第3話 湊ミライです(小声)
結局。……名乗り方が。……決まらないまま。
会議の、リハーサルが。……始まって、しまった。
◇
……各国の、代表が。……ずらり、と。……席に、着いている。
……荘厳な、円卓。……その、一つ一つに。……国の、命運を、背負った。……重鎮たちが。……腰を、下ろして、いる。
そして。……その、末席に。……私も。……ちょこん、と。……座って、いた。
……順番に。……軽い、自己紹介が。……始まる。
「――ヴェルファイア王国、宰相。……国王陛下の、名代として、参りました」
「――ドルバー連合王国、第二王子。……本会議の、議長を、務めます」
……みんな。……堂々と。……よく、通る、声で。……名乗って、いく。
……そして。……私の。……番が。……来た。
◇
「……あ。……えっと」
私は。……立ち上がる、ことも、できず。……ただ。……小さく。……口を、開いた。
「……湊、ミライ、です……」
……。
……しん、と。……した。
……自分でも。……分かるくらい。……小さな。……声だった。……蚊の、鳴くような。……いや。……蚊、の方が。……まだ。……大きい、かも、しれない。
……周りの、代表たちが。……「……ん?」、という。……顔を、して。……こちらを。……見た。
……うう。……穴が。……あったら。……入りたい。
◇
「……あの。……失礼。……お隣の、聖女、殿」
隣の、席の、代表が。……気を、遣って。……声を、かけて、くれた。
「……本会議には。……どういった、ご所存で。……ご参加を?」
「……あ。……はい」
……はい。
……それ、しか。……言えなかった。
……頭が。……真っ白。……何か。……気の利いた、ことを。……言わなきゃ、と。……焦れば、焦るほど。……言葉が。……出て、こない。
「……えっと。……その。……はい……」
……もう。……ダメ。……"はい"、しか。……出て、こない。
◇
「――失礼。……我が、聖女は」
と。……そのとき。……後ろに、控えていた。……五百旗頭さんが。……すっと。……一歩、前に、出た。
「……少々。……人見知りな、ところが、ありまして」
……人見知り。
……五百旗頭さんは。……そう、言ってから。……ちらり、と。……私を、見て。……小声で。……囁いた。
「……ミライ。……あなた。……人見知り、だったの? ……どれだけ。……内弁慶なんですか」
……う。
……気まずさも。……忘れて。……五百旗頭さんが。……素で。……びっくり、して、いた。
……そりゃ。……そうよね。……いつもの、私を。……知って、いれば。……この、豹変ぶりは。……信じられない、はず。
◇
……で。……結局。
私が。……"はい"、と。……"あっ、はい"、しか。……言えない、ものだから。……以降の、やり取りは。……全部。……五百旗頭さんが。……引き受けて、くれた。
「……我が、国の、紹介を、いたします」五百旗頭さんは。……よく、通る、声で。……代弁を、始めた。「……国名は。……湊ミライ聖教国」
「……え」私は。……思わず。……小声で。……漏らした。「……え。……そんな、名前……?」
「……なんですか」
「……いや。……私の、国。……そんな、名前、だったっけ……」
……五百旗頭さんが。……じとっ、と。……私を、見た。
◇
「……あのですね」五百旗頭さんは。……小声で。……ため息を、ついた。「……国名は。……あなたに、決めさせると。……変な、名前に、なったじゃ、ないですか」
「……そうだっけ」
「……そうです。……"湊ミライの、天才美少女にして、令和が、生んだ、すごい国"、とか。……"ミライランド"、とか。……適当な、ネーミングセンスを、発揮して。……収拾が、つかなくなって。……最後に。……妥協して。……国名に。……"湊ミライ"、だけ、残す、形で。……今の、"湊ミライ聖教国"、に、なったんでしょうが」
「……えー。……全然。……覚えて、ない」
「……忘れないで、ください。……自分の、国の、名前でしょう」
……いや。……だって。……国名、なんて。……興味、ないんだもの。……付いてる、"湊ミライ"、の、部分さえ。……気に入って、いれば。……あとは。……どうでも。……いいじゃ、ない。
◇
……そんな、私を、よそに。
五百旗頭さんは。……淀みなく。……国の、紹介を。……続けて、いった。
……国の、成り立ち。……立ち位置。……魔王領と。……国境を、接して、いること。……精霊たちと。……共に、ある、こと。……その、どれも。……よどみなく。……堂々と。……語って、いく。
……私は。……ただ。……隣で。……時々。……「……はい」、と。……相槌を、打つ、だけ。
……我ながら。……情けない。……でも。……体が。……口が。……言うことを。……聞いて、くれない。
◇
……ところが。
この、"五百旗頭さんが、全部、喋って。……ミライは、はい、しか、言わない"、という、光景は。
……各国の、代表たちの、目には。……なぜか。……別の、意味に。……映って、いた、らしい。
「……ほう。……聖女殿は。……ずいぶんと。……寡黙な、御方だな」
「……いや。……妙だ。……噂では。……あの、聖女は。……もっと。……饒舌で。……派手好きな、人物だと。……聞いて、いたが」
「……ふむ。……とすれば。……今日の、あの、態度。……何か。……考えが、あっての、ことかも、しれん」
「……勇者に。……あえて。……代弁させて、いる……? ……なるほど。……何か。……深い。……思惑が、あるのやも」
……。
……あの。……代表の、皆さん。
……買いかぶり、です。
◇
……そう。……彼らは。……勝手に。……深読み、して、いた。
……"聖女は、あえて、黙って、いる"。……"勇者に、喋らせて、真意を、隠して、いる"。……"きっと。……何か。……壮大な。……戦略が、あるに、違いない"。
……いやいや。……違うの。
……ただ、単に。……私が。……五百旗頭さんに、怒られて。……自信を、なくして。……人見知りして。……縮こまって、いる、だけ。……深い、思惑、なんて。……これっぽっちも。……ない。
……でも。……そんな。……真相を。……知る、はずも、ない。……各国の、代表たちは。……勝手に。……私を。……"底知れぬ、大物"だと。……思い込んで、いく、のだった。
……ある意味。……この、萎縮が。……逆に。……ハッタリに。……なって、いた。……とも。……言える、けれど。
◇
……そうこう、して、いるうちに。
リハーサルは、進み。……いよいよ。……本題――魔王討伐の、共有会議へと。……議題が、移った。
議長を、務める。……ドルバー連合王国の、王子が。……口を、開いた。
「……では。……本題に、入る。……諸君も、知っての、通り。……魔王軍の、勢力は。……この、大陸の、南部一帯に。……広く。……展開して、いる」
……会議場の。……空気が。……引き締まった。
「……現在。……魔王軍と。……国境を、接して、いるのは。……我らを、含め。……十一か国。……その、いずれもが。……日々。……魔王軍の、脅威に。……さらされて、いる」
……十一か国。
……そして。……その、中には。……当然。……私の、国も。……含まれて、いる。……さらに。……私を。……召喚した。……あの、王国も。……そして。……騎士爵を、くれた。……あの、帝国も。
……この、会議場に。……大陸の、思惑が。……全部。……集まって、いる、というわけ、ね。
……そんなことを。……ぼんやり。……考えて、いた、私は。
……まだ。……知らなかった。
……この、会議で。……私が。……ある、狙いの、"標的"に。……されて、いる、ことを。
(第3話 了)




