第8話 聖女国支援同盟
帝国の宰相が、諸国の前で、しどろもどろに、なっている。
その様子を見て、諸国の空気は、一気に、ある方向へと、傾いていった。
◇
「……しかし、考えてみれば」一人の代表が、思案げに、言った。「聖女殿の国は、我ら全員にとって、重要ではないか。魔王軍を、最前線で、食い止めてくださっているのだからな」
「うむ」議長を務める、ドルバー連合王国の王子が、頷いた。「もし、聖女殿の国が、倒れれば。魔王軍は、堰を切ったように、我らの国々へ、なだれ込んでくる」
「つまり」別の代表が、続けた。「聖女殿の国は、今は、無事でも。常に、魔王軍の、脅威に、さらされている。……ならば、これは。帝国一国に、任せておく、話では、あるまい」
「そうだ」
「我ら、諸侯、みなで。聖女殿の国を、支えるべきでは、ないか」
「賛成だ」
「異論なし」
……あれよ、あれよ、という間に。話が、どんどん、大きくなっていく。
◇
と。そこで。また、五百旗頭さんが。すっと、前に、出た。
「――皆様の、御厚意。我が国を、代表して、感謝申し上げます」五百旗頭さんは、優雅に、一礼した。「では、この場をもちまして。有志の諸国による、"聖女国支援同盟"の、立ち上げを、ここに、宣言させていただきます」
……おお、と。会議場が、どよめいた。
諸国の代表たちが、次々と、賛意を、示していく。
……こうして。私の国――湊ミライ聖教国は。この、諸侯会議の場で。正式に、一つの、独立国家として、承認され。そのうえ、諸国が、こぞって、支える、"支援同盟"まで、結成される、ことに、なった、のだった。
……属国化、どころか。逆に。諸国から、守ってもらえる、立場に。
……ふふ。……なんだか。よくわからないけど。大成功、みたい。
◇
会議が、一段落し。休憩に、入った、とき。
帝国の宰相が、苦々しい顔で、五百旗頭さんの、そばに、寄ってきた。そして、低い声で、囁いた。
「……勇者。貴様。……何か、やったのか」
……お。修羅場の、匂い。
「さて」五百旗頭さんは、涼しい顔で、答えた。「私は、何も。……我が国の、聖女様に。演説して、いただいた、だけですが。……何か?」
……宰相は。ぎり、と、歯噛みして。それ以上、何も言えずに、去っていった。
……ふふ。ざまあ、みなさい。私の、演説の、勝利よ。
◇
――と、そのとき、私は。まだ、知らなかった。
この、五百旗頭さんの、「聖女様に、演説して、いただいた、だけ」という言葉の。……本当の、意味を。
◇
……あとで、二人きりに、なったとき。五百旗頭さんは、こっそりと、種を、明かして、くれた。
……なんでも。すべては、五百旗頭さんの、筋書き通り、だった、らしい。
まず、私と、喧嘩したこと。あれで、私が、しょげて、静かになって、いる、間に。五百旗頭さんは、水面下で、動いていた。
……魔王領から、逃げていた頃に、世話になった、いくつかの国。それらと、ひそかに、連絡を取り。「帝国が、覇権を、狙っている」という、共通の、危機感で、手を、結んで、いた。ついでに、他に、野心を、抱えた、国が、ないかも、調べて。
そして、諸侯会議で、帝国が、筋書き通り、私に、詰め寄ってきたのを、見計らって。……私に、あの、耳打ちを、して。スイッチを、入れた。
……私の、萎縮も。私の、復活も。私の、演説も。全部。五百旗頭さんの、手の、ひらの、上、だった、のだ。
◇
「……ちょっと。それって」私は、思わず、むくれた。「私。いいように、使われた、ってこと?」
「人聞きの、悪い」五百旗頭さんは、くすりと、笑った。「……あなたに、しか、できない、役目を、果たして、もらった、んです。……私が、いくら、裏で、手を、回しても。最後に、あの、大舞台で。諸国の、心を、掴んだのは。……間違いなく、あなたの、演説ですよ、ミライ」
……む。
……そう、言われると。悪い、気は、しない、けど。
「……なんか。釈然としないわ」私は、頬を、膨らませた。「……せっかく、久しぶりに、脳汁が、出そうだったのに。……なんか、あっさり、終わっちゃって。……不完全燃焼、なのよね」
……そう。勝ったことは、勝った。国も、承認された。でも。……こう。もっと、こう。派手に、劇的に。「聖女、ここにあり!」って。脳汁が、ドバドバ、出る、はずだった、のに。……気づいたら、五百旗頭さんの、段取りで。……するっと、勝って、いた。
……なんか。物足りない。
◇
……でも。まあ、いいか。
私は、すぐに、気を、取り直した。
……だって。結果的に。この、格上だらけの、会議で。羨望の、まなざしを、集めて。「聖女、聖女」と、崇められて、いるのは。……ほかでも、ない、この、私、なんだから。
……誰が、裏で、何を、していようが。表舞台で、スポットライトを、浴びて、いるのは、私。それで、いいじゃない。細かいことは、気にしない。私は、結果、優先主義、なの。
……それに。
あとで、二人きりのときに、もう一度。「すべて、ミライのお陰です」って。……五百旗頭さんに、言い直して、もらおう。
……うん。それで、満足、しようじゃ、ないの。
◇
……あ。そういえば。
私は、ふと、思い出した。
……そうだ。あの、某国の、伯爵。冒険者ギルドを、支援している、っていう、ギルド長。あいつに、文句を、言うのを、忘れてた。
……なんで、アリシアが、Bランクで。この、私が。Cランクの、ままなのよ。おかしいでしょう。私、聖女で、一国の、元首よ? どう考えても、Bランク、いえ、Aランクくらい、あって、然るべき、でしょう。
……あわよくば、この、諸侯会議の、ついでに、捕まえて。「Bランクに、上げなさい」って。確約を、もらいたかった、のに。
……ま。今回は。魔王討伐だの、支援同盟だので。バタバタ、していたし。……いいでしょう。その話は。また、今度。
……そう。今回は、まあ、いいでしょう。
……なんて、このときの、私は。呑気に、考えていた、のだった。
(第8話 了)




