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鬼と蜘蛛~泥の中で咲き誇る華~  作者: 桜 千夜子
いとあはれなり、紅蓮華よ
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 紅蓮華は、桃華の視線から逃れるように祠に向けた。

――俺を封印したと言われている男…

 当時の事を思い出すと…鬼になった今でも苦しくなる。

そっと手に温もりを感じた紅蓮華は、歴代の蜘蛛の妖魔とは違う華奢な少女が手を繋ぎ家へ誘っている事に気が付いた。そのまま、素直に付いていく紅蓮華に桃華はそっと微笑んだ。

――可愛らしい…。

 鬼だけど、まるで大型犬の様な様子に、桃華は胸が高鳴った。


 家のリビングまで誘導し、祖母の仏壇に紅蓮華は危なくありませんよ。と報告した。

そして電気の下に茫然と佇む紅蓮華を改めてみて、頬が赤くなった。

「グレン…。あの…。」

「何だ。」

「消えませんか?」

「え?」

「消えないで、ここに居てくれますか?」

 紅蓮華は必死になる桃華を見て首を傾げたが、大人しく頷くと華が開くように笑顔を見せ、どこかに走り去った。その間、仏壇の写真を見つめる。

 つかの間、桃華の祖母の小さい頃を思い出した。桃華とは違い、お転婆で気が強く時折異常が無いかこちらを睨みつけていた。”お前がここに居るから、我が一族はここから離れられぬ。だが、お前が害を成す事は許されぬ。私が監視をするのだ。大人しく封印されるがいい!”紅蓮華は、その気の強さを好ましく思ったものだ。つらつらと考えていると、桃華が何かを持ってきた。

「あの、父のですが。」

 桃華はタンスを漁って、紅蓮華でも着れそうな甚平をつきだした。

「うむ。」

 紅蓮華は特に気にもせず腰布を落とし、きゃぁという桃華の声が聞こえるも、甚平に着替えた。

「それで…長い間岩に居た所…お疲れでしょうけど…あの祠の事知りたいんです。」

 また、桃華は紅蓮華の手を掴んでソファーに座らせ自分も隣に座った。僅かに、ソファーの座り心地に驚いたが求められるままに、あの日の事を思い返した。


 桃華が家を去ってから暫くの後、1人の少年が庭にフラフラと入ってきた。

少年は”桃華ちゃーん、どこに居るの?”と泣きながら家の扉と言う扉を叩いて回っていた。

 その内、紅蓮華のいる巨大な岩と祠に引き寄せられた。祠の前に座った少年は”桃華ちゃんと、会いたいです。桃華ちゃんと結婚の約束をしたのです。”と祈り始めたのだ。

 すると、今の今まで紅蓮華を無視し、紅蓮華の霞を浴び続けていた【アイツ】は声を発した。

『お前の気持ちは良く分かるぞ。お前の望み通りにしてやろう。』

 昔は、若さゆえの傲慢な正義感を振りかざしていた【岸嶋きしじま 新丈しんのじょう】。

 岸嶋新丈は、あの少年に文字通り取り憑いてしまった。顔は無表情になり、ぶつぶつと独り言を言い始める”僕を置いて居なくなるなんて許さない。必ず僕の物にしてやる。”紅蓮華は、怒りで身体が燃え上がるような気がした。それもそうだ。紅蓮華の妻に言い放った言葉と同じ事を呟いて居たのだ。このままだと桃華が危ない。久しぶりに気にいった人間を守りたいと思った。我妻と同じ目に合わせる訳にはいかないと。渋々桃華に納得させるように渡した自分の気を込めた岩。それより紅蓮華はしばしば岩と意識を同調させて見守ってきたのだった。


「グレン!」

 話を聞いた桃華は、もっと紅蓮華の話を聞きたいと思ったが、遠い昔を思い出して辛そうにしている紅蓮華に何も言えなかった。そして、自分を見守っていてくれていた事に心底喜びを感じた。

 桃華は、紅蓮華の頭を抱きこんだ。一体この鬼はどれだけの時間を独りで過ごして、妻や子の事を想っていたのだろうか。通常の人ならきっと気が狂っていただろう。鬼と成り気が狂う事も許されず、妻や子がいる土地に居続ける。どれだけ寂しかったのだろうか。

「有難う。長い間見守ってくれて。それから、今の私がここに居られるのはグレンが居てくれたからなんだよ。」

 小さい時鬼封村の住人から、距離を置かれていた時話相手になってくれた心やさしい鬼が居たからこそ、自分はひねこびずに生きていられる。グレンが居てくれて良かった。

紅蓮華に伝わるか分からないがポツポツと自分の言葉で感謝の意を伝えた。

やはり、あの金色の糸のように本当の心は綺麗なのだと思う。ただ、綺麗なだけに一度噴き出した憎悪に染まりやすい。糸を紡いでいる時も気が付いたのだ。真っ白な心は、悪に染まりやすい…と。

 桃華の肩に僅かに湿った感触がした。あの美しい金色の瞳から涙が出たのであろうか。しかし、あえて気が付かないふりをしてそっと赤い髪を撫でた。


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