第13話 だから、聖女なのですよ
精霊たちに、慰められて。……一度は。……機嫌を、直した。……はずだった。
……でも。……その、翌日も。……その、次の日も。……五百旗頭は。……相変わらず、忙しく。……帝都と、国とを。……行ったり、来たり。……私と、ゆっくり、話す、時間なんて。……ほとんど、なかった。
……そして。……私の、"もやもや"は。……日を、追うごとに。……大きく。……なって、いった。
◇
「――ミライ。……きいて、ください」
その日。……久しぶりに。……国に、戻ってきた、五百旗頭が。……私に、話しかけてきた。
「……きかなーい」私は。……ぷいっ、と。……そっぽを、向いた。
「……ミライ」
「……しばらく。……自宅に。……こもるから。……食事は。……少年に。……運ばせて、おいて」
「……ミライ、待ちなさい。……大事な、話が……」
「……五百旗頭さんなんて」私は。……とうとう。……言って、しまった。「……さっさと。……行けば、いいでしょう。……帝都、なり。……魔王のところ、なり。……行って。……いつも、みたいに。……ちやほや、されて。……さぞ。……機嫌が、いいこと。……でしょうね!」
……そして、私は。……自分の、部屋に。……こもって。……戸を、閉めた。
……五百旗頭の。……ため息が。……戸の、向こうから。……聞こえた、気が、した。
◇
……それから。……私は。……ふてくされて。……部屋から。……出なかった。
……布団を、かぶって。……ぐずぐずと。……もやもやを。……こじらせて、いた。
……別に。……五百旗頭が。……嫌いに、なった、わけじゃ、ない。……ただ。……寂しくて。……構って、ほしくて。……でも。……素直に。……"寂しい"って。……言えなくて。……こじらせて。……八つ当たりして。……そんな、自分に。……また。……嫌気が、さして。……ますます。……ふさぎ込む。
……最悪の、循環。
……ちなみに。……こういう、とき。……令和の、日本なら。……スマホを、いじって。……気を、紛らわせられた。……でも。……ここには。……それも、ない。……ただ。……もんもんと。……するだけ。
◇
……で。……私が。……部屋に、こもって。……数日が。……過ぎた、頃。
――国に。……異変が。……起き始めた。
◇
「……ミライさん。……ミライさん、いますか」
部屋の、戸を。……少年が。……叩いた。……その、声は。……なんだか。……切迫して、いた。
「……なによ。……ほっといて」
「……そう。……言わずに。……出て、きて、ください」少年は。……言った。「……その。……国が。……ちょっと。……変なんです」
「……変?」
「……はい」少年は。……戸惑った、声で。……続けた。「……あの。……せっかく。……精霊さんたちが。……育てて、くれた、作物が。……なんだか。……急に。……元気が、なくなって。……しおれ、始めて、いて。……それに。……ここ、数日。……ずっと。……天気も。……どんより、してて。……日が、差さないんです」
……。
……作物が。……しおれる。……天気が。……どんより。
……なによ、それ。……私が。……ふてくされてるのと。……何の。……関係が。
◇
……渋々。……部屋を、出て。……外に、出て、みると。
……確かに。……様子が。……おかしかった。
あんなに。……みずみずしかった、畑の、作物が。……力なく。……うなだれて、いる。……清らかだった、川の、水も。……なんだか。……淀んで、見える。……空は。……重い、雲に。……覆われて。……どんよりと。……暗い。
……そして。
いつもは。……私の、周りを。……きゃっきゃと。……飛び回っている、精霊たちも。
……なんだか。……元気が、なくて。……しょんぼりと。……うつむいて、いた。
「……あんたたち。……どうしたの」私は。……精霊たちに。……声を、かけた。
『……だって……』
『……ミライが……元気、ないんだもん……』
『……ミライが……ずっと……しょんぼりしてるから……』
『……ぼくらも……なんだか……元気、出なくて……』
……え。
◇
「――ミライ」
と。……そこへ。……五百旗頭が。……険しい、顔で。……やってきた。
「……状況は。……把握しました」五百旗頭は。……言った。「……この、数日。……国中の、作物が、枯れ始め。……天候も、崩れ。……精霊たちの、力が。……目に見えて。……弱まって、います。……何か。……原因が、あるはず。……でも。……見当が、つかない」
「……そんなの。……私に、言われても」私は。……口を、尖らせた。「……知らないわよ。……天気のことなんて」
……と。……そのとき。
ふわり、と。……あの、気高い、光が。……現れた。
……精霊王、だった。
◇
『……原因なら』精霊王は。……静かに、言った。『……はっきりして、います』
「……わかるの?」五百旗頭が。……身を、乗り出した。「……いったい。……何が。……原因なんですか」
『……聖女様の。……お心が。……沈んで、いること。……それが。……すべての。……原因です』
……。
「……は?」私は。……間の抜けた、声を、出した。
「……待って、ください」五百旗頭が。……眉を、ひそめた。「……それは。……つまり。……どういう。……ことですか。……まさか。……ミライ、一人の。……"機嫌"で。……国の、作物や、天候が。……国力そのものが。……変わる、と。……そう。……言うんですか」
……そうよ。……そんな。……馬鹿な、話。……あるわけ――
◇
『……違います』
精霊王の、声が。……凛と。……響いた。
その、声は。……いつもの、穏やかさとは。……どこか。……違って。……厳かで。……古い、祝詞のように。……一言、一言が。……重かった。
『……精霊は。』
『……感情に。……敏感なのです。』
『……ミライが、笑えば。』
『……精霊も、笑う。』
『……ミライが、悲しめば。』
『……精霊も、悲しむ。』
……しん、と。……その場の。……全員が。……静まり返った。
『……この、土地の、豊かさは。……精霊の、力。』
『……そして。……精霊の、力は。……あの、方の。……心の、ありよう。……そのもの。』
『……あの、方が、笑えば。……土地は、栄え。』
『……あの、方が、沈めば。……土地も、沈む。』
精霊王は。……ゆっくりと。……私を。……見た。
『……だから。』
『……あの、方は。』
『――聖女、なのですよ。』
◇
……私は。……言葉を。……失って、いた。
……ずっと。……"聖女"、なんて。……ただの。……勘違いから、生まれた。……称号だと。……思って、いた。
……戦えないのに、聖女。……何も、してないのに、聖女。……周りが、勝手に。……そう、呼んでいる、だけ。……そう、思って、いた。
……でも。……違った。
……精霊が。……私の、心に。……共鳴する。……私が、笑えば。……この、土地が、笑い。……私が、泣けば。……この、土地が、泣く。……私の、心、そのものが。……この、国の。……天気で。……実りで。……命、なのだ。
……"感情豊かで。……すぐに。……はしゃいだり。……拗ねたり。……する"。……私の。……一番。……子どもっぽくて。……しょうもない、ところ。
……それが。……この、国を。……生かして、いた。
◇
「……そんな」私は。……呆然と、呟いた。「……じゃあ。……私が。……ふてくされてたから。……作物が。……枯れ……?」
『……そういう、ことに。……なりますね』精霊王は。……ふふ、と。……いつもの、穏やかさに、戻って、微笑んだ。
「……ちょっ……」私は。……慌てた。「……それを。……早く。……言いなさいよ! ……私のせいで。……みんなが。……困ってた、なんて……!」
「……ミライ」五百旗頭が。……ふ、と。……表情を、緩めた。「……つまり。……あなたが。……笑って、さえ、いれば。……この国は。……安泰、なんですね」
「……そう、みたいね」
「……なら」五百旗頭は。……珍しく。……いたずらっぽく、笑った。「……私も。……もっと。……あなたを。……ちゃんと。……構って、あげないと。……いけませんね。……国の、ためにも」
……。
……なによ、それ。
……その、言い方だと。……まるで。……私が。……ただ。……構って、ほしくて。……拗ねてた、みたいじゃ、ない。
……いや。……まあ。……その、通り、なんだけど。
◇
……その、日から。……天気は。……少しずつ。……晴れて、いった。
……私の、機嫌が。……直る、につれて。……精霊たちも。……元気を。……取り戻し。……しおれかけた、作物も。……また。……すくすくと。……育ち始めた。
……なんとも。……締まらない、話だ。……聖女の、機嫌、一つで。……国の、豊かさが。……決まる、なんて。
……でも。……不思議と。……悪い、気は。……しなかった。
……だって。……それは。……つまり。……私が。……ただ。……そこに、いて。……笑って、いる、だけで。……この、国の。……役に、立って、いる、って。……ことだから。
……何も、しなくて、いい。……ただ。……機嫌よく。……笑って、いれば、いい。
……ふふ。……なにそれ。……最高の。……仕事、じゃない。
(……もっとも。……この、平和も。……あと。……ほんの、数日で。……破られる、ことに。……なる。……私の、知らない、ところで。……ある、"影"が。……すでに。……この、国に。……忍び込んで、いた、ことに。……浮かれた、私は。……まだ。……気づいて、いなかった)
(第13話 了)




