11 神々のことは神々でお願いします
ロズニツァ様はさも当然というようにおっしゃいましたけど、色々おかしいですわよね。私、指摘させていただくことにしますわ。
「まあ、私が神界を離れる十五年前は、平穏な世界でいましたのに。それが怠慢からくるものだとは、知りませんでしたわ」
私がコロコロと笑い声をあげましたら、ロズニツァ様は苦いものを口に含んだような顔をなさいました。
『メル……ゴホン、メイティア。あー、其方も安寧を享受していたではないか』
「享受していた、ですの? おかしいですわね。わたくしの一族は大事なお役目がある故、神界に於いてはゆるりと過ごすように言われておりますのに。安寧に過ごすのは当たり前のことではありませんの? それとも、他の方々は神界の平穏までも、我が一族に担えとおっしゃるのかしら?」
小首をかしげながらそう言えば、ロズニツァ様は黙ってしまわれました。
「よろしいですわよ。わたくしが戻るまで数十年ございますけど、そろそろ祖父様がそちらにお戻りになりますもの。祖父様に一族への伝言を頼めば、皆様張り切ってくださいますでしょう」
『待ってくれ。其方の一族に出てこられると』
『彼を待つまでもない。私が責任を持ってその役目を遂行しよう』
ロズニツァ様が蒼い顔をして言いかけたところに、遮るように声をあげられた方がいらっしゃいました。ロズニツァ様はそちらを振り向き、絶望に染まったような表情をなさいました。そのロズニツァ様を押しのけるようにして、新たな方が鏡へと映りました。
『久しいな。其方らには余計な苦労を掛けてしまていったようだな』
現れた方にライフェン家一同は立ち上がり、礼をしました。
「長様、こちらへのお越し、恐縮にございます」
『なに、こちらこそ今までこのようなことになっていると知らずにすまなかった。私が他の世界を構っている間に、いろいろやらかしてくれていたようだ』
そう言ってジロリとロズニツァ様を睨みつける長様。ロズニツァ様はその視線を受けてブルリと体を震わせました。
『どうやら神界も代替わりをした方がよさそうだな。主神役を持ち回りにしたことの弊害が、このようなことを起こしたのだろう』
「そのようですわね。今は……ああ、ダルニスク一族でございましたか。あの一族は『事なかれ主義』でいらっしゃいましたわね。神界を統括する立場でそれでは困りますわ」
『其方の言う通りだ、メル。それで、聞かせてほしいのだが、なぜ我が一族がそちらの世界に、人として降りているのだ』
「こちらはそこのアスティパレアが管理する世界なのだが、隣にいるフォレガンドがバカな唆しをしたのだ。それに乗ってしまったアスティパレアがやらかしてしまい、その調整のために我が一族が駆り出されているというわけです」
お父様の返答に長様は厳しい視線をアスティパレア様、フォレガンド様、ロズニツァ様へと順に向けました。お三方は身を竦ませていますわね。
『やらかしとは?』
『あ、あの、それは……!』
長様の問いに威圧に負けて口を開くことのできないアスティパレア様、フォレガンド様に代わり、ロズニツァ様が伝えようとなさいましたが、長様の視線に口を閉じてしまわれました。
「その姿のまま人界に下りて、この世界に子種を置いてきてしまったんだ」
『……なんだ、それは!』
長様は射殺しそうな目でアスティパレア様を見ました。というか、多分見ているのでしょう。鏡には長様とロズニツァ様のお二人しか映っていませんので。
「一つ聞きたいのですが、長様はこのことをご存じなかったのですか」
『知らん』
「本当ですか。上は長様の許可を得たと言っておりましたが」
『私は知らぬ。というよりも、私に知られぬようにするために、神界に戻れぬよう、厄介な世界の調整を押しつけたのだろう』
長様はロズニツァ様を睨みつけながら忌々しそうにおっしゃいました。
『それで、この地の調整に、後どれくらいかかるのだ』
「最初の頃のような神力に振り回されるような者は、この五代ほど出ておりません。なのでもう五代ほど様子を見守り、それから我ら一族は手を引いてもよろしいかと思います」
『五代というとあと約百年ほどか』
「そうなりますね」
長様の言葉にお父様が頷いて返答をなさいました。そのお父様に長様は苦笑を浮かべて言われました。
『それにしてトルス、お前までも下りているとは知らなかったぞ』
「はっはっはっ。少しばかし羽を伸ばそうかと思いましてな」
『そういうことであったか。それではトルスが戻るまでの数年はこ奴らで遊んでおくことにしようか』
お父様の含みを持たせた言い方に察した長様は、余計な確認をなさいませんでした。
そうです。ここには陛下がいらっしゃいます。神々の世界のことなどを、迂闊に話すべきではないのです。ましてや、神名を話すなど有りえないことです。さすがに長様は私の神名もお父様の神名をすべて言うことはありませんでしたわね。
『では、また会える時を待っているぞ』
長様がそう言うと鏡は普通の鏡に戻りました。鏡は覗き込む私たちの姿を映すだけになりましたわ。




