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第72幕  乗り越えなければならないモノ 前編

今回のお話は会話でとても長いモノです。


あまりに長いので、2つにわけました。


「うわ。読むの長っ;」と感じてしまわれるかもしれません。

本当に申し訳ありません。

今回のお話は今後の展開に大きく関わるものなので…;;


本当に謝ることしか出来ないのですが…それでもご理解いただけますと幸いです;;



 天楽から告げられた3日後――。

 まもなく12の刻となる。

 結局、秋たちの方が先に『ブレウラ門』前に到着していた。



「あれ…ごめん、待たせちゃったね」

 それは待ち合わせをしていた友達に謝るかのような――さりげない天楽の声。

 確かにその通りなのだが――。一緒に来ていたアダやアックスは激しい違和感を覚えずにはいられず、セスカはただじっと心配そうに、秋を見つめた。

「お前はいつもそうだったじゃねぇか。僕が待ってるね…とか言ってて、いつも俺か優愛菜が先に来ててさぁ」

 秋も待たされた愚痴を――天楽に言い。それは何年も離れていた友人同士の会話ではない、変わらぬ親しさと温もりがあり――当事者以外の者たちは、その辛さを隠しきれない。

「そうだったっけ…ごめん、ごめん」

 天楽も申し訳なさそうに不貞腐れる秋に謝って――。

 


 でも何かが違うとすれば――ここは異世界で、秋と天楽は敵同士と言うことだけだろう。



「今日は『アカデメイア』はお休みなんだね。ここに来る道も人が少なくて寂しかったな」

 天楽がそんなことを秋に言った。

「…今日は臨時休校ってやつらしい。お前らが来るからな」

 秋はその理由を隠さず天楽に話した。天楽は「なるほどね」と呟き、苦笑いを浮かべた。


 

 天楽はアラヤを伴っていた。

 秋はそのことについては天楽に何も言わないでいた。

 天楽もまた、セスカたちがいることに何も触れずに、「それ」を切り出した。



「この間はごめんね…まさかナユタがあんなことするとは思わなかった」

 そんな言葉で済むことではない。それは天楽も秋もよくわかっている。

「……ナユタはどうした?」

 秋が尋ねた。声音は少し緊張を帯び――本題に近づいたことを示している。

「うん…死んだ。というより、僕らが止めを刺した…というべきかな」

 天楽の声も――先ほどまでの高さはない。低く――悲しみの感情を含んでいた。

 これにはアックスが反応した。

 カエナを殺そうとした者への弔いは示さない――そんな頑なな態度で、静かな怒りを天楽に向けていた。



「……これ…この視線だよね。これが「今」の僕らなんだ」

 アックスの射抜くような鋭い視線を感じ取り――口元は笑みを絶やさないものの、表情は険しさを表している。

「カエナも危なかったのは事実だ。実際、一度は死んだと言っていいらしい…大量に流れ出た血の回復が、今も間に合ってないほどだ」

 秋も事実を隠すつもりはなかった。

「そうか…でもカエナが助かって良かったね」

 安心した様子の微笑みを浮かべたかつての親友に――秋はその本心を図りきれずにいた。

 本当に心からそう思っているのだろうか?と。



「僕は…秋に訊きたいことがあったんだ」

 困惑する秋の心中をよそに、天楽は淡々と会話を続けた。

「あぁ、なんだよ?」

 しかし天楽も――緊張を隠せず、気持ちを落ち着けるかのように、小さく息を吐き出したあと――その言葉を口にした。

「秋はどうしてこの世界に来たと思う?」



 秋もその問いに――その答えを求めない日はなかった。

 セスカと会うため――この世界を護るため――皆と会うため。

 もっと他の理由があるから――無限に答えは浮かんだ。そしてどれも真実のような気がして、秋の中に蓄積していった。

「…わからねぇよ」

 秋は――そう答えるしかなかった。明確な「答え」は秋の中にはまだ――ないのだから。



「僕はね…この世界で生まれ変わって…もう一度やり直す機会をもらったって思ったんだ。

 来たばかりの…そのときまでは……」

 天楽は秋から視線を外し、顔を俯けた。

「…10年前だったんだろ?」

「うん、そうだよ。僕も君と直人さんと同じロバロ公国に来ていたんだ。

ただ10年前は…その国は内乱の真っ只中だったけど」

 それにはセスカ、アックスが驚きの表情へと変わった。

 この2人は――その内乱を経験している。



 秋は2人の感情に配慮しつつも、視線は天楽に向けていた。

 今日は、この天楽と話をするために「ここ」にいるのだ。

「…学校で、僕は1人の友達がいじめられているところを助けた。

 って…これは知ってるかな?」

「あぁ…お前のお母さんが教えてくれた…そのいじめから助けた友達が話してくれたことだって言って……」

「そうか。金田くん、母さんに話してくれたんだ…それならいいや。

 ちょっと心配してたから…他には?」

 


 天楽は自分が失踪したことを知りたがった。

 秋は天楽の両親から聞いた話、ここにきて直人から聞いた話などを全て「天楽の母親から聞いた」ということにして、天楽に話して聞かせた。



「そっかぁ…あいつら転校を…ね」

「それ聞いてどう思う?」

「どうも…ただ…僕はいじめを受けている時に周りも…助けることに協力してくれてたらって思う。皆ずっと黙ってたから……それが悔しくて、少し驚かせてやろうって…川に行ったんだけど。死ぬ勇気なんて本当はなかったんだよ。皆を驚かせればそれでよかった。

 何もしてくれない先生や学校をびっくりさせたかった…。 

 結局…心配してもらいたかっただけなんだろうけど」

「それは…仕方ねぇよ。でも…俺にぐらい話しても良かったんじゃねぇか?」

 寂しそうに自分を見つめる秋に気づき――弾かれるように顔を秋に向けた天楽は――しかしすぐ視線を逸らした。

「……秋には…元気な僕の姿を見せたかったから。こんなことで落ち込んでる僕を見せたくなかった……」

「…親友…じゃなかったのか?それともそのときから俺のこと?」

 優しい言葉をかける秋に、天楽はますます顔を逸らす。

「そのときはまだ秋のことをはっきりと意識はしてなかった。好きとは感じていたけど…。

ここに来てはっきり意識するようになった…から」

 秋の頭の中で、直人の言葉が思い出される。

 本当に「デウス」というやつに、利用されているだけなんじゃないだろうか――と。



「…僕は川原に立って「逃げたいな」って目を閉じて呟いて…次に目を開けたとき、この世界の…ロバロ公国のとある村にいた。

 最初何が起こったかわからなくて。すぐにエクという女の子が僕を見つけてくれた。

 不思議と言葉も通じるし……エクは自分の親に僕を合わせてくれたあと、その人たちからこの世界のことを聞いた。

 漫画とかで読んでいた「異世界」じゃないかって思ったとき、僕はここで人生をやり直すために神様が連れてきてくれたと感じた。

 すぐに秋と優愛菜の顔が浮かんだけど…ここでしっかりと生きて、いつか堂々と2人に会えるようになりたいって…そんな都合のいい事も考えた。

 でもね、それはすぐに裏切られた。

 昼間にこの世界に来て…夜になってその村は、ロバロ公国軍に襲われた。

 反乱軍に通じているという疑いを掛けられていたみたいでね。

 僕に優しくしてくれた村の人たちは皆捕まった。

 エクはロバロ軍の連中に連られて。僕はそれを助けようとしたときに、軍は突然現れた『ディアボロス』に襲われて全滅した。

 捕まった村の人も…エクも……兵隊も皆…食べられて。

 


 僕も食べられそうになったけど……そのとき「デウス」に助けられたんだ。

 他に頼る人もいなくて、デウスと行動を一緒にしてた。

 デウスは僕が話したことから、僕が3000年前の過去から来たこと。

 僕には『アトスポロス』としての高い能力があるということを教えてくれた。

 もちろん詳しくこの世界の状況も教えてくれたよ。でもね。

 デウスはイロアス協会という存在も教えてくれて、そこへ行くように勧めてくれたんだ。

 「今自分がやっていることは、僕らを選んだ『地球ガイア』に反することだから。

 それに君を巻き込むわけにいかない」って言って……。

 僕はもう少しデウスを見たくなった。そして行動を共にして…段々わかってきた」

「何がわかったんだ?」

 長い天楽の話のあと――秋が天楽に問う。

 たぶん一番、天楽に訊きたかったこと。

「どうしてデウスと一緒に行動しているか」ということ――。



「デウスはね。一度完全にこの世界を「破壊」しようとしてるんだ。

 自分の力では、『地球』を破壊するまでに至らないけど、『ブルゾス』と呼ばれる『霊長意識集合体ミュトス』を含んだ『万物意識集合体ガイア』を破壊出来れば、全てを無に帰して、全てをやり直せるって…本気でそう考えてる人なんだよ。

 でも僕は違う。

 結局、進化した人間の「自我」の意識が強くて、『万物意識集合体ガイア』に戻れないようになってしまったのなら、『霊長意識集合体ミュトス』に自覚させることが出来ればいいんじゃないかって。

 『万物意識集合体ガイア』の魂に戻れって。

 それが駄目なら、『万物意識集合体ガイア』から『霊長意識集合体ミュトス』を完全に独立させて、人間を見守る霊的な存在とすれば、人間や他の生き物に害を成すことなく、

万物意識集合体ガイア』ともうまくやっていけるんじゃないか。ってさ」



「それをイロアス協会の人とか…こっち側の誰かに話したことはあるのか?」

 秋は天楽に――問いかけた。

 その話には、天楽がこちらへ戻る――そのきっかけを含んだ部分があったからだ。

「…それはない。デウスには話したよ。それもアリかもしれないって言ってくれてる。

 たださ。実現出来るだけの方法がわからないんだよ。

 そんなんじゃ話してもただの絵空事で終わっちゃうから……」

「……話してみないか?お前のその考え方を……」

「…無理だよ」

「どうしてっ!?」

「10年前の繰り返しは…懲り懲りだ」

「……俺がいてもかっ!?」

 その瞬間。話の間、ほとんど顔を向けなかった天楽が――秋を凝視した。

 しかしその瞳は、悲しみに満たされていた。

「でも秋には…セスカが…後ろにいる仲間がいるんだろう!?」

「……あぁ…いるな。だから何だ?」



 天楽は肩を大きく上下させ、大きく息を吐き出した。

「僕にも、こっちに仲間がいるんだ。1人減ってしまったけど…プライドが高くて、自分勝手だけど…大切な仲間だよ」

 突然の天楽の笑顔に――秋と――そしてアラヤが驚いた。

「僕には僕の考え方がある。秋にも自分の考え方があるだろう?

 そして僕らにはそれぞれ大事な仲間がいる……そしてそれは敵同士の立場にある。

 それは仕方のないことだよ…変えられないんだ。どちらかが歩み寄らないとね」

「それは…俺がお前の仲間になる…ということなのか?」

 秋が天楽にそう言って。セスカたち仲間が――心配そうに秋を見た。

「天楽側に行くことはない」と言われても、「もしかしたら」――そんな考えがないわけではない。



「僕は君たち全員が、僕たちの仲間になることもいいと思ってる。

 デウスのやり方に問題はあっても、僕の考えに賛同してくれる人たちは大歓迎さ」

 


 秋は――天楽の変化を感じ取った。

 10年前――自分たちの世界では4年前のいじめが起因しているかもしれない。

 そのせいか自分の考え方を拒絶されることを、天楽は何より恐れてる。

 だからイロアス協会という大きな「学校のような」存在と話し合うことはせず、仲間を集めようとしているのかもしれない。

 自分の考え方を全て受け入れてくれる「友達」を。

 初めはそれを「じぶん」に求め、そして一度拒絶されると、今度は秋の仲間たちにも求める「態度」をとっている。しかしそれは拒絶されることを前もって覚悟の上、自分が傷つくことを最小限に留める自衛策でもあるのではないか――。

 昔から――天楽にはそんなところがあったけど――。



「天楽、お前が折れろ。お前が歩み寄れ。俺たちの仲間になれよ…。ずっとお前だけを見ていられるわけじゃないが、お前だって大切な俺の友達だ。それは今も昔も変わらねぇ。

 お前のその考え方、俺もやってみる価値は十分にあると思う。だったら実現させてみようぜっ!!」



 天楽は両目を限界まで大きく見開いて――10年前――否。4年前より更に成長した「親友」の姿をしっかりと見つめた。


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