第1話 借りてきた猫
諸侯会議の、議長国。……ドルバー連合王国。
その、壮麗な、宮殿に。……私は、いた。
◇
……大きな、宮殿だった。
磨き上げられた、大理石の、床。……高い、天井。……行き交う、各国の、要人たち。……その、誰もが。……立派な、身なりを、して。……堂々と。……胸を、張って、歩いている。
……で。……その、真ん中で。
私は。……小さく。……なって、いた。
……いつもの、私なら。……こういう、華やかな、舞台。……大好物の、はず、なのに。……今日は。……なんだか。……気後れして。……壁際に。……そっと。……身を、寄せて、いた。
◇
……理由は。……わかっている。
……この前。……やらかしたのだ。
……国の、みんなが。……忙しく、働いて、いるのに。……私は。……五百旗頭さんに、構って、もらえない、というだけで。……ふてくされて。……八つ当たりして。……あげく。……国の、作物まで。……枯らして、しまった。
……あれ以来。……私は。……すっかり。……反省、モードだった。
……私って。……調子に、乗りすぎ、なのかも。……いつも。……自分の、ことばかり。……自己中心的、なのかも。……周りに。……迷惑ばかり。……かけて。……いるのかも。
……そう、考え始めると。……もう。……止まらなかった。……次から、次へと。……自分の、ダメな、ところが。……浮かんで、くる。
……あの、承認欲求の、塊だった、はずの、私が。……今や。……すっかり。……自信を、失って、いた。
◇
……そして。……もう一つ。……気が、重い。……理由が、あった。
……ちらり、と。……後ろを、見る。
……そこには。……護衛として、付いてきてくれた、アリシアと。……そして。……五百旗頭さんが、いた。
……五百旗頭さんは。……私の、視線に、気づくと。……ふい、と。……目を、逸らした。
……そう。……私と、五百旗頭さんは。……あれから。……まだ。……仲直り、できて、いなかった。
……気まずい。……ものすごく。……気まずい。
……声を、かけたい。……でも。……なんて、言えば、いいのか。……わからない。……"ごめん"?……いや。……そんなの。……言えない。……私が、悪かった、なんて。……口が、裂けても。
……で、結局。……何も、言えないまま。……こうして。……ぎくしゃくした、空気を。……引きずって、いた。
◇
……はあ。
……こんな、状態で。……私。……この、大舞台で。……やって、いけるの、かしら。
……周りを、見渡す。
……各国の、代表たち。……みんな。……王様、みたいな、貫禄の、ある、人たち、ばかり。……堂々と、談笑し。……余裕たっぷりに。……振る舞って、いる。
……それに、比べて。……私、ときたら。……壁の、花、どころか。……壁の、シミ。……存在感を。……消すことに。……全力を、注いで、いた。
……いつもの、私なら。……"見て、見て! 私、聖女よ!"、って。……ぐいぐい、前に、出て、いた、はず、なのに。
……今日は。……ただ。……早く。……終わって、ほしい。……それだけ。
◇
……で。……どうしても。……聞きたいことが、あった、私は。
……気まずい、五百旗頭さんには。……聞けない、ので。……もう一人の、後ろの、護衛――アリシアに。……そっと。……声を、かけた。
「……ねえ。……アリシア」
「はい。……なんでしょうか、聖女様」
……アリシアは。……ぴしっと。……敬語で、答えた。
……そう。……今日の、アリシアは。……私の、"護衛"、という。……公式の、任務中。……だから。……いつもみたいな。……砕けた、感じじゃ、なくて。……ちゃんと、した。……敬語。
……なんか。……それも。……ちょっと。……距離を、感じて。……寂しい。……けど。……まあ。……仕事だもの。……仕方ない、か。
◇
「……あのね。……今日の、会議。……どうしたら、いいと、思う?」私は、小声で、聞いた。
「……どうしたら、とは?」アリシアが、首を、かしげた。
「……いや。……その。……自己紹介の、仕方、なんだけど」
「……自己紹介、ですか」
「そう」私は。……もじもじ、しながら、言った。「……私って。……肩書きだけは。……いっぱい、あるでしょう。……だから。……"騎士爵の、湊ミライです"、って、言おうか。……それとも。……"Cランク冒険者の、湊ミライです"、って、言おうか。……迷って、ね」
……我ながら。……なんて。……しょうもない、悩み。
……でも。……今の、私には。……その、"どう、名乗るか"、すら。……大問題、だった。……だって。……ここに、いる、人たちは。……みんな。……すごい。……偉い、人たち。……その、前で。……名乗りを、間違えたら。……恥を、かく。
「……いや。……そこは」アリシアが、当然のように、言った。「……"聖女の、湊ミライ"で。……いいのでは?」
「……嫌よ」
……私は。……即座に。……首を、振った。
◇
「……なんで、ですか」アリシアが、不思議そうに、した。
「……だって」私は。……ちらり、と。……また、後ろの、五百旗頭さんを、見た。「……"聖女"って、言ったら。……あの。……目も、合わせて、くれない。……勇者さんと。……同列に、なるじゃない。……それだけは。……嫌」
「……はあ」アリシアは。……なんとも、言えない、顔を、した。「……では。……どう、しましょうか」
「……やっぱり。……騎士爵の、方が。……いいわよね」私は、腕を、組んだ。「……"騎士爵の、湊ミライです"、って。……うん。……それが。……いいかも」
……せめて。……名乗りだけでも。……ちゃんと、しなきゃ。
……そう。……思って、いた。……この、ときは。
……まさか。……その、"騎士爵"、という、肩書きが。……この、諸侯会議では。……とんでもなく。……"格下"だ、なんて。……夢にも。……思わず、に。
(第1話 了)




