第13話 私、王国側の人間だった
魔王軍への、"お届け物"の、選別をしていたときだった。
ふと、五百旗頭さんが、一人の捕虜の前で、足を止めた。
◇
「……ミライ」五百旗頭さんが、静かに言った。「この人、見覚え、ありませんか?」
「……え?」私は、その捕虜の顔を、覗き込んだ。
……うーん。冴えない、中年の男。どこにでもいそうな顔。知らないわね。
「ないけど。誰?」
「よく、思い出してください」五百旗頭さんの目が、鋭く光った。「私たちが、一番最初に、異世界に召喚された、あの日。あの召喚の間に――この人、いました」
……召喚の間。
……ああ。あの忌々しい、私たち一三人が、勝手にこの世界に呼び出されて。勇者だのなんだのと、ゲームの駒みたいに扱われた、あの始まりの日。
◇
「そんな細かいこと、覚えてるわけ、ないでしょう」私は、正直に言った。「あのとき、いたモブの顔なんて、一人ずつ、記憶してられないわよ」
「私は、覚えています」五百旗頭さんは、きっぱりと言った。「あの日、あの場にいた人間の顔は、全員。ね」
……うわ。こわ。
……そういえば、この人。こういう記憶力とか、観察眼とか、妙に鋭いんだった。昔から。
「間違い、ないの?」
「ええ。ほぼ確実に」五百旗頭さんは、捕虜を見据えた。「……おい。お前。クロウディアス王国の人間だな。何が、目的だ」
……クロウディアス王国。
……そう。それが、私たちを召喚し、そして追放した、あの王国の名前だった。
◇
「な、なんのことだか」捕虜は、目を泳がせた。「人違いだ。俺は、ただの、金で雇われたゴロツキで……」
「人違いでは、ありません」五百旗頭さんの声が、冷たくなった。「とぼけても、無駄です」
「し、知らねえ! 本当だ! やめろ!」
……捕虜は、必死に、しらを切ろうとした。
……ふうん。なるほどね。そこまで隠そうとするってことは、よっぽど都合の悪い何かがあるんでしょう。
「ねえ、いおきべさん」私は、にっこり笑って言った。「こういうとき、精霊を使ってやりましょうか?」
「精霊を?」五百旗頭さんが、眉をひそめた。「まさか。……拷問?」
「いやだ、人聞きの悪い」私は、手を振った。「そうじゃなくて。うちの精霊の中にね、相手に近づくと、その人の考えてることが、なんとなくわかる子が、いるのよ」
◇
「その精霊、なんでも、人間の脳ミソが、大好物なんですって」私は、わざと、おどろおどろしく言った。「だから、あんたの頭に、そーっと近づいて。中をのぞいて、ぜんぶ読み取ってもらおうと思って。ふふ」
「の、脳ミソ、だと……!?」
捕虜の顔が、さーっと青ざめた。
「や、やめろ! 脳を、食われるのか!? いやだ! 気持ち悪い!」
「あら。食べはしないわ、たぶん。ただ、ちょっと、のぞくだけ。のぞくだけ、だから。ね?」
「その、言い方が、怖いんだよ……!」
……捕虜は、がたがたと、震え始めた。
◇
「わ、わかった! 言う! 言うから!」
とうとう、捕虜が、音を上げた。
「確かに! あの日、俺は、王国側の人間、だった!」
……。
……出た。
「召喚の儀式に、立ち会っていた! そのあとも、ずっと、王国の密偵として、働いてきた! 今回だって、王国から、"聖女国に潜り込んで、内側から引っかき回せ"と、命じられて、来たんだ!」
……ぽろぽろと、捕虜は、堰を切ったように、白状し始めた。
……"脳ミソが好物の精霊"が、よっぽど怖かったのかしら。ちなみに、そんな精霊は、いない。相手の考えがわかる子は、いるけど。脳を食べたりは、しない。ちょっと、盛った。
◇
「……なるほど。やはり、王国か」五百旗頭さんが、深く息を吐いた。「大方、聖女国が諸侯会議で認められて、都合が悪くなったのでしょうね」
……私は、黙って、その捕虜を見下ろしていた。
……クロウディアス王国。私を、そして少年を、"元の世界に帰してやる"と言いながら、いいように使って、用済みになったら、ぽいっと捨てた、あの王国。
……その王国が、今度は、刺客や密偵を送り込んで、私を消そうとしている。
……ふつふつと、胸の奥から、久しく忘れていた怒りが、こみ上げてきた。
「別室で、もっと詳しく、話を聞きましょう」五百旗頭さんが言った。「この密偵、王国の企みの、何もかもを、知っているはずです」
「……ええ」私は、静かに頷いた。「たっぷり、聞かせてもらいましょうか」
(第13話 了)




