第73幕 乗り越えなければならないモノ 後編
後編です。長い会話がまた続いてしまいます。
読まれることが大変かもしれませんが…;
本当に申し訳ありません。
ああ。秋は変わってない。4年前と――全然変わらない――全部包み込んじゃうんだ。
しかも――。
秋の仲間たちまで、僕を見つめてる。さっきまでの――僕を「敵」としてじゃなくて。本気で秋と一緒に僕の考え方を認めてくれて――僕を仲間として受け入れる態度を示してくれている。そんな感じがする――。
「…アマラ……」
背後でアラヤの声が聞こえた。
どこか天楽を心配するような――アラヤにしては「らしくない」声。
「…心配いらないよ」
アラヤを見ることはしなかったが――天楽は小声で答えた。
「ありがとう。でも無理だ。僕は「デウスの傍で」その考えを実現させる手段を考える。
だってその考え方が『ガイア』を害するものだったら、イロアス協会が絶対止めるだろう?君たちの傍じゃ、規制が多すぎて僕には窮屈だよ。
昔にそういうこともあったらしいから……。だから…話はこれで終わりだ」
「終わりじゃねぇよ……」
「終わりだよ。次、会うときは敵同士だから…」
秋が心を閉ざしてしまった天楽に、これ以上の呼びかけは無理なのかと歯がゆさを感じていた。
「アマラ。君の考えは、私たちから協会へと伝える。
そして納得させてみせる…シュウだけではない。私たちも君の考え方には賛同する」
事態を動かしたのは――セスカだった。
「シュウの親友だったのなら、僕らの友達とも言えると思うけど?」
これはアダ。
「…いつでも俺たちは君を迎える。シュウがその場にいなくても、俺たちが迎える。
同じ考え方を持つ者として、言い方は固いが…同士として迎える。
今は聞き入れられなくても、いつでも君を迎える。必ず」
最後はアックスが――天楽に呼びかけた。
天楽は呆然とその言葉を聞いて――自然とこみ上げてきた笑いを堪えられなかった。
(僕もずっと君の傍にいたら…堂々とそう言えたのだろうか?君の友達として…)
「あのさぁ。僕ら、敵だよ?僕の仲間は君たちに殺されたと同じだし…その前に、君たちを半殺しにしてさ。今も君たちの仲間を殺しかけたんだよ?
よくそう言い切れるね。おめでたいなぁ……」
「それを経験しても…お前を迎えたい。こいつらも俺も…そう言ってるんだよ」
「そっか。それはありがと…でもこれ以上は無し。今日は来てくれてありがとう。
君たちと話が出来て本当に良かった。大収穫だ」
真剣な表情の秋に対して天楽はまるで逃げるように、愛想笑いで会話を打ち切った。
これ以上ここにいたら、本当に仲間になってしまいそうだ――。
でも世の中そんなに甘いわけがない。わかってるじゃないか。認めるわけがないんだ――秋の「周り」が。
「行くか?」
アラヤが天楽を促した。
「そうだね。それじゃ…「またね」、秋」
背を向け去ろうとする天楽に、秋は声を張り上げた。
「待ってるぞっ!!」
歩きかけた天楽の足が止まる。
「いつでも来い。大歓迎だ」
アックスも続く。天楽が言った言葉の一部を引用して、天楽に呼びかけた。
天楽は歯を食いしばり、右手を握り締め――それでも右足を前へと進める。
だが振り返ることはせず、握り締めた右手を解きひらひらと振りながらアラヤと階段を降りていった。
◆◆◆
「いいのか?これで?」
落ち込む天楽にアラヤが問いかけた。
隣を歩くアラヤが意外なことを口にしたので――天楽が驚いてアラヤを見た。
「いいのかって……これが一番いいんだよ」
「あいつら…意外とお前を受け入れてたな」
「……表だけだよ。心の中は…わからないさ」
「まぁ…ナユタの仇だからな」
「そうだよ……」
天楽はそれ以上何も語らなかった。アラヤも天楽に何も訊くことはせず、2人は黙ったまま階段を下っていった。
◆◆◆
「…『霊長意識集合体』に呼びかけ、自覚させる……か」
戻ってきた秋たちの話を聞いたフロガたちは、その難題に頭を抱えた。
寄宿舎の一室。
会合室には、戻ってきた秋たちの他に、フロガ、ネロ、アエラスにアーラ、ジン、ヴノ、クレイの4人もいた。
「数千年…1万年じゃきかない時の流れの『霊長意識集合体』が蓄積されて、
この世界の『ブルゾス』と呼ばれるものになってる。容易じゃないことだよ……」
ネロがため息まじりに口を開いた。
「それに…これは歴史上あった話だけど、今から1300年まえくらいに、『ブルゾス』の正体を知って、アマラくんと同じことを言ったターナという女性…『第1級』クラスの『アトスポロス』が協会のやり方に反発したことがあった。
自分と考えを同じとする仲間と脱会、その後、彼女は巫女となり彼女を慕う信者たちと小さな国を作り…『ブルゾス』に呼びかけ、人の存在であったときのことを思い出させて戦いを止めさせようと活動した。
ところがそれから3年後、その国は滅亡した…大量の『ブルゾス』をその地に呼び寄せてしまい、どうにも出来なくなったターナ自身が自分の能力を自爆まがいに暴走させて、集まった『ブルゾス』を「強制浄化」し、世界への拡散を抑えた…ということが真実らしいけど。
どうも彼女の呼びかけはある程度成功したが、縋ってくる『ブルゾス』を助けきれなかったことが原因だったらしい。彼女以外、主だった『アトスポロス』もおらず、『浄化』することもままならなかったことも滅亡した要因のひとつだ。
それ以後、協会は世界に対してますます『霊長意識集合体』の正体を隠すことになった出来事だったそうだよ」
ネロの説明に、秋はため息を漏らした。
「そうですか…そんなことが……」
天楽が「昔そんなことがあった」と、その事実を言っていたのか――と、秋はそれまでの会話を思い出した。
だから天楽は協会に話すことを拒絶したのか――秋がそう考えたとき。
「でも…これだけのメンバーがいたのなら……無理じゃないのかもしれない」
そう言ったのはアーラだった。
「お前…簡単にそんなこと言って……」
ヴノが心配そうにアーラを見る。
「ヴノの心配はわかるけど、これだけの面子がここにはいる。1300年前に起こったというその事実は繰り返さないで済むかもしれない」
「じゃ、アーラもアマラの考えには賛同するってことなんだな?」
「そうだね。アマラが経験した苦労はわかってあげられないかもしれないけど、その考え方がいいと思うのはオレも同じだ」
ジンの問いに、アーラは頷きながら答えた。
「…僕は正直とても難しいことだと思う。でも…否定はしたくないよね。
可能性を探ってみたいし、実現してみたい」
クレイの答えも表情も前向きだ。
「……かなり難しいとは俺も思うけど…うん、是非やってみたいよな。これが出来たら、この未来戦いを繰り返さないで済むのは確かなんだし」
ヴノの言葉に、秋は無言で頷いた。
「アーラの言ったことに俺も同じ。この面子なら可能性はより高くなる。
それをアマラにわかってもらえればいいんだがな」
ジンは笑顔で秋を見た。
「私たちは『ブルゾス』は有害なものとしか見なしていなかった。
でもお前もアマラも…過去から来たからこそ、私たちが先入観でしか捉えられなかったことを、別の視点から見ることが出来たのかもしれない」
セスカがそう言って、隣に座る秋の手を握る。
気落ち気味の秋を気遣っているのは確かだろうが、セスカの笑顔を見ていると、アマラの考えに同意しているのも本当なのだろうという気持ちにしてくれた。
「じゃぁ…アマラくんを受け入れる…という方向で協会とも話を進めていいんですね?」
と、ネロがフロガに確認を取る。
「ああ、構わない。アラヤに関しても、彼と行動を共にするということならば、受け入れることになるだろう。
ただし…デウスの影響があることを警戒することは否めないがな」
「はい、それは……」
フロガの視線が秋に移り、秋もその言葉には同意した。
「しかし…ますます大変なことになって来たな……シュウたちのおかげで、いい勉強させてもらっているよ」
ため息を漏らしつつ。そう言っても、けして困っているように見えない――むしろ前進出来る何かを感じ取っているフロガの嬉しそうな姿に、秋も胸の中に湧き上がる高揚感を隠せない。
うまくいくかどうかはわからない。でもやってみないとわからない――進まない。
それだけは――秋にもよくわかる。
しかしわからなかったこともある。
何故天楽がデウスと行動を共にしているか――ということ。
「デウスをもう少し見てみたくなった」と言ってはいたが――それは今でも同じなのだろうか?
「シュウ…先へ行くことを考えよう。今はそれしかないと思う」
隣にいて――常に自分を心配し、「そこ」にいてくれるセスカに秋は笑いかけ、「ああ。そうだな」と言った。
◆◆◆
会合室から出て各自の部屋へ向かう廊下の角。
秋がアダを呼び止めた。
「何、シュウ?」
「うん…お前に訊きたいことが……」
セスカとアックスも共に立ち止まり、秋の次の言葉を待った。
「お前の能力に頼るのは本当に良くないことなんだけど……」
「どうして?僕は秋に頼ってもらえるような『綺晶王導師』になりたいんだけど」
「…ありがとな」
秋はアダにそんな前置きをした。
「アマラのことだね」
「あぁ。あいつ…カエナのこと」
秋が天楽の本心を図ることが出来なかったこと――。
「本気で心配してたよ。そしてカエナが無事だと聞いて安心してた。
だから僕も、アマラが今もシュウの友達であることに変わりはないと感じた」
「……そっか」
「そして皆の呼びかけに、アマラの心は大きく揺れてた。本当は僕らの仲間になりたがってた。でも彼は、シュウの「周り」に恐れていた。
自分はまた虐げられるのか…って。だから彼はシュウの敵である自分を選んだんだ」
「そこまでわかってて…何故止めなかったんだっ!?」
アックスがアダに食ってかかる。
「アダのせいじゃない…。それに自分の心が読まれるとわかれば、余計に天楽は拒絶したと思う。アダだって嫌々この力を使ってくれているんだからな……。
でも集中した相手の感情を読み取れるだけなんだろ。これ?」
秋はアダの新しい能力への嫌悪感をも慮って、慎重にアダに尋ねたのだ。
「そうだよ。ただ…アックスみたく、大切な友達だと思ってる相手の強い感情は離れていても、ああして読み取るときもあるみたい。
そうでない相手の気持ちは、拒絶の気持ちが強いと「断片的」にしか読めないみたいだ。
万能ってわけでもないのが欠点かな」
飄々とした態度のアダに、秋は感謝を惜しまなかった。
「…本当にありがとな。これがわかっただけでも……全然違う」
「…これだったんだね」
アダがぽつりと――呟いた。
「何が…だ?」
秋が呆然とアダに訊いた。そんな秋に、アダはただ微笑んで――。
「僕が初めてシュウと話したとき……シュウはやけに優しいなって思ったんだ。
いくら人が良くても…どうしてなんだろうって思ってたんだけど。シュウは僕とアマラを重ねて見ていたんだなって、彼を見ていて思った……。
彼も僕みたいなところがあったのかな?」
アダのそんな質問に、シュウはその表情に険しさを増した。
「読んだ…のか?」
「感じた…いや。そう思えたってだけだけど。力は使っていないよ。僕の勝手な想像」
終始アダは笑顔のまま。秋はふぅと息を吐き出した。
「初めはそうだった。なんとなく似ていたから…天楽のようにしたくなかったのは本当だ。でも…アダはアダだし、あいつはあいつだ。
アダは繊細だけど、納得して気持ちが決まれば、簡単には折れない強さを持ってるけど、天楽はどこまでも優しい分、優柔不断なところと、脆さを持ってる。
そこは……2人は全然違う。あいつとアダを比べるつもりもない」
「うん、ありがと」
アダの礼に、秋は「変なこと訊くなよ」とボヤいた。
「…シュウ、明日にもう一度『カコ』に行ってみるか?」
そう提案したのはアックスだった。
「大丈夫なのか、お前?」
逆に秋が心配してしまう。
「平気…ではないが、そうも言っていられまい。
このあと、直人さんとベンジーたちにもこのことを話して…どうしたら実現出来るのか、俺たちでも方法を考えてみたいんだ」
「…おう」
秋の笑顔に、アックスも気持ちが定まる。
「じゃ、明日からだな」
「あぁ。やれるだけやってみようぜ」
アックスと秋の会話に、セスカとアダもそれぞれに頷いてみせた。




