第10話 あれは魔王軍の中でも最弱……!
「――不可侵条約を。……結ぼうと、思う」
魔王の、その、言葉に。……最初に、反応したのは。……私、ではなく。……五百旗頭、だった。
◇
「……不可侵条約」五百旗頭は。……顎に、手を、当てて。……考え込んだ。「……なるほど。……悪くない、話ですね」
「……そう、なの?」私は。……聞いた。
「ええ」五百旗頭は。……頷いた。「……いいですか、ミライ。……うちの、精霊郷は。……ちょうど。……帝国と、魔王領の。……境目に、あります。……つまり。……魔王軍が、攻めてくるなら。……真っ先に。……戦場に、なるのは。……うちなんです。……その、魔王軍と。……"攻めない"、という。……約束が、できるなら。……これほど。……ありがたい、話は。……ありません」
「……そうだろう」魔王は。……頷いた。
「……そして」五百旗頭は。……鋭い、目で。……魔王を、見た。「……魔王。……あなたの、側にも。……メリットが、ある。……そういう、こと、よね」
「……ほう。……勘が、いいな」
「……つまり」五百旗頭は。……言った。「……魔族に、特化した。……戦士である。……この、"勇者"と。……戦わずに。……済む。……そういう、ことでしょう」
……なるほど。……そういう、ことね。
◇
「……その通りだ」魔王は。……認めた。「……そなたの、力は。……我ら、魔族に、とって。……脅威だ。……戦わずに、済むなら。……それに。……越したことは、ない。……そして。……そちらにも。……もう一つ。……益を、やろう」
「もう一つ?」
「……精霊たちの、里は。……我ら、魔王軍からは。……一切。……攻撃しない。……そう。……約束、しよう」魔王は。……言った。「……そなたたちが。……大切にして、いる。……あの、精霊たちを。……我らは。……手に、かけぬ。……どうだ。……悪くない、話だろう」
……。
……精霊の、里を。……攻撃しない。
……それは。……確かに。……ありがたい。……この、荒れ果てた、精霊郷を。……やっと。……蘇らせ、始めた、ところ、だもの。……また、壊されては。……たまらない。
「……いいわ」五百旗頭は。……頷いた。「……ただし。……一つ、言っておく。……私たちは。……あなたと。……不可侵を、約束、できる。……でも。……帝国軍までは。……止められない。……うちは、今。……一応。……帝国の、庇護下に、あるから」
「……それで、構わん」魔王は。……頷いた。「……ただし。……条件が。……一つ、ある」
◇
「……そなたたちの、国は。……帝国軍に。……協力するのを。……拒否せよ」
「……拒否?」五百旗頭が。……眉を、ひそめた。「……それが。……できなければ? ……さっきも、言ったが。……うちは。……帝国の、庇護下に、ある。……完全に。……手を、切るのは。……難しい」
「……ならば。……せめて」魔王は。……言った。「……我らと。……戦って、いる。……"ふり"を。……してくれ」
「……ふり?」
「……そうだ」魔王は。……頷いた。「……帝国に対して。……"魔王軍と、交戦して、いる"、と。……見せかける。……だが。……実際には。……刃を、交えぬ。……そういう。……芝居を。……打って、ほしい。……それが。……できるなら。……不可侵は。……守られる」
……ふうん。
……なるほど。……表向きは。……敵の、ふりを、して。……裏では。……手を、結ぶ。……なんだか。……策略、めいて、いて。……ちょっと。……わくわく、する。
「……わかったわ」五百旗頭は。……頷いた。「……その、条件。……呑みましょう」
◇
……こうして。……話は。……まとまった。
私の、国と。……魔王軍の。……秘密の。……不可侵条約。
……ふふ。……なんだか。……すごいこと。……してる、気が、する。……一国の、聖女が。……魔王と。……密約を。……交わす。……絵に、なるじゃない。
……で。……気を、よくした、私は。……つい。……調子に、乗って。……言って、しまった。
「……ま、せいぜい。……約束は。……守りなさいよ、魔王」私は。……ふふん、と。……胸を、張った。「……もし。……うちに。……ちょっかいを。……出してきたら。……あの、皇太子救出作戦の、ときの。……私たちを。……思い出す、ことね。……今度は。……あれだけじゃ。……済まないわよ」
……ちなみに。……皇太子救出の、とき。……幹部を。……退けたのは。……実際には。……精霊たちの。……総攻撃、なのだけど。……そこは。……まあ。……私の、手柄、ということに。……して、おく。
◇
……ところが。
魔王は。……私の、その、虚勢を、聞いて。……ふ、と。……鼻を、鳴らした。
「……侮るな」魔王は。……言った。「……あの、とき。……そなたたちが。……戦った。……あの、魔王軍の。……幹部は……」
……ん?
……あの、幹部が。……どうしたって?
……あの。……皇太子救出の、とき。……私たちが。……苦戦、した。……あの。……強敵。……あれが。……実は。
……魔王と、私の。……声が。……ぴったりと。……重なった。
「「――あれは、魔王軍の、中でも。……最弱……!」」
……。
……しん、と。……玉座の、間が。……静まり返った。
……魔王も。……私も。……お互いに。……"え?"、という、顔で。……見つめ合った。
◇
「……なんで」
五百旗頭が。……こめかみを、押さえて。……ぼそっと、言った。
「……なんで。……二人して。……ハモるんですか……」
「……だって」私は。……当然のように、答えた。「……有名な。……セリフ、だもの」
……そう。……こういう、とき。……敵の、大物が。……"あの、強敵は。……我が、軍の、最弱だった"、って。……言う。……お約束、でしょう。……だから。……つい。……先回りして。……言っちゃった。
「……ふ」魔王は。……なぜか。……少し。……愉快そうに。……肩を、揺らした。「……そなた。……変わった、聖女だな」
「……よく、言われる」
……なんだか。……この、魔王。……最初は。……怖い、と、思ったけど。……話して、みると。……案外。……話の。……わかる、やつ、かも。
◇
「……ではでは」五百旗頭が。……仕切り直すように。……言った。「……話は、まとまりました。……我が、"聖女の、国"と。……魔王軍は。……本日を、もって。……秘密裏に。……不可侵条約を。……締結する。……それで。……よろしいですね」
「……うむ」魔王は。……重々しく。……頷いた。「……そなたたちの、国を。……一つの。……"国家"として。……認めよう。……我ら、魔族の。……隣人、として、な」
……国家。
……そう。……この、瞬間。
……私の、国は。……人間の、帝国、だけで、なく。……魔族の、魔王にも。……一つの、"国家"として。……認められた。
……どこの、大国にも。……完全には。……属さない。……人間とも。……魔族とも。……独自の、繋がりを、持つ。……小さいけれど。……したたかな。……独立国。
……もっとも。……当の、私は。
……"魔王と、密約を、交わした、聖女"、なんて。……かっこいい。……響きに。……ただただ。……酔いしれて。……いただけ。……なのだった。
(第10話 了)




