第9話 存在しなかったことにするしかない
諸侯会議は、幕を閉じた。
湊ミライ聖教国は、正式な独立国家として、認められ。諸国が、これを支える、支援同盟まで、結ばれた。……その、報せは、瞬く間に、大陸中に、広まっていった。
「聖女の国は、本物だ」。「あの、荒れ地に、興った、小国は。諸侯連合が、後ろ盾に、つく、れっきとした、国家に、なった」。
……誰もが、そう、認めた。
……ただ、一国を、除いて。
◇
――ここで、また。ミライの、あずかり知らぬ、ところの、話を、しよう。
その、一国。……クロウディアス王国。
かつて、異世界から、勇者と、少女たちを、召喚し。魔王討伐の、駒として、こき使い。そして、役に立たぬと、判断した、者を、追放した――大陸、屈指の、古豪。唯一、勇者召喚の、秘術を、独占する、王国。
その、王城の、奥深く。
◇
「……聖女国が。正式に、承認された、だと?」
玉座の、王が。……信じられぬ、という顔で、呻いた。
「はっ」傍らに、控えた、宰相が、頭を、垂れた。「諸侯会議にて。各国から、支援同盟まで、成立した、由に、ございます」
「……では、もう。手を、出せぬ、ではないか」王は、苛立たしげに、玉座の、肘掛けを、叩いた。
「……正面から、攻めれば。その通りに、ございます」宰相は、静かに、言った。「聖女国に、手を、出せば。後ろ盾の、帝国は、もちろん。支援同盟を、結んだ、諸侯連合、すべてが。我が国に、牙を、剥くでしょう。……そして、何より」
「何より、なんだ」
「……我々が、何を、したかが。世界に、知られる、ことに、なります」
王が、押し黙った。
◇
「……異世界から、召喚した、勇者と、少女を」宰相は、言葉を、選ぶように、続けた。「役に、立たぬと、判断し。……追放した。……その、少女が。今や、聖女として。一つの、国家を、築き上げて、おります」
「……」
「これは。……我が国にとって。最大の、汚点に、なります」
……そう。それこそが。この、王国が、抱える、真の、恐怖、だった。
王国は、恐れて、いた。……聖女の、"力"を、では、ない。
……聖女、湊ミライ、という、存在、そのものが。かつて、自分たちが、下した、判断の――「あの、小娘は、役立たずだ」という、判断の。……取り返しの、つかない、"誤り"の。生きた、証拠に、なって、しまう、こと。
……聖女が、輝けば、輝くほど。王国の、見る目の、なさが。無能さが。天下に、さらされる。……聖女の、成功は。そのまま、王国への。告発、だった。
◇
「……戦争では、勝てぬ、と、申すのだな」王が、低く、言った。
「はい。少なくとも、堂々とした、戦では」宰相は、頷いた。「勝てぬ、うえに。戦えば、戦うほど。世界の、耳目を、集め。我らの、汚点が。明るみに、出ます」
「……ならば、どうする」
宰相は、しばし、沈黙した。そして。……ゆっくりと、顔を、上げて。冷たい、声で、言った。
「――存在しなかったことに、するしか、ございません」
……。
「聖女国、など。初めから、なかった。聖女、湊ミライ、など。この世に、存在、しなかった。……そう、いう、ことに。……いたすのです」
◇
……それは。「暗殺」とは。少し、違う、響きを、持って、いた。
ただ、殺す、だけ、ならば。かえって、聖女は、"悲劇の、殉教者"と、なり。その、伝説は、いっそう、輝きを、増す、かもしれない。……それでは、意味が、ない。
王国が、望むのは。聖女、湊ミライという、存在が。……最初から、"なかったこと"に、なること。
……その、記録も。その、名も。……そして、あの、"追放した"という、事実も。……何も、かも。……闇に、葬り、去ること。
「……手段は」王が、問うた。
「……三つ、ほど」宰相は、指を、折った。「一つ。腕利きの、暗殺者を、送り込み。聖女、その人を。二つ。工作員を、忍ばせ、国の、内情を、探り。三つ。……国の、内側から、崩す、工作を」
「……ちまちま、と、した、手だな」
「はい。ですが。……堂々と、動けぬ、以上。闇に、紛れて、少しずつ。……"存在しなかったことに"、するのが。……最も、確実、かと」
王は、しばらく、玉座で、目を、閉じて、いた。そして。……ぽつり、と、命じた。
「……よかろう。やれ」
◇
……こうして。かつて、ミライを、召喚し。ミライを、捨てた、王国は。今度は、ミライという、存在、そのものを。……この世から、"消し去ろう"と。……動き、始めた。
……皮肉な、ものだ。
彼らが、必死に、"なかったことに"、しようと、すれば、するほど。それは、「王国には、隠したい、何かが、ある」という。……動かぬ、証拠に。なって、いく、のに。
……そして。その、企みの、標的と、された、当の、ミライは。
◇
――その頃。私は。国に、帰る、道すがら。……上機嫌で、鼻歌など、歌って、いた。
「……ふんふふーん♪ いやー、諸侯会議、大成功だったわね。私、すっかり、大陸の、有名人よ」
……隣を、歩く、五百旗頭さんが。「あなたの、演説の、お陰、ということに、しておきますよ」と、苦笑して、いた。
……もちろん、私は。この、とき。……遠く、離れた、王城で。私の、"存在そのもの"を、消そうという。……そんな、恐ろしい、企みが。動き出して、いる、なんて。
……これっぽっちも。知らずに、いた、のだった。
(第9話 了)




