第11話 焼いたのは、帝国だった
不可侵条約が。……まとまった。
……その、締めくくりに。……五百旗頭が。……ふと。……表情を、引き締めて。……言った。
◇
「……魔王。……一つだけ。……言わせて、もらう」
「……なんだ」
「……あなたと、条約を、結ぶ。……それは。……いい」五百旗頭の、声には。……抑えた、怒りが、あった。「……でも。……これだけは。……忘れられない。……あなたたち、魔王軍が。……あの、精霊たちの、里を。……破壊した、こと。……荒れ果てさせた、こと。……あの、行為は。……許せない」
……そう。
あの、精霊郷。……私たちが、たどり着いた、とき。……あそこは。……無残に、焼け焦げ。……荒れ果てて、いた。……精霊たちは、散り散りに、なり。……精霊王さえ。……倒された、と。……聞いた。
……あれを、やったのが。……魔王軍、なら。……確かに。……許せない、話だ。
……ところが。
◇
「……待て」魔王は。……眉を、ひそめた。「……それは。……我らでは、ない」
「……は?」
「……あの、精霊郷を。……焼いたのは。……我ら、魔王軍では、ない」魔王は。……はっきりと、言った。「……あれは。……大半が。……帝国軍の。……"焦土作戦"、だ」
……。
「……焦土作戦?」五百旗頭が。……聞き返した。
「……そうだ」魔王は。……頷いた。「……帝国は。……我らの、侵攻を、食い止める、ために。……国境地帯を。……自ら。……焼き払った。……我らに。……使わせない、ために。……あの、豊かだった。……精霊の、里を。……何も、かも。……灰に、した」
「……そんな」
◇
「……信じられぬ、なら」魔王は。……言った。「……証拠を。……見せよう」
魔王が。……ぱち、ん、と。……指を、鳴らすと。
玉座の、間の、奥から。
……ふわり、と。
……一つの。……あたたかく。……気高い。……光が。……現れた。
それは。……私が、今まで、見た、どの、精霊よりも。……大きく。……澄んで、いて。……そして。……確かな。……"実体"を。……持って、いた。
『……どうも。……精霊王です』
「……せ、精霊王!?」
……倒された、はずの。……精霊王が。……そこに。……生きて。……いた。
◇
『……あそこが。……戦場に。……なってしまっては。……精霊たちも。……暮らして。……いけません』精霊王は。……穏やかに、言った。『……ですから、私は。……皆を、連れて。……魔王軍のもとへ。……避難して、いたのです』
「……避難……?」私は。……ぽかん、と、した。「……敵の。……魔王軍に……?」
『……ええ』精霊王は。……頷いた。『……魔族は。……私たち、精霊を。……害しません。……むしろ。……理性ある、魔王のもとは。……安全でした。……人間の、帝国が。……里を、焼く、一方で。……魔族が。……私たちを。……匿って、くれた。……皮肉な、話ですけれど』
……。
……私は。……言葉を、失った。
……人間が。……精霊の、里を。……焼いて。……魔族が。……精霊を。……匿った。
……ずっと。……"魔王軍=悪。……人間=正義"、だと。……思って、いた。……でも。……本当は。……そんな、単純な。……話じゃ。……なかったのだ。
『……それに。……ここだけの、話』精霊王は。……ふふ、と。……笑った。『……魔王軍。……なかなか。……居心地が。……良くて。……ね』
「……のんきね……」
◇
『……ところで。……聖女様』
精霊王が。……ふわり、と。……私の、前に。……漂ってきた。
『……聞いて、いますよ。……荒れ果てた、精霊郷を。……あなたが。……蘇らせて、くれた、こと。……散り散りに、なった。……野良の、精霊たちを。……あなたが。……励まして、くれた、こと。……そして。……この、たび。……魔王と。……不可侵の、約束まで。……結んで、くれた、こと』
「……ま、まあ。……それくらい。……当然、よ」私は。……つい。……胸を、張った。
『……ふふ。……頼もしい』精霊王は。……微笑んだ。『……そこで。……お願いが、あるのです』
「……お願い?」
『……あの、精霊郷。……あの、土地を。……これから。……あなたに。……お任せ、しても。……よろしいでしょうか』
◇
『……本来なら。……あの、土地は。……私が。……治める、べき、場所。……精霊たちの。……ふるさと、です』精霊王は。……言った。『……でも。……もう。……あの、里の、周りには。……あなたの、おかげで。……"中立地帯"が。……できました。……魔王軍とも。……不可侵の、約束が。……できた。……人も、精霊も。……安心して。……暮らせる。……そういう、土地に。……なりつつ、ある』
精霊王の、声は。……静かで。……あたたかかった。
『……ならば。……あの、土地は。……あなたに。……お任せ、するのが。……一番。……いいと。……私は。……思うのです。……精霊を。……敬う、でもなく。……見下す、でもなく。……ただ。……"友達"のように。……対等に。……接して、くれる。……あなたに』
「……」
『……どうか。……あの、土地を。……精霊と、人が。……共に、暮らす、場所を。……あなたに。……託させて、ください』
……。
……精霊王、から。……じきじきに。……土地を。……託される。
……ふふ。
……なんか。……すごい、こと。……言われてる、気が、する。
◇
「……いいわ」私は。……鷹揚に、頷いた。「……任せ、なさい。……その、精霊郷。……私が。……ちゃんと。……面倒、見て、あげる」
『……ありがとう、ございます』精霊王は。……深々と。……頭を、下げた。
……ふふ。……ふふふ。
……精霊王、から。……じかに。……頼まれたわ。……この、私が。……精霊たちの、土地を。……治める。……正式に。……認められた。……なんて。……名誉な。……ことかしら。
……もう。……ただの、帝国の、騎士爵じゃ、ない。……精霊王、公認の。……聖女、なのよ、私。
◇
……でも。……あとで。……五百旗頭に。……言われて。……気づいた。
「……ミライ。……あなた。……とんでもない、こと。……成し遂げましたね」
「……え? ……なにが?」
「……考えても、みてください」五百旗頭は。……しみじみと、言った。「……あなたの、国は。……帝国から。……爵位を、もらい。……魔王から。……国家として、認められ。……そして。……今。……精霊王、その人から。……土地を。……託された。……人間にも。……魔族にも。……精霊にも。……認められた、国、なんて。……この、世界の、どこにも。……ありませんよ」
……。
……そう。……言われて、みれば。
「……あなたは。……人間を。……力で、支配する。……"王"、では、ない」五百旗頭は。……続けた。「……精霊と。……人間が。……共に、暮らす。……その、土地の。……"象徴"、なんです。……あなたは。……知らず、知らずの、うちに。……自分の。……"国"を。……築いて、いた」
……国。
……私の。……国。
……ふうん。
「……そう。……なのかしら」私は。……いまいち。……ぴんと、こないまま。……呟いた。「……まあ。……でも。……悪くない、わね。……"聖女の、国の、女王"。……いえ。……象徴? ……うーん。……響きは。……"女王"の、方が。……いい、かも」
「……ミライ」五百旗頭は。……苦笑した。「……そういうところ、ですよ」
……なによ。……せっかく。……人が。……いい気分に。……なってた、のに。
(……こうして。……私は。……人間と、魔族と、精霊。……その、すべてに。……認められた、国の。……"象徴"に。……なった。……知らない、うちに。……とんでもない、ものを。……築いて、いた、なんて。……このときも。……やっぱり。……よく、わかって。……いなかった、けれど)
(第11話 了)




