、同じだよ。大丈夫。』って、シホちゃんを慰めるためだな。」
そうだったのか、とシホちゃんは嬉しくなりました。
おじいちゃんの『嘘』は、シホちゃんの気持ちを考えた上での優しいウソだったからです。
シホちゃんが笑顔になったのを見て、山ン本五郎左衛門は一つ大きく頷くと
「そういう優しい気持ちから出た嘘は、嘘は嘘でも『方便』と呼んだりするな。」
そして神野悪五郎を指差して
「アヤツは顔こそ恐ろし気だが、実は甘い天狗でな。菖蒲から、シホちゃんのおじいさんの肝試しの夜には私が行きたい、と頼まれると、駄目だとは言えなかったのよ。」
と言いました。
山ン本五郎左衛門によると、本当は――
・ ・ ・ ・ ・
霊狐の菖蒲は、神狐になる修行をしている最中でしたが、仲良く遊んだおじいちゃんが肝試しをすることになったと聞いて、「その時なら、もう一度会える。」と考えました。
それで魔王の神野悪五郎に
「私を行かせてください。あの子はとても元気だけど泳げません。水に近寄らぬよう、言って聞かせておきたいのです。」
と頼み込みました。
難しい頼み事だというのは分かっていましたから、必死で頭を下げたのです。
神野悪五郎は、菖蒲の必死さに胸打たれ
「よろしい。我が引き受けた。大船に乗った心算で待っておれ。」
と言いました。
それからは神野悪五郎は大忙しでした。
菖蒲が修行している先の神様に許しをもらいに行くやら、河童の頭領を呼びつけて『水浮きの術』を伝授するよう言い含めるやら、あちこちに手を回しました。
そんなこんなで肝試しの夜を迎えます。
「行くと決めた以上は、迷わず行け。」
という神野悪五郎の言葉に背中を押され、菖蒲はおじいちゃんの待つ奥座敷に入りました。
河童の頭領も一緒です。
幼馴染が河童と一緒なのを見て、子供のころのおじいちゃんは物凄く怒りました。
「やい! カッパ。アヤメを水に引き込んだのに飽き足らず、カッパの世界にまで連れて行ったか! 嫁にしようと企んだな。」
慌てたのは菖蒲です。
「違います! 違うのです。」
菖蒲から事情を打ち明けられて、納得したおじいちゃんは、河童の頭領に平謝りに謝りました。
「事情も知らず早合点して、申し訳ございません。」
河童の頭領は「かっかっかっ。」と大笑いすると
「汝ら二人、互いに良き輩に恵まれたものよのぅ。」
と、おじいちゃんに『水浮きの術』を施してくれたのでした。
・ ・ ・ ・ ・
「これが本当にあった事だ。」
と山ン本五郎左衛門は言うと
「さて、もう一つの理由は」
と言葉を切りました。
おじいちゃんの『肝試しの夜』の冒険に驚いたシホちゃんは
「もう一つのりゆうは?」
とゴクリと唾を飲み込みます。
「受け狙いのギャグだな。」
と山ン本五郎左衛門は軽~く言い放ちました。
「逃げ出して、『失格!』と怒られたと言えば、シホちゃんが笑ってくれるだろうと企んだんじゃな。」
なんだそれ?
とシホちゃんは呆れました。