第10話 今日はモテますわね
諸侯会議から、国に、戻って、しばらく。
ある日。私の、周りの、精霊たちの、動きが。……なんだか、いつもと、違って、慌ただしく、なってきた。
◇
『……ミライ! ミライ、たいへん!』
「どうしたの?」私は、のんびりと、応じた。「……あ、わかった。フォロワー、増えたの?」
『違うよ!』精霊が、ぶんぶん、首を、振った。『……ギルドにね。ミライに、殺意を、持った、人たちが。……いっぱい、来てるの!』
「……殺意?」
「どのくらい?」
『えっとね。……僕ら、そこらじゅうに、いるからね。……数えてみるね。……なになに? ……うん。……二〇人くらい、いるって!』
……二〇人。
……ふうん。
◇
「……で。誰を、狙ってるの、その人たち」私は、聞いた。
『わからない。……でも、すっごい、殺意、持ってる』
「……ふーん」
私は、少し、考えて。……それから、あっさり、結論を、出した。
「……たぶん、五百旗頭さんじゃ、ないの?」
『……え?』
「だって、あの人。言い方が、いちいち、きついもの。敵を、増やしそうな、タイプよ。この前の、諸侯会議でも、帝国の、宰相を、こてんぱんに、してたし。……逆恨みされても、おかしくないわ」
……我ながら、失礼な、推理、だけど。……でも、まあ。……あの、五百旗頭さんに、限って。二〇人くらいの、刺客なんて。……返り討ちに、決まってる。
「……ま、放っておきましょう」私は、ひらひらと、手を、振った。「どうせ、あの人が、なんとかするわよ」
『……そうかなあ』精霊が、首を、かしげた。
◇
……で。私が、この、物騒な、報せを。……すっかり、他人事として、聞き流して、いると。
精霊が。……もじもじ、しながら。……さらに、続けた。
『……あとね、ミライ。……もう、一つ、あって』
「まだ、あるの?」
『……この国に、入ってくる、他の、冒険者が、いてね。……その、一〇人くらいは。……殺意は、ないんだけど』
「じゃ、いいんじゃないの」
『……でも、この国のこと、いろいろ、調べてて。……それに。……ミライの、悪口、言ってるの』
……ん?
……悪口?
……私は。……ぴたり、と、動きを、止めた。
◇
「……なんて?」私は、精霊に、詰め寄った。「その人たち。……私の、なんて、悪口、言ってるの?」
……さっきまで。二〇人の、殺意にも、眉一つ、動かさなかった、私が。……悪口、と、聞いた、途端。……食い気味に、なった。
『……えっとね』精霊が、おずおずと、答えた。『……"聖女は、偽物だ"って。……"本当は、魔王の、手先で。……そのうち、人間を、裏切るぞ"、とか』
……ぐ。
……それは。……ちょっと、まずい、やつ。
……だって。……私。……本当に。魔王と、こっそり、不可侵条約、結んでるもの。……"魔王の、手先"、っていうのは。……完全な、デマ、じゃ、なくて。……半分、当たってる、というか。……いや。……手先じゃ、ないけど。……でも。……この、噂が、広まると。……ちょっと、困る。
◇
『……それとね』精霊が、さらに、言いにくそうに、続けた。『……"あの、聖女は。……冒険者ランク、Cの、くせに。……本当は。……スライムしか、倒せない"、とか……』
……。
……ぐさっ。
……それは。……もっと、まずい、やつ。
……というか。……それは。……悪口、じゃなくて。……ただの、事実。
……そう。私は。……本当に。……スライムしか、倒せない。……いつも、戦って、いるのは。……精霊たちで。……私は、詠唱してるだけ。……その、真実を。……ずばり、突かれて、いる。
「……なにー! スライムだけ、だと!」私は、思わず、声を、荒げた。「……ま。……間違っては、いない、けど……」
『……あ、認めるんだ』
◇
『……それにね』精霊が、追い打ちを、かけた。『……"Cランクに、なったのも。……どうせ、コネだ"、とか。……"聖女だから、優遇されて、癒着で、上げてもらったんだ"、とか……』
「――なんですって!?」
私は。……今度こそ、本気で。……声を、張り上げた。
「……ほかは、まだ、許せる。……"魔王の手先"も。……"スライムしか倒せない"も。……まあ、いいわ。……でも。……"Cランクは、コネ"、ですって!?」
……それだけは。……許せなかった。
……いい? 私の、この、Cランクだけは。……三巻……いえ、冒険者に、なった、あの日から。……ずっと、憧れて。……そして。……あの、皇太子救出の、ときに。……魔王軍と、戦って。……ちゃんと、実力で、勝ち取った。……私の、数少ない。……"本物の、実績"、なのよ!
「……許せない! 誰よ、それを、言ってる、やつは! ……捕えなさい! 精霊ちゃんたち!」
『……あ、そこは、怒るんだ』精霊たちは、顔を、見合わせた。『……スライムのとこは、流したのに』
「……うるさいわね!」
◇
……こうして。私は。……二〇人の、暗殺者には、目もくれず。……ただただ、"Cランクは、コネ"、という、悪口に。……本気で、腹を、立てて、いた。
……たぶん、これが。……普通の、聖女なら。「私の、命を、狙う、刺客が、二〇人も!?」と。……青ざめて、警戒を、固める、ところ、なのだろう。
……でも、私は。……命を、狙われる、ことよりも。……自分の、悪口を、言われる、ことの、ほうが。……よっぽど、我慢、ならなかった。
……我ながら。……つくづく。……承認欲求の、塊、である。
……そして。この、私の、暢気さと。……偏った、逆鱗が。……このあと、思わぬ、形で。……あの、王国の、企みを。……空回りさせて、いく、なんて。……このときは。……まだ、知る由も、なかった。
(第10話 了)




