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火球しか使えない私が、異世界最強の英雄に祭り上げられる(と、本人は不服である)  作者: SSS
火球しか使えない私が、異世界最強の英雄に祭り上げられる(と、本人は不服である)

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第6話 詠唱は、譲れない



 火球を覚えた私は、意気揚々と、冒険者稼業に励んだ。


 ……励んだ、のだけど。


 なぜか、いつまで経っても、スライムしか、倒せなかった。



  ◇



『……あの、ミライさん』


 その日、ダンジョンからの帰り道。チュートリアルが、ずっと言いにくそうにしていたことを、ついに、切り出した。


『さっきから、気になっていたんですが。……火球、当たってるの、スライムだけ、ですよね』


「そうよ」私は、当然のように答えた。「他の魔物は、なんか、すばしっこくて。撃つ前に、避けちゃうのよね。……こう、私が構えると、さっと逃げるの。ずるいと思わない?」


『……それ、たぶん、ずるくは、ないです』チュートリアルは、そっと言った。『あの……ミライさん。火球を撃つ前に、毎回、あの、長い呪文を、唱えてますよね』


「呪文?」


『はい。……"古より紡がれし原初の焔よ、我が手に宿りて、すべてを灰燼に帰せ、我は火を統べる者、いざ――"みたいな、あの、長い、やつです』


「ああ、あれ」私は、うなずいた。「詠唱でしょう。魔法を使うときの。……当たり前じゃない。かっこいいでしょう」


『……いえ、あの。……あなた、詠唱、要らないんですよ』


「……は?」



  ◇



『あなたの魔力量なら、思っただけで、即座に、火球を撃てます。無詠唱です。……本来なら、"火球"って念じた瞬間に、もう、飛んでるんです』チュートリアルは、遠慮がちに、でも、はっきりと言った。『でも、あなたは、毎回、あの、十秒以上ある、長い呪文を、丁寧に、最後まで、唱えてから、撃ってる。……その、詠唱してる間に、相手は、余裕で、逃げるんです。だから、動きの遅いスライムしか、当たらない』


 ……。


「……つまり、あんたは、こう言いたいわけ?」私は、じろり、とチュートリアルを見た。「私が、あの、かっこいい詠唱を、やめれば。……もっと、いろんな魔物が、倒せる、と」


『はい。まさに、それです。無詠唱に、すれば――』


「却下」


『……え』


「詠唱は、やめない」私は、きっぱり言った。「あれは、私の、こだわりなの。譲れないの」


『な、なんで、ですか……!?』チュートリアルが、めずらしく、声を張り上げた。『無詠唱にするだけで、格段に、強くなるんですよ!? なのに、なんで……』


「かっこいいからよ」


『……また、それ……』



  ◇



 いい? わからず屋のチュートリアルに、教えてあげる。


 魔法は、ただ、撃てばいい、というものじゃ、ないの。


 手のひらを、すっと掲げて。声を、低く、朗々と。「古より紡がれし、原初の焔よ……」と、詠唱を、つむいで。周囲の空気が、ぴん、と張りつめて。そして、最後の一節と共に、ごうっと、火球を、解き放つ。


 ……この、一連の、様式。所作。溜め。


 これが、あるから、魔法は、美しいの。かっこいいの。……いい? 無詠唱で、ぽん、と撃つなんて。そんなの、味気なくて、耐えられない。まるで、コンビニで、おにぎりを買うみたいに、事務的じゃない。


 私が、欲しいのは、そういうのじゃ、ないの。私は、劇場が、欲しいの。私が、主役の、舞台が。


「……というわけで。詠唱は、続ける。これは、メンタルの、問題なの。気持ちよく、発動できるかどうかの。……精霊のくせに、聞き分けの悪い」


『わ、私のせいですか……!?』チュートリアルは、頭を抱えた(※抱える頭はない)。『……効率と、かっこよさを、天秤にかけて、迷わず、かっこよさを取る人、初めて見ました……』


「あら。褒め言葉として、受け取っておくわ」


『褒めてません……!』



  ◇



 というわけで。


 私は、断固として、詠唱を、続けた。


 結果、相変わらず、スライムしか、倒せなかった。……でも、いいの。かっこいいんだから。


 収入は、当然、増えない。スライムの素材なんて、二束三文。私は、相変わらず、少年に、養われる、ヒモのような生活を、送っていた。


 そんな、ある日のこと。


「あなたが、湊ミライ、ね」


 ギルドで、掲示板を眺めていた私に、一人の女が、声をかけてきた。


 私と、同じくらいの、歳格好。赤みがかった髪を、後ろで、きっちり結んだ、真面目そうな女。装備は、使い込まれているけど、手入れが、行き届いている。


 ……誰かしら。まあ、いいわ。私は、無視して、掲示板を、眺め続けた。


「……ちょっと。聞いてる?」


「……」


「あの、聞いてます?」


「……え?」私は、初めて気づいた、というふうに、振り返った。「……私に、話しかけてたの? てっきり、その辺のNPCの、独り言かと」


「NP……?」女は、眉を、ひそめた。「なにそれ。……あのね、ちゃんと、先輩の言うことは、聞きなさい。私は、あなたと同じ、新人だけど、あなたより、ちょっと早く、Eランクになった、アリシアよ」


「ふうん」


「その、ふうん、って、なによ……」



  ◇



 アリシア、と名乗った女は、腰に手を当てて、私を、じろじろ見た。


「あなた、噂になってるわよ。……登録初日に、Aランクに喧嘩を売って、瞬殺されたって。あと、新人パーティーの誘いを、片っ端から、蹴ってるって。……で、いまだに、スライムしか、倒せてないって」


 ……最後の一つは、余計だ。


「一匹狼を、気取るのは、勝手だけどね」アリシアは、腕を組んだ。「実力が、伴ってないと、ただの、痛い人よ。……いい? 今日は、特別に、私が、パーティーってものを、教えてあげる。仲間と、連携して、戦うっていうのが、どういうものか」


「いらないわ」私は、即答した。


「即答……!?」アリシアが、たじろいだ。「い、いいから! ちょっと、待ちなさいってば。……これ、依頼、なの。だから、逃げないで」


「依頼?」


 私は、アリシアが差し出した、一枚の依頼書を、受け取った。そこには、こう、書かれていた。


 ――「新人冒険者・湊ミライと、パーティーを組み、一日、行動を共にしてほしい。彼女が、無理をしないよう、見守ってやってほしい。報酬は、こちらで、支払う」


 ……依頼主の欄には、見覚えのある、たどたどしい字で。


 ……あの、少年の、名前が、あった。



  ◇



 ……ふ、ん。


 あいつ。……なけなしの、給料を、はたいて。私に、パーティーを、あてがおうと、したわけね。……お節介な。


「……その依頼主、あなたの、知り合い?」アリシアが、聞いてきた。「なんだか、あなたのこと、すごく、心配してたわよ。"一人で無理をするから、誰か、そばにいてやってほしい"って」


 ……。


 私は、しばらく、その、たどたどしい字を、見つめた。


 ……まったく。


 断ろうと、思った。私は、慣れ合わない。一人でいい。……そう、言おうと、思った。


 でも。あいつが、これを、書いてる姿を、想像したら。……なんだか、無下に、できなかった。


「……いいわ」私は、ため息をついた。「一日だけ。付き合ってあげる」


「え、いいの?」アリシアが、意外そうな顔をした。「あんなに、即答で、断ったのに」


「気が、変わったの。……それだけよ」


「……ふうん」アリシアは、なんだか、少しだけ、嬉しそうに、笑った。「じゃあ、決まりね。行きましょ、ダンジョン」



  ◇



 というわけで、私は、しぶしぶ、アリシアと、ダンジョンに、潜った。


 ……で、ここで、思いがけないことが、起きた。


 いつもなら、私の周りには、ふわふわと、下位の精霊たちや、チュートリアルが、漂っている。(少年には見えないけど)……でも、今日は、アリシアが、一緒だからか、精霊たちは、遠巻きにして、近寄ってこない。チュートリアルさえ、「他人がいると、出づらいので」と、どこかへ、引っ込んでしまった。


 ……つまり。


 私の、あの、渾身の、かっこいい詠唱を。……聞いてくれる、観客が、いない。


 ……はあ? なにそれ。


 誰も、見てない。誰も、聞いてない。……アリシアは、精霊が見えないから、私の詠唱の、様式美なんて、わかりゃしない。ただ、長ったらしい呪文を、ぶつぶつ唱える、変な女に、見えるだけ。


 ……じゃあ。


 詠唱、する意味、ないじゃない。


「あっ、ミライ、前! ゴブリンよ!」


 アリシアが、叫んだ。通路の奥から、緑色の、醜い小鬼が、数匹、こちらへ、駆けてくる。


「……ゴブリンね」私は、気だるげに、手を、かざした。


 ……今日は、いいわ。詠唱、省略。どうせ、誰も、見てないんだし。


「火球」


 ――ごうっ。


 念じた瞬間、特大の火球が、射出され。ゴブリンの群れを、まとめて、消し炭に、した。



  ◇



「……は?」


 アリシアが、ぽかん、と、口を、開けた。


「……え? 今の。……無詠唱? しかも、あの、威力……? ゴブリンの群れが、一撃で……?」


「あら」私は、なんてことないように、髪を、かき上げた。「これくらい、当然でしょう」


「い、いや、当然じゃ……」アリシアは、目を、白黒させた。「あなた、スライムしか、倒せないんじゃ……」


「失礼ね。……本気を、出せば、こんなもの、よ」


 ……もっとも。「本気を出した」わけじゃ、ない。むしろ、逆。……観客がいないから、かっこつける気が、失せて、手を抜いた。……ただ、それだけ。詠唱っていう、無駄な溜めを、省いただけで、勝手に、無詠唱になって、勝手に、強くなっただけ。


 ……でも、そんなこと、言うわけ、ない。


「な、何回でも、撃てるの、それ……?」アリシアが、恐る恐る、聞いてきた。


「ええ、まあ。……何回でも」


「……何回でも火球って……。……あなた、本当に、何者……」


 アリシアは、その日、ずっと、私のことを、化け物を見るような目で、見ていた。……ふふ。まあ、悪い気は、しないわ。


 ……こうして、私は、なぜか、観客が、いないときだけ、めっぽう、強かった。



(第6話 了)

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