第9話 左45度が一番盛れるの
国境近くの。……魔王側の、城。
精霊たちの、案内で。……私と、五百旗頭は。……その、玉座の、間へと。……足を、踏み入れた。
◇
……薄暗い、広間の。……奥。
玉座に。……"それ"は。……座って、いた。
……人の、ようで。……人ならざる。……禍々しい、気配を、まとった。……大きな、影。……頭からは。……立派な、角が。……伸びて、いる。……ただ、そこに、座っている、だけで。……空気が。……ずしり、と。……重くなる、ような。……圧倒的な。……存在感。
――魔王。
「……そなたたちが。……勇者と、聖女か」
その、声は。……低く。……地の底から、響くようだった。
◇
と。……私が、口を、開くより、先に。
五百旗頭が。……すっと。……前に、出た。
「……そう。……私が、勇者よ」五百旗頭は。……腰の、得物に。……手を、添えて。……静かに、言った。「……魔王。……言っておくけれど。……私は、今。……あなたを。……やろうと、思えば。……やれる、距離まで。……来ている。……そして。……もし、私たちに。……何か、あれば。……魔族にだけ。……効く。……強力な、スキルが、発動する。……最終、奥義。……そういう、仕掛けよ」
……。
……いおきべ、さん。
……あんた。……いつの間に。……そんな、厨二病、キャラに。
「……ちょっと。……いおきべさん」私は。……小声で。……ささやいた。「……厨二、全開、ですね」
「……あなたに。……言われたく、ありません」
……ぐぬ。
◇
「……ふん」魔王は。……五百旗頭の、牽制を。……鼻で、笑った。「……我らは。……そこらの、魔物のように。……理性の、ない、生き物では、ない。……会見の、時と、場所くらいは。……わきまえて、いる。……この、席で。……そなたたちに。……手を、出す、つもりは、ない」
……ほう。
……魔物じゃ、なくて。……魔族。……ちゃんと。……理性が、あって。……礼儀を、わきまえる。
「……そう。……魔物と、魔族って。……違うんだね」私は、素直に、感心した。
「……その、通りだ」魔王は。……頷いた。
……と。……そこで。……魔王の。……視線が。……ふと。……私に。……向いた。
そして。……訝しげに。……言った。
「……ところで。……そこの。……小さい、方」
◇
「……なぜ。……正面を、向かん?」
……あ。
……気づかれた。
……そう。……私は。……さっきから。……魔王に対して。……体を。……やや、斜めに。……構えて、いた。……顔も。……まっすぐ、じゃなくて。……ちょっと。……角度を、つけて。
「……ああ、これ?」私は。……あっさり、答えた。「……映えよ、映え」
「……はえ?」
「そう。……私、ね。……正面より。……左から。……こう。……45度、くらいの、角度が。……一番。……盛れるの。……だから。……正面は。……勘弁して」
「……盛れる……?」
魔王は。……角の、生えた、頭を。……かしげた。……その、威厳ある、顔に。……ありありと。……困惑が。……浮かんで、いた。
◇
「……しかも。……そなた」魔王は。……さらに。……訝しげに、続けた。「……先ほどから。……精霊たちを、使って。……何やら。……水の、蒸気のような、ものを。……発生させて、おるな。……あれは。……何だ。……何かの。……術か」
……ああ。……それも。……気づかれた、か。
……そう。……私は。……こっそり。……精霊に、頼んで。……自分の、周りに。……うっすらと。……水の、霧を。……漂わせて、いた。
「……これ? ……エフェクトよ」
「……えふぇくと」
「知らないの?」私は。……得意げに、言った。「……こう。……周りに。……ふわっと。……霧を、かけると。……輪郭が。……ぼやけて。……ちょっと。……小顔に、見えるの。……あと。……なんか。……神秘的、っぽく。……なるでしょう。……聖女、だし」
「……」
魔王は。……しばし。……沈黙した。
「……意味が。……わからん」
「……私も。……分かりません」
……五百旗頭まで。……そう、言った。
……失礼ね。……二人とも。……これだから。……美の。……わからない、人は。
◇
「……まあ、いい」魔王は。……気を、取り直すように。……咳払いを、した。「……そなたの。……その。……よく、わからぬ、感性は。……ひとまず。……置いて、おこう。……それより。……本題だ」
魔王の、声が。……ぐっと。……真剣み、を、帯びた。
「……勇者。……聖女。……そなたたちに。……話しておきたい、ことが、ある」
「……なによ」
「……我ら、魔族と。……人間の。……この、争いの。……本当の、ところ、だ」
◇
「……そなたたち、人間は」魔王は。……語り始めた。「……我ら、魔族を。……一方的に。……"侵略者"だと。……"人類の、敵"だと。……思って、いるだろう」
「……違うの?」五百旗頭が。……問うた。
「……半分は。……その通りだ」魔王は。……頷いた。「……だが。……半分は。……違う」
魔王は。……ゆっくりと。……続けた。
「……勇者、だから。……正直に、言おう。……我ら、魔族はな。……確かに。……人間の、間に。……人間に、化けた、魔族を。……忍び込ませ。……争いを。……煽って、きた。……国と、国とを。……いがみ合わせ。……戦を。……絶やさぬように。……仕向けて、きた」
「……ほら」五百旗頭の、目が。……険しく、なった。「……そういう。……卑劣な。……人を、操るところが。……信じられない、のよ」
◇
「……なぜ。……そんなことを、するか。……わかるか」魔王は。……静かに、問うた。
「……人間を。……弱らせる、ため、でしょう」
「……違う」魔王は。……首を、振った。「……我ら、魔族はな。……長寿で。……身体能力にも。……優れている。……一体、一体は。……人間より。……遥かに、強い。……だが。……一つ。……致命的な。……弱点が、ある」
「……弱点?」
「……繁殖力だ」魔王は。……言った。「……我ら、魔族は。……人間のように。……数を。……増やせぬ。……子が。……なかなか。……生まれぬ。……だから。……長い、長い。……戦になれば。……数で、勝る、人間に。……いずれ。……すり潰される」
……。
「……人間は。……不思議な、ものでな」魔王は。……続けた。「……小競り合いを。……していないと。……すぐに。……まとまる。……そして。……まとまった、人間は。……その、矛先を。……決まって。……我ら、魔族に。……向けてくる。……"共通の、敵"として、な」
……なるほど。
「……だから。……我らは。……人間同士を。……争わせ、続ける。……人間が。……一つに、まとまって。……大挙して。……攻めてこないように。……それが。……数で、劣る、我ら、魔族が。……生き延びるための。……唯一の。……自衛策、なのだ」
◇
「……じゃあ」五百旗頭が。……ゆっくりと、言った。「……あなたたちは。……本当は。……争いたく。……ないの?」
「……その通りだ。……が」魔王は。……ここで。……少し。……言葉を、濁した。「……半分は。……違う」
「……半分?」
「……我ら、魔族はな。……本能で。……人間が。……嫌いだ」魔王は。……正直に、言った。「……理屈では、ない。……本能で。……人間を。……"嫌な、もの"だと。……感じる。……だから。……仲良く。……したくは、ない。……ただ。……関わりが。……なければ。……それに、越したことは、ない。……そう。……思って、いる」
「……つまり」五百旗頭は。……整理するように、言った。「……最初に。……ちょっかいを。……かけてきたのは。……人間の、方だ、と?」
「……元を、正せば。……な」魔王は。……頷いた。「……ただし。……我らも。……本能で。……人間を、嫌悪する。……だから。……出会えば。……つい。……手にかけて。……しまった、ことも。……あるだろう」
「……仕方が、ない、と? ……争うのは。……本能だから?」
「……そうだ」魔王は。……認めた。「……だが。……魔族の、中にも。……本能よりも。……理性を。……重んじる、者が。……いる。……この、私。……"魔王"、と、呼ばれる、存在は。……その。……理性を。……優先、できる。……数少ない。……一人、なのだ」
◇
……ふうん。
……なんか。……いろいろ。……言ってるけど。
……正直、半分くらい。……よく、わからなかった。
「……つまり。……どういう、こと?」私は。……しびれを、切らして、言った。「……争いたいのか。……争いたく、ないのか。……はっきり、しなさいよ。……結論は。……端的に! ……どっちとも、取れる。……発言は。……認めない!」
「……焦るな」魔王は。……苦笑した。「……そなたたちは。……魔族と、人間の。……過去の、しがらみを。……知らぬ。……だが。……これだけは。……言える」
魔王の、目が。……まっすぐ。……私たちを。……捉えた。
「……人間は。……今さら。……"争いを、やめよう"、と。……言われても。……やめられぬ。……王国や。……帝国の。……思惑や。……利権が。……絡んで、いるからだ。……だから。……私は。……せめて。……そなたの、国と。……"聖女の、国"、とだけは」
魔王は。……一つ。……大きく。……息を、吸って。……言った。
「……不可侵条約を。……結ぼうと、思う。……どうだ」
……。
……不可侵、条約。
……なんだか。……急に。……話が。……大きく、なってきた、わね。
(第9話 了)




