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鬼と蜘蛛~泥の中で咲き誇る華~  作者: 桜 千夜子
いとあはれなり、紅蓮華よ
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祖母の懐かしい文字に、桃華の心は穏やかになる。

――あなたがこれを読んでいるという事は、私はこの世にはいないか、病気の為私の意思が伝えられない状態にあるのだと思います。貴女には、まだまだ教えたい事がいっぱいあります。決して訓練を怠ることなく精進しなさい。将来、起こるかもしれない事に備えて。


 次々とページを捲る。1ページごとに、蜘蛛の糸で紡がないと捲れないようになっていて、ページを進むごとに難しい高度な技を使用して紡がないと見られないようになっている。 つまり、見たかったらより訓練をしていかなくてはならないようになっていた。

 既に、子供の頃から厳しい技を教わっていた為、1/3までは順調に読み進める事が出来た。

次のページに移ろうとすると、ついに今の状況では見る事の出来ないページに辿りついた。

 複雑に糸が絡まっており、この糸を紡ぐには今より複雑で繊細な方法が必要だ。

今日は、もう無理だろう。掃除の続きをしないと。

 ホコリを新聞紙などに集めて捨てて、水で浸して絞った雑巾で拭うと押し入れも綺麗になった。仏壇の祖母の写真も綺麗に拭き取る。

 他の部屋の掃除も終え、くたくたになった。写真は明日取りに行くとして、ご飯を食べる事にした。彩子が置いていった荷物にはレンジでチンするだけのお弁当やレトルトがある。1人じゃ寂しいからと岩の欠片を向かいに置いてご飯を食べた。



 そして、寝る前に紅蓮華の岩に挨拶をしようと縁側に出た。

暫く、糸を紡いでいないせいか岩からは澱んだ空気が漂っていた。その空気に触れると、ねっとりとしているような気がする。しかし、何か凄い違和感がある。

 桃華は、靴を履いて庭に出た。


「あ…。」


 その原因は直ぐに分かった。


岸嶋きしじま 新丈しんのじょう』の小さな祠が、壊れて朽ちていた。

知らず知らず、薄ら寒い予感に腕を摩る。


「どういうこと…?」

――アイツはどこかの坊主がやってきて、その想いに応えて憑いて行ったぞ。

久しぶりに聞いた声だった。低くて、やけに官能的な声。

「もしかしてグレン?グレンなの??」

 桃華は、岩の方へ向きそっと指を這わせた。

「お願い、応えて。」

――久しいな、桃華。

クックックと楽しげな声が響く。

「グレン!」

――とは言っても、俺はずっとお前の成長を見てきたが…。

「あ…。」

スカートのポケットから岩を取り出す。

 

 濃密な気配が一か所に集まる。黒い霞が意思を持ったかのように徐々に集まり、人の形をとった。桃華は、ごくりと喉を鳴らした。

 やっとグレンの姿が見られるの?


 やがて、霞が人型に吸収された後現れたのは…




 圧倒的な力を持つ――鬼――


 足がガクガク震えて、自分では絶対に叶わないであろう存在が立っていた。

髪の毛は真っ赤に燃える炎のように紅く、肌は死人のように白い。身長は180センチ程で、身体は細身ながらに筋肉がガッシリ付いておりお腹は六つに分かれている。

腕は逞しく、血管が這っている。その手には、金色の鋭い爪がついていた。

腰には申し訳程度に布が巻かれており、太股も筋肉が付いていて足は裸足だが、手と同様の

金色の長く尖った爪が付いている。

 ゆっくりと、紅蓮華の顔を見ると…目は細く金色の瞳にスっと整った鼻。唇は薄く皮肉げに歪んでいる。その唇から二本の犬歯が覗いていた。

 頭には、太く立派な角が二本生えていた。


 要するに…いままで桃華が見た事も無い程の美貌の男が居た。


「グレン?」

「ああ。」


 桃華が、そっと両手で紅蓮華の頬を包んだ。見た目の白さとは逆に温もりを感じた。

「ようやく、貴方に会えました。」

桃華の微笑みに魅入られた紅蓮華は、桃華の手をそのままにニヤリと笑った。

「泣かなかったな。」

泣きはしなかったが、桃華の足はまだ震えている。普通の者だったら失神してしまうほどの威圧感である。

「流石蜘蛛の妖魔の子孫。」

「でも、どうして?封印していたはずなのに。」

「封印など、最初からされていなかったのだ。いや、封印らしきものは存在したが直ぐ後に破れたのだ。」

「う…そ…」

 紅蓮華は桃華の手を掴んで頬からどかした。想像していたより細く美しい指に僅かに紅蓮華は動揺した。

「ただ、俺は。愛した息子と妻の遺体があったこの土地を離れたく無かったのだ。」

 美しい金色の瞳が揺れる…桃華は以前子供が居た話を聞いた気がした。何故だか酷く胸が痛む。


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