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12 心置きなく……眠れるようです

神気が遠ざかり、誰かがハア~と息を吐きだしました。いえ、誰かではなく陛下ですわね。


「やれやれ、神々にもいろいろあるのだな」

「そうですな。ですが陛下、ただいま知られた私の名ですが」

「皆まで言わずとも良い。わかっているからな。というよりも、神名など怖ろしくて呼べるものか」


陛下の答えにお父様はニヤリという風に笑いました。


「さすが陛下です。さて、それではこの後のことですが、神様の御厚意により、見張りに人員を割く必要はなくなりました。速やかに普段の当番のみの状態に戻したいと思いますが、いかがか?」


なのに、すぐにすました顔で実務的なこと言ったお父様のことを、陛下は呆れた目で見つめました。


「其方、あれほどのことを神に言っておきながら、御厚意などと言うのか」

「一応あやつはこの世界の神ですから。それに今の私は人でございます」

「そう、それだよ。私も王族としてライフェン家のことは聞いているが、メイティアだけでなく其方たちまでもが神だったとはどういうことだ」


……ああ、そうでしたわね。この世界にこれ以上の混乱を広げないために、ライフェン家の男も神がおりていることは内緒でしたわ。


「まあ、先ほどの会話を聞いていたら、誤魔化しても騙されてくれないよな」

「そうだな、サラスティン。お前の言う通りだろう。それにどちらにしろ、此度のことが片づいたら、陛下に話すつもりではあったのだし」


サス兄様の言葉にギル兄様も同調して頷いています。


「陛下、先ほども言いましたが、あの馬鹿がこの世界に置いていった余分な神気は、ほぼ回収が済みました。その回収の媒介となる王女の夫が只人で、務まると思っておられたのですか」

「そういうことか。相分かった。どちらにしろ、精神は神であっても、肉体は人であるのだろう。それならばいままで通りということで、構わないな」

「「「はい、陛下。仰せのままに」」」


お父様、ギル兄様、サス兄様は座ったまま陛下に頭を下げられました。陛下は鷹揚に頷くと視線を私へと向けました。


「メイティア、彼らの拘束は明日になったから、今日はもう休もうか」

「ええ、そうですね」


私は陛下が差し出した手に自分の手を置いて立ち上がりました。歩き出そうとして、ハタッと気がついて立ち止まりました。エスコートをしようとした陛下も立ち止まり、聞いてきました。


「どうかしたのか、メイティア」

「いえ、ふと思っただけですの。私はどの部屋に行けばいいのかと」


本来なら王太子妃の部屋に戻るべきなのでしょうが、あの部屋は私が使っていい部屋だと思っていません。そうなるとどこかの客室を借りるなどするべきなのでしょうが、それでは周りに何かあったと思われてしまいます。もちろんお父様たちとライフェン公爵家に戻るなど、論外ですし。


「そんなことか。私の部屋でいいだろう」


陛下は事も無げに言われました。私は……引いた眼で陛下のことを見つめてしまいましたわ。


「陛下、そんなことを、私が許すわけがないだろう」

「そうそう。さっきも言ったけど、まだ何も解決はしてないんだからさ」

「まさか、メイティアに無体なことを強いるつもりではありませんよね」


お父様、サス兄様、ギル兄様の順に言葉と共に詰め寄られた陛下は、拗ねたような目をお父様たちへと向けました。


「うるさい。いいじゃないか。メイティアと一緒に寝たって。これまで我慢してきたんだぞ」

「それとこれとは話が別です。陛下とメイティアが夫婦になるのに反対はしません。ですがメイティアとどうこうしようとすることには、許可はだせませんな」

「そうですよ。ちゃんと結婚式を挙げて名実ともに夫婦になったのなら、認めますとも」


お父様たちに冷ややかな視線を向けられて、陛下はムッと眉根を寄せられました。


「何もしないと誓うから……一緒に眠るだけでも駄目か」

「「「駄目に決まってます!」」」


再度お父様たちに言われ、陛下は縋るような目を私へと向けてきました。


「メイティア」

「わたくしもご遠慮願いたいですわ。本日は本当に疲れましたの」


ニッコリ笑顔で答えましたら、陛下は今度は恨みがましい目を向けてきました。


「フォルグワンダとの初夜を迎える気でいたのに」

「陛下、わたくし、怒りますわよ。あれは本当に最後で、ギリギリのことでしたわ。フォルグワンダ様の出方を探るためだったのですわよね。ですから陛下やお父様たちが、隠し通路にてお待ちになっていらっしゃったのでしょう。幸いにもフォルグワンダ様は最後の最後で正しい選択をなさいましたわ。それよりも私からしてみれば、油断を誘うためでしたら夜会まで開くべきだっと思いますのよ」

「そこまで無駄な金はかけられん」


私は殊更ハア~と大きくため息を吐きだしました。


「そう思うのでしたら、結婚式を挙げる前に終わらせていただきたかったですわね。ところで、この塔には寝室もありましたわよね。わたくし、今夜はそこで休ませていただきますわ」

「えっ、メイティア?」


私の宣言にサス兄様が驚いた顔をなさいました。さすがにお父様とギル兄様は察したようで、頷いておりますわね。


「それがいいだろう。ここが一番安全です」

「そうだな。それならばメイティア、手を出しなさい」


お父様に左手を預けると、何やら呟かれたあと、私の手の甲に紋様が浮かびあがりました。


「今から半日、この塔の主となる許可証のようなものだ。優先順位はメイティアが一番となったから、安心して休みなさい」

「まあ、ありがとうございます、お父様」

「おい、私の許可は?」


陛下は憮然とした顔で言いました。


「必要ないだろう」

「そうだな」

「必要ないな」


そう言うとお父様たちは、渋る陛下を連れて魔法陣のほうへと行かれ、この塔を後にしたのでした。


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