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第71幕  確認と決心

 ナユタをピサ島からイオの街郊外へと連れ戻した天楽たちだったが――すでにナユタの体は修復が追いつかないほどに体内の血は全て吹き出し、干乾び――体はあちこちで乾燥から白骨まで見え始めている。本来ならすでに息絶えているはずなのだろうが。この状態で、「再生は不可能」と天楽も――アラヤも判断していた。



 片言だけ――ナユタはなんとか言葉を発することが出来たので、ピサ島に潜り込んだ経緯、心境、状況――全てを聞き出すことが出来た。



「クヤ…し…い…」

 時間をかけて話し終えたナユタの口から最後に出た言葉は――その一言だった。

「く…ヤ…しい……クヤシ…い…」

 ただ――その言葉だけを繰り返す。



『不死身の化け物 (アンデット)』と恐れられたアラヤとナユタ。

 だが何度も致命傷を負い、その都度再生を繰り返してきた2人の身体の限界が――ナユタに先に訪れた。

 四肢を引き裂かれようと、胴体を切り裂かれようと――ナユタの優れた「復元」能力で石化し砕かれた腕も再生し、「不死」の致命傷と考えられる首の切断にさえ耐えうる2人の身体の耐性も、ナユタの再生能力も――最早意味はなさない。



 ナユタ本人の能力が枯渇し、「復元」能力が発現出来ないだけではない。

 この『地球ガイア』からの加護を期待出来ない2人の限界は――30年経過して訪れた。

 「ク…や……しい…」

 何度目なのだろう。ナユタはそう口にして――でも、その声は段々小さく――消えるように小さくなっていく。

 消えかかる命の炎が、声音になって現れているかのように。



「……ナユタ。今……やっと楽になれるぞ」

 口にしたのはアラヤだった。 

 自分たちは、自身の意思では死ぬことが出来ない。

 このような状況になっても、「生きる屍」となって生き続けていく。

 「不死」――にはそういう意味がある。「デウス」にそう宿命づけられているのだから。

「死なない」――「死ぬことは出来ない」。「『不死』の能力を持つ『神杯』を破壊されない限り、生き続けていく」。

 それは「能力」と言うよりは、「呪い」に近い――天楽にはそう思えた。



 以前アダが言った彼らの弱点。 

 それは彼らの『神杯ネクトル』が直接、その部位に埋め込まれていることを現していた。アラヤは「首」。ナユタは「右胸」。

 秋とカエナが止めを刺しきれなかったのは、2人がその身体能力で、わずかにその部分をかわし、致命傷となることを避けたことが理由だった。

 本来『神杯』は、いかなる攻撃にも耐えうる「強度」を兼ね備える。

 が、「デウス」によって作られた彼らの『神杯』は、破壊は可能だ。

 だから――体のある部分に埋め込み、直接の破壊を避けていたのだ。



 アラヤがナユタの右胸に手をかけ――静かに脆くなった皮膚に右手を埋め込んでいく。

 血は出ない。全てあの戦闘で出し尽くしてしまった――。



 ナユタから本人の『神杯』を体がら引き抜き――握っている手で握り潰す。

 直後――ナユタは静かに両目を閉じた。



 天楽は10年間一緒に行動した「仲間」の「死」に――「一筋」の涙を流した。



◆◆◆



 秋たちはアンナ城を出て、『アカデメイア』内の――あの寄宿舎に戻っていた。

 


 あれから2日。

 アックスの体力は戻ったが、カエナは大量の血を失っていたため、今だに療養室で横になっている――はずである。



「内臓逆位?」

 アックスが秋から聞きなれない言葉を聞かされ、怪訝そうな顔つきになった。

「あぁ。ようはカエナの体の中の内臓は、全部逆の位置になっているんだってさ。

 だから心臓の位置は右だった…だから助かったらしい。

 治療に当たったネロさんが、そんなことは初めてだったから、位置があってるかどうか随分困ったらしいよ」

「…そっか」

 アダは――安堵の表情に変わり――小さなため息をついた。

 


 寄宿舎の3階にあるロビーで――秋とアックスはその後のことを話していた。

 秋がアックスに報告する。という形ではあったが。



「シュウ…ごめん」

「……はぁっ?」

 急にアックスから謝られ――秋が面食らう。意味はわからないからだ。

「なんでお前が謝んだよ?逆だろ?助けにも行かなかったのは俺たちなんだぜ!?」

「来たじゃないか…お前たちが疲れていたから、フロガさんたちが来たんだろう?」

 秋はアックスへの返答に困った。

「……それでも…行きたかった」

「…ごめん」

 もう一度アックスは秋の本音を訊いて――謝った。

「だからぁ、なんでだよ?」

「俺は……あのとき、セスカを背負うお前を一方的に睨んでた」

 一体いつの話なのだ?

 きっと、秋がこの世界に来たばかりの日の話をしているのだろうが――アックスは結構細かいことまで気にするタイプなのだろう。と言うか――気にしすぎだ。きっと疲れるんだろうなぁと思い――それをアックスに話すと

「…そうかもしれん」

 と、いつもの元気はなく、ますます秋を困らせた。

「お前は…セスカが好きだった。それは俺にもわかったし、別に…お前は睨んでいるだけで、それ以上は何もしなかっただろうが。だから俺は気にしてない。むしろ……」

 秋が言い淀むと、アックスはソファに腰掛けて俯いていたが、自分の隣に立っている秋を見上げて口を開いた。

「それは前にも言っただろう?セスカはお前を選んだ……俺がどうこう出来ることじゃない。それはもう諦めているし、今は惚気すぎるお前らを迷惑に感じるだけで、あとはなんてことはない」

「お前…さり気なく毒吐くなよ……」

「本当のことだろ?」

 図星なので――秋はそれ以上、その件で絡むことは止めた。

「俺も訊きたいことあるんだよな」

「……カエナのことか?」

 秋の問いの先を読み、アックスはそう言った。

「どう…思ってる?」

 再びアックスは顔を俯けた。

「…シュウ。お前はセスカから好きだと告白されたとき……どう思った?」

 逆に問われ、秋は――返す言葉の選択に困った。

 本当のことを話すべきなのか?

 何せセスカの迫り方はとんでもなかったので、今だにその話はアックスにもアダにも話してはないない。

「経緯は知ってる。ベンジーに聞いた。随分迫られたらしいな」

「…あんの……おしゃべりめ……」

 話していないと思っていたら――アックスはベンジーから話を聞いていたらしい。

「でもお前がどう思ったかは…聞いていないからな」

「……そうだな。正直困ったよ。セスカが嫌いとかじゃない。俺も一目惚れだったから、セスカに「好きだ。お前の世界に連れていけ。自分を離すな」と言われて…すげぇ嬉しかったし。

 でも本当にそうしていいのかどうなのか…わからなかったから」

「……そうか…そうだな」

 アックスは――随分と迷っているように――秋からは見えた。

「カエナはどう言っているんだ?」

「…直接好きとかは言われていない。ただ「弟子にしてくれ」と言われた。

 ヴノからは「妹を頼みたい」とも言われたし……本当に俺でいいかどうかがわからない。

 カエナを本当にどう思ってるか…自分の気持ちがわからない。

 それに…俺はカエナをあんな危険な目に合わせた……」

「そんなこと言ったら…俺はセスカをどれぐらい危険な目に合わせてるんだよ…。

 情けないにもほどがある」

「それはセスカが望んだことだろう?それにセスカはそんな弱い女じゃないと思うが」

 落ち込んだ様子の秋に、アックスがそんなフォローを入れる。

「じゃ…それってまんまカエナにも言えないか?」

 そう――秋に諭され――アックスが秋をじっと見つめた

「それはカエナの望んだことだろう?それにカエナはそんな弱い女の子じゃない…と俺は思うが?と言うことになる。違うか?」

「……そう…だな」

「無責任かもしれないけどさ。現状維持でいいんじゃないか?

 カエナから告白されたとき、お前がどう思っているか、それから考えればいいと…俺は思う」

「……うん。そうだな」

「だろ?」

 


 それからしばしの沈黙ののち。

 アックスは本題を切り出した。

「明日……なんだろう?」

 秋は壁際に背を凭れたまま、両目を細めた。

「……あぁ」

「俺たちも連れてけよ」

「あぁ…そのつもり。でも、手出し、口出しは無しと約束してもらうぜ」

「あぁ。そのつもりだ」

 アックスは静かに瞳を閉じた。

「今のお前の気持ちを…正直に話すつもりなのだろう?」

「何が訊きたい?正直に話すぜ」

 秋にはアックスの気持ち――その心配が理解出来ているらしい。

「……もし、アマラの話がお前が納得いくものだったら…あいつらの仲間になる……とか、あいつのために、あちら側にいく…なんてこと」

「…言っておく。「それはない」」

 アックスの話を遮り、秋は断言した。

 俯けていた顔を上げ、アックスは秋を見上げる。

「…後悔はないか?俺たちといることに…」

 それは秋にとって予想外の質問だった。

 秋がアックスを凝視していると、アックスも秋をじっと見つめている。

「なぁ…」

 秋がアックスに呼びかけた。

「なんだ?」

「俺たち…なぁに見つめ合ってるんだ?」

 その状況に――アックスもはっと我に帰る。

「そ…そういうつもりじゃ……」

 慌てるアックスに――秋はつくづくツッコミがいがあって、人がいい奴と思った。

「後悔してたら……俺はここにはいないだろうな……今頃ロバロ公国から一歩も出ていないと思うぜ。いや、命自体なかったかもな」

「……ひとつ言わせてくれないか?」

「何が?」

 急にアックスが改まって――口元には微かな笑みが浮かんで。

 秋はなんだか恥ずかしくなってきたが――それは極力表には出さないよう努めた。

「前にお前を支えきると言った。今もそれは変わらない。

 だから……どこまでも一緒だからな。お前が嫌だと考えても」

「…それ……傍から聞いてると…告白に聞こえるぞ」

 秋が頬を赤らめているので――アックスは再度――我に返ってしまう。

「ち…ち…ちが…違うっ!!違うぞっ!!

 いや…俺の告白なんだが…俺はお前を見届ける…と言うか……」

 本当に楽しい奴。先ほど以上に取り乱しているアックスに、秋は笑いが隠せなくなった。

「笑うなっ!!」

 怒るアックスに、秋はそれでもしばらく笑ってから――こう言った。

「「英雄になれ」とか言っておいて、今更、脱落リタイヤさせるかよ。付き合ってもらうぜ、トコトン。だから…後悔はしない。アックス、お前はどうなんだ?」

「するかっ」

 アックスは即答する。秋は大胆に笑い

「なら、訊くなよ」

「……わかったよ」

 秋の答えにアックスは嘆息し――愉快そうに笑った。










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