第6話 私個人の力量による努力のたまもの
「――失礼。我が国が、誰のお陰か、でしたわね」
私は、優雅に微笑んで、言った。
「それは――私個人の、力量による、努力のたまものですわ!」
◇
……しん、と、会議場が静まった。
「……いや」宰相が、こめかみを、ひくつかせた。「ちょっと、協力した人、いるでしょう」
「そうでしたね」私は、あっさり頷いた。「では、正確に申し上げましょう」
私は、指を折りながら、貢献度を、数え上げた。
「まず、私の功績と努力が、九〇パーセントを占めております」
「九〇……」
「そして、二パーセントが、この五百旗頭。勇者のお陰ですわね」私は、後ろの五百旗頭さんを、ちらりと見た。「一パーセントが、私が食べられないときに養ってくれた、少年のお陰。さらに二パーセントが、ライバルとして立ちはだかってくれた、魔王軍のお陰です」
……各国の代表が、ぽかんとしている。
◇
「……残りの、五パーセントは?」宰相が、絞り出すように、聞いた。
「残りの五パーセントも、やっぱり、私のお陰ですわ!」
「……」
「いや」宰相が、食い下がった。「我が帝国も、領地の提供など、いたしましたし――」
「そうでしたね」私は、少しだけ、考えるふりをして、言った。「それでは……〇・〇〇一パーセントは、帝国のお陰、ということにいたしましょう。それで、満足ですか?」
「……〇・〇〇一」
「ええ」
宰相の顔が、ひきつった。……ふふ。効いてる、効いてる。
◇
「いや、しかし」宰相は、なおも、食い下がった。「そのような、数字の根拠は。ただの、あなたの、感想では、ありませんか」
「感想?」私は、心外だ、という顔をした。「違いますね。我が国家の、れっきとした、統計結果です」
「統計……?」
「ええ。二〇二六年、政府の、農政局が、発表した、統計によりますと――」
「……二〇二六年?」
宰相が、眉をひそめた。
……そう。二〇二六年。令和八年。私が、元いた世界の、年号。もちろん、この異世界の、誰一人として、そんな年号は、知らない。政府の農政局なんて、聞いたこともないはず。
でも、いいの。誰も、知らないってことは。誰も、反論できない、ってこと。
◇
「――さらに、内閣府の、世論調査を、加味し、加重平均を、算出いたしますと。聖女への、支持率は、実に、九八・六パーセント。これに、可処分所得の、対前年比増加率を、乗じまして……」
私は、それらしい単語を、次から次へと、並べ立てた。
……もちろん、全部、でたらめ。というか、令和の日本で、なんとなく耳にした言葉を、それっぽく、繋げているだけ。意味なんて、私も、よくわかっていない。
でも、効果は、絶大だった。
各国の代表が、みんな、口を、あんぐりと、開けて。ぽかんと、私を、見ている。……ふふ。ついてこられないでしょう。
「……あら」私は、わざとらしく、口元を、押さえた。「ごめんなさい。私の、知識に、ついていけない方々には、少し、早口に、なってしまいましたわね。……つまり、簡単に、まとめますと」
私は、にっこりと、微笑んだ。
「――だいたい、私の努力で、できたようなものですわ!」
◇
……我ながら、暴論だった。
でも、不思議なもので。ここまで、堂々と、意味のわからない、統計だの、加重平均だのを、並べ立てられると。人は、なんだか、「そういうものか」と、思ってしまうらしい。
各国の代表たちは、誰一人、反論できなかった。というより、反論の、糸口が、つかめなかった。
宰相ですら、「〇・〇〇一パーセント」と、言われたきり。次の一手を、見失って、黙り込んでいた。
……ふふ。どう? これが、湊ミライよ。
◇
と、そのとき。私の、周りに、こっそり、浮かんでいた、精霊たちが。ひそひそと、囁いた。
『……ねえねえ、ミライ』
『九〇パーセント、私たちのこと、入ってた?』
……あ。
……そういえば。精霊たちのこと。言ってなかった。土地を蘇らせたのも、魔物を退けたのも、実際には、この子たちの、力なのに。
「……ごめん」私は、小声で、囁いた。「あんたたちのこと、忘れてたわ。あんたたちの分も、入れ直さなきゃ……」
『ううん、いいの』
精霊たちは、くすくす、笑った。
『だってさ。私たち精霊の成果も、含めて、ミライの成果だからね』
「……え?」
『だってさ。ミライがいなかったら、私たち、こんなに頑張らなかったもん。精霊王さまも、魔王も、動かせなかったでしょ? 全部、ミライがいたから、なんだよ』
『うん。だから、九〇パーセント、ミライ。妥当かなー』
『妥当だねー』
……。
私は、少し、驚いて、精霊たちを、見た。
◇
……いつも、私は。自分の手柄を、実際より、ずっと、大きく、見積もっている。それは、自分でも、うすうす、わかっている。……たぶん、本当は。私なんて、大したこと、していない。
でも。この子たちは。……私が、いたから、頑張れた、と、言う。私が、いたから、精霊王も、魔王も、動いた、と、言う。だから、全部、私の成果で、妥当だ、と。
……そう言われると。なんだか。あながち、嘘でも、ない、ような。
……いや。九〇パーセントは、さすがに、盛りすぎだけど。でも。「私がいたから」というのは。もしかしたら。本当に、そうなのかも、しれない。
……ふふ。
まあ、いいわ。細かいことは。とにかく、今は。この、格上だらけの会議で。堂々と、胸を張っていられる。それが、一番、大事なんだから。
私は、改めて、会議場を、見渡して。……勝ち誇ったように、微笑んだのだった。
(第6話 了)




