第7話 帝国、聖女に頭が上がらない
調子を、取り戻した私は、もう、止まらなかった。
せっかく、みんなが注目してくれているのだ。この機会に、私の、輝かしい功績を、たっぷりと、語らせてもらおうじゃないの。
◇
「そもそも、皆さん」私は、朗々と、語り始めた。「我が国は、決して、恵まれた環境から、始まったわけでは、ございません」
各国の代表が、耳を、傾ける。
「私は、もともと、とある王国に、召喚され――そして、用済みとばかりに、放り出された、身の上。行く当てもなく、流れ流れて、たどり着いたのが、あの、魔王領との、境にある、荒れ果てた、僻地でした」
……我ながら、悲劇のヒロインみたいで、いい語り出しだわ。
「そこで、私は、精霊たちと、心を通わせ、荒れた大地を、蘇らせ。襲い来る、魔物の群れを、幾度となく、退けながら――ついに、一つの、国を、築き上げたのです。次の、スライドを、お願いします」
「……スライド?」
各国の代表が、顔を、見合わせた。
……あ。しまった。ここ、プロジェクターとか、ないんだった。
◇
まあ、スライドは、なかったけれど。私の、演説は、思いのほか、各国の、心に、響いたようだった。
「……ほう。あの、荒廃した精霊郷を、たった一代で、国に」
「召喚され、捨てられた身から、一国の主に……なるほど。聖女伝説の噂は、本当だったのか」
「魔王軍と、日々、干戈を交えながら、国を、維持している……大した、胆力だ」
……ふふ。そうでしょう、そうでしょう。もっと、褒めていいのよ。
と。そのとき。一人の、代表が、ふと、気づいたように、言った。
「……待てよ。聖女殿の国は、魔王軍と、国境を接する、最前線……つまり、聖女殿が、そこで、魔王軍を、食い止めて、くださっている、ということだ」
「うむ」別の代表が、頷いた。「では――その、聖女殿の、国に、隣接している、帝国は。いったい、どういう、立場に、なるのかな?」
◇
……ん?
なんだか。話の、風向きが。変わってきた。
「そうだ」また、別の代表が、身を乗り出した。「よく、考えてみれば。聖女殿の国が、最前線で、魔王軍を、防いでくださっているお陰で。その後ろに、控える、帝国は。ずいぶんと、安泰では、ないか」
「まさに」
「つまり――帝国こそが、この中で、一番、聖女殿の、恩恵を、受けている、のでは?」
……お。
……おお。
「これは、これは」一人の、老練な、代表が、にやりと、笑って、帝国の宰相を、見た。「帝国殿は、聖女殿に、頭が、上がりませんな。……して、それ相応の、御恩に、報いる、御用意は、おありなのでしょうな?」
……。
……あれ?
なんだか。私が、狙われていた、はずなのに。気づけば。矛先が。帝国の、宰相に。向いている。
◇
宰相の、顔が、こわばった。
……そりゃ、そうよね。この人、私に、「帝国のお陰だと、言わせよう」と、してたのに。気づけば、諸国から、「帝国こそ、聖女に、守られているんだろう。恩を返せ」と、詰め寄られているんだもの。
……完全に、藪蛇。
「……う」宰相は、額に、汗を、浮かべながら、絞り出した。「……もちろん、で、ございます。我が帝国は、聖女様の、国に。……その、援助を、いたして、おりますし。……これからも、そのつもりです」
――そう。宰相は、この、大勢の、諸国の、代表が、見ている、前で。「帝国は、聖女国を、援助している。これからも、する」と。……はっきり、口に、してしまった、のだ。
……属国化、させるどころか。逆に。「これからも、聖女国に、貢ぎます」と。宣言させられた、ようなもの。
◇
と。そのとき。ずっと、私の後ろで、静かに、控えていた、五百旗頭さんが。すっと、一歩、前に、出て。涼しい顔で、言った。
「――議事録係、殿」
「は、はい!」
「今の、帝国宰相殿の、御発言。……しかと、記録、いたしましたか?」
「はいっ!」議事録係は、感激した様子で、羽根ペンを、握りしめた。「もちろんです! こんな、歴史的な場面を、記録しないなんて、ありえません! 感激です!」
……ふふ。
私は、思わず、笑いそうに、なった。
……そう。さっき、宰相が。私に、「どの国のお陰か、国名を言え」と、迫ったとき。ちらりと、議事録係を、見て。「ちゃんと、記録しろ」と。目で、合図して、いた。
……その、議事録が。今度は。宰相自身の、「帝国は聖女国を援助する」という、言質を。しっかりと。刻みつけて、いる。
……自分で、仕掛けた、罠に。自分で、はまってる。
◇
……もっとも。このとき、私は。まだ、事の重大さを、半分も、わかって、いなかった。
……ただ、なんとなく。「あれ? 私、責められてたはずなのに。気づいたら、あの軍師のほうが、詰められてる。ラッキー」くらいに、思っていた。
……この、一連の、流れが。実は、すべて。私の、隣に立つ、この、静かな、勇者の。……緻密な、筋書き通りだった、なんて。
……そんなこと。私は、まだ。想像も、していなかったのだった。
(第7話 了)




