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火球しか使えない私が、異世界最強の英雄に祭り上げられる(と、本人は不服である)  作者: SSS
借りてきた猫だった私が、なぜか国際会議で帝国を屈服させた聖女と讃えられる(と、本人は脳汁が足りず不完全燃焼である)

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第4話 聖女さまから直接お聞きしたい




 ここで少し、時を巻き戻して、ある男の思惑を語っておこう。



  ◇



 その男――イールランド帝国の宰相は、会議場の片隅で、じっと末席の聖女を観察していた。


 (ふむ。あれが噂の聖女か)


 宰相は内心でほくそ笑んだ。聞いていたのとは、ずいぶん違う。派手好きで自信家だと聞いていたが、なんだ、あの萎縮ぶりは。借りてきた猫ではないか。


 宰相には狙いがあった。聖女の国――湊ミライ聖教国を、帝国の属国、あるいは保護国として、この国際会議の場で"公式に"認めさせること。そうすれば帝国は、魔王討伐の主導権を握れる。そして、古いだけが取り柄の、勇者召喚技術を独占するクロウディアス王国よりも、一つ上の立場に立てる。



  ◇



 そのためには、あの聖女本人に、「我が国は帝国の庇護下にあります」と、この公の場で言わせねばならない。


 問題は、いつも聖女の隣にいる勇者――五百旗頭という女だった。


 (あの勇者が厄介なのだ)


 交渉のたびに、あの女がのらりくらりとこちらの要求をかわす。理詰めで、隙がない。あの女がいる限り、聖女の国を思うままにはできなかった。


 だが――今日のあの聖女の様子を見る限り。


 (あの二人、仲たがいしているな)


 勇者は聖女に素っ気なく、聖女は勇者に怯えているようにすら見える。これは好機だった。



  ◇



 (あの承認欲求の塊のような聖女を、勇者から引き離し、この大舞台でおだてて、いい気にさせれば――ころりと口を滑らせるだろう。「我が国は帝国の庇護下にあります」と)


 宰相の狙いは、幾重にもなっていた。


 一つ、聖女本人に答えさせ、勇者の盾を外すこと。二つ、聖女と勇者の関係が本当にこじれているか確かめること。三つ、あの聖女に政治的な判断ができるのか、その器を値踏みすること。そして四つ、最終的に「帝国の庇護が必要だ」と認めさせること。


 (この気の弱さ。強めに迫れば、大丈夫だろう。あの二人が仲たがいしていて助かった。もしあの聖女が、いつもの強気のときだったら、こうはいかなかったかもしれん。まあ、そのときは、爵位か領地でもちらつかせて釣ればいいことだがな)


 こうして宰相は、牙を研いで、その瞬間を待っていた。



  ◇



 ――さて。話を会議に戻そう。



 魔王討伐の共有会議は、粛々と進んでいた。各国が、自国と魔王軍との戦況を報告していく。そして、いよいよ私の国――湊ミライ聖教国の番が来た。


 例によって、説明は五百旗頭さんが引き受けてくれた。


「我が国は、魔王領と国境を接する最前線に位置します。荒れ果てた精霊郷を復興し、魔物の侵攻を退けながら、建国いたしました」


 よどみない、堂々たる説明。さすが、いおきべさん。頼りになるわ。


 と、そのときだった。



  ◇



「――失礼。一つ、よろしいかな」


 帝国の皇帝の後ろに控えていた、目つきの鋭い男が、すっと口を挟んだ。


 ……ん? こいつ、確か――騎士爵をくれたときの、あの軍師だ。


「その聖女様の国について、一つ、お尋ねしたいことが」


「なんでしょう」五百旗頭さんが、警戒するように応じた。


「いや、なに。単純な疑問なのですが」軍師は――いや、帝国では宰相と呼ぶらしいその男は、にこやかに言った。「小さな国が立ち上がったとして、そこは魔王軍と国境を接する最前線。いったいどうやって、その"軍事力"を維持しておられるのか、と」


 ……ぎくり、とした。



  ◇



 それは、うちの国の一番の弱点だった。


 うちの国は、精霊の力で土地は豊か。食べ物には困らない。でも、武器を作ったり、城壁を築いたり、軍隊を増やしたり――そういう"軍事力"は、まったく伸ばせない。豊かだけど、弱い国。それが、うちの実情だった。


「それは……」五百旗頭さんが答えようと口を開いた。「我が国は、精霊との協力により……」


「――いや」


 宰相が、その言葉を遮った。



  ◇



「勇者殿。失礼ながら」宰相は、にこやかに、しかし有無を言わさぬ口調で言った。「ここは、聖女様から直接お聞きしたい。よろしいか?」


 ……来た。


 私は、びくっと肩を震わせた。


「ちょっと待ってください」五百旗頭さんが前に出た。「私も勇者です。聖女と同格と考えていますが、私ではダメでしょうか?」


「いえ、ダメではありません。が」宰相はゆっくりと首を振った。「ここは、国家の君主――その立場にある聖女様にお聞きしているのです。勇者殿が聖女様を差し置いて話し始めるのは、いかがなものかと思いますが、いかに?」


「う……そうですね」五百旗頭さんは、悔しそうに引き下がった。「では、聖女様。よろしくお願いいたします」


 ……ああ。盾が、外された。



  ◇



「では、よろしいか、聖女様」宰相は、にっこりと笑った。「こたび、魔王軍との戦いを維持できているのは――しかも、魔王軍との国境において建国できているのは、いったいどういうわけでしょうか?」


 ……ど、どうしよう。


 みんなが見ている。各国の代表が、いっせいに私に注目している。


 答えは……えっと。本当のことを言えば、「魔王と不可侵条約を結んでいるから攻められない」。でも、それは絶対に言えない。秘密の条約だもの。そんなこと、この場でバラしたら、大変なことになる。


 じゃあ、なんて言えば。



  ◇



「お答えになりにくいようでしたら」宰相は、助け舟を出すふりをして、さらに絞り込んできた。「要点だけお聞きします。いったい、どの国のお陰で、建国から国家維持までできているのか。その国名だけでも、お答え願えないでしょうか?」


 ……どの国のお陰か。


 宰相はそう言いながら、ちらりと、会議の議事録係を見た。


 (議事録。ちゃんと取れよ)


 その目が、そう言っている気がした。


 ……ど、どうしよう。「帝国のお陰です」なんて言ったら、たぶん、まずい。でも、じゃあ、なんて……。


 私は、真っ白な頭で、ただただ固まっていた。


 助けて、いおきべさん。


 そう思っても、そのいおきべさんは、宰相に口を封じられてしまっている。私はたった一人で、この狡猾な罠の前に、放り出されていた。



(第4話 了)

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