第6話 王国の駒から帝国の駒になっただけ
====================
第6話 王国の駒から帝国の駒になっただけ
====================
皇帝の、親征軍が。……去って、しばらく。
私が、上機嫌で。……精霊たちに。……"領主に、なった"自慢を。……して、いた頃。
――五百旗頭が。……帰ってきた。
◇
「――ただいま、戻りました」
旅装の、五百旗頭は。……出ていった、ときより。……どこか。……気配が。……変わっていた。
……上手く、言えないけど。……こう。……芯が。……一本。……通ったような。……以前より、ずっと。……静かで。……そして。……強い。
……どうやら。……目的の、"勇者の、遺物"とやらを。……無事、手に、入れた、らしい。……その、腰には。……見慣れない、得物が。……携えられて、いた。(……何なのかは。……今は、教えてくれなかった。……「使うときが、来れば、わかります」、と、だけ)
「おかえりなさい、いおきべさん」私は、駆け寄った。「……ふふ。……聞いて、驚きなさい。……私。……留守の、間に。……すごいこと、に、なったのよ」
「……すごいこと?」
「そう」私は、胸を、張った。「――私。……帝国の、騎士爵に、なったの。……しかも。……この、精霊郷、一帯が。……私の、領地よ。……どう? ……見直した?」
……五百旗頭の。……動きが。……ぴたり、と、止まった。
◇
「……ミライ」五百旗頭は。……低い、声で、言った。「……もう一度。……言ってください」
「だから。……私、爵位を、もらったの。……騎士爵。……で、この土地の、領主に……」
「――誰から」
「え? ……皇帝の、軍師、だけど」
……五百旗頭の、顔が。……みるみる。……険しく、なっていった。
「……あなた。……自分が、何を、したか。……わかって、いますか」
「……何って。……出世よ? ……喜ばしい……」
「――喜ばしく、ありません!」
五百旗頭の、一喝が。……響いた。……私は。……びくっと。……肩を、すくめた。
◇
「いいですか、ミライ」五百旗頭は。……怒りを、抑えるように。……一言、一言。……区切って、言った。「……爵位を、受ける。……領地を、貰う。……それ自体は。……いいでしょう。……問題は。……"誰から"、受けたか、です」
「……帝国、だけど」
「そう。……帝国です」五百旗頭は、頷いた。「……いいですか。……私たちは、元々。……王国に、召喚されて。……勝手に、使われて。……捨てられた。……"王国の、駒"、だった。……その、王国から、逃げて。……ようやく。……自由に、なった。……なのに」
……なのに。
「……あなたは、今。……自分から。……帝国の、爵位を、受けた。……帝国の、貴族に、なった。……これじゃあ。……"王国の、駒"から。……"帝国の、駒"に。……なっただけ、じゃ、ないですか!」
……。
……あ。
◇
「……爵位は、返してきなさい」五百旗頭は。……きっぱりと、言った。「……今すぐ。……あの、軍師のところへ、行って。……"やっぱり、いらない"、と。……突き返して。……私たちは。……どこの、国にも、属さない。……自由な、身で、いるべきです」
「……えー」私は、思わず、口を、尖らせた。「……やだ」
「やだ、じゃ、ありません」
「だって。……もう。……支度金、貰っちゃったもの。……それで、精霊郷の、整備、始めちゃったし。……今さら、返せないわよ」
「……支度金、まで」五百旗頭は。……頭を、抱えた。「……あなたって、人は……」
「それにさ」私は、畳みかけた。「……騎士爵に、なれば。……収入が、入るのよ、収入。……定職。……そしたら。……もう、少年に。……養われなくて、済むでしょう。……マウント、取れるでしょう。……それを、手放せ、って、言うの?」
「……マウント」
「そう。……マウント。……これ、私にとって、死活問題なの」
◇
「……はあ」五百旗頭は。……深い、ため息を、ついた。「……あのですね、ミライ。……もっと、危機感を、持ってください。……"帝国の、貴族"に、なる、ということは。……帝国の、政治に。……絡め取られる、ということです。……いずれ。……帝国は。……あなたを、使って。……いろいろと。……面倒なことを。……要求してきますよ」
「面倒なこと?」
「……例えば。……"貴族の、務め"として。……舞踏会だの。……宮廷の、集まりだの。……そういう、場に。……引っ張り出される、かも、しれません」
「……舞踏会」
……ぴくっ。
……ま、舞踏会。
「……なにそれ。……行く行く!」私は、目を、輝かせた。「……舞踏会! ……ドレス着て。……キラキラした。……あの、貴族の、集まりでしょう!? ……憧れてたの!」
「……ミライ」五百旗頭は。……冷ややかに、言った。「……あのですね。……舞踏会、なんて。……そんな。……華やかな、ものじゃ、ありません」
「え?」
「……貴族の、社交界、なんて。……腹の、探り合いの、巣窟です」五百旗頭の、目が。……据わった。「……笑顔の、裏で。……足を、引っ張り合い。……甘い、言葉で。……罠に、嵌める。……嘘と、打算と、裏切りが。……渦巻く。……魑魅魍魎の。……跋扈する。……伏魔殿ですよ。……私は。……勇者として。……嫌というほど。……見てきました」
……うっ。
……なんか。……急に。……怖く、なってきた。
◇
……でも。……ここで、引いては。……女が、廃る。
「……で、でも。……もう。……騎士爵、貰っちゃったし」私は。……口を、尖らせた。「……それに。……悪い、ことばかり。……でも、ないでしょう。……ほら。……精霊郷が。……正式に。……私の、土地に、なったのよ。……これで。……大手を、振って。……精霊たちと。……ここを。……立て直せる」
「……それは。……まあ。……そうですが」
「でしょう?」私は、畳みかけた。「……ねえ。……いいでしょう? ……ねえ。……いおきべ、さん」
……五百旗頭は。……しばらく。……こめかみを、押さえて。……何か、考えて、いた。
……それから。……ふう、と。……大きく。……息を、吐いた。
◇
「……はあ。……わかりました。……もう」五百旗頭は。……渋々、といった、様子で。……言った。「……済んで、しまった、ものは。……仕方、ありません。……返せと、言っても。……あなた、返さないでしょうし」
「返さないわ」
「……でしょうね」五百旗頭は、苦笑した。「……それに。……よくよく、考えれば。……悪いこと、ばかりでも、ない、かも、しれません」
「でしょう!?」
「……私も。……遺物を、手に入れて。……以前より。……ずっと、力が、つきました」五百旗頭は。……腰の、得物に。……そっと、手を、添えた。「……アリシアも。……なんだか。……見ない、間に。……腕を、上げた、ようですし」
……ぎくっ。
(……あれは。……私の、こっそり、工作の、おかげ。……なんだけど。……そこは。……黙って、おこう)
「……それに」五百旗頭は。……ふと、周りを、見回した。「……この、聖女の、噂を、聞きつけて。……ぽつぽつと。……人も。……集まり始めて、いる、ようですし。……守るべき、ものが、増えたなら。……腰を、据えて、拠点を、構えるのも。……悪くない。……ええ。……そう、ですね」
……五百旗頭は。……自分を。……納得させるように。……何度か。……頷いた。
「……わかりました、ミライ。……やりましょう」五百旗頭は。……顔を、上げた。「……どうせ、こうなったなら。……この、精霊郷を。……ちゃんとした。……"国"に。……仕立て上げましょう」
「……国!」私は。……ぱっと。……顔を、輝かせた。「……いいわね、それ! ……私の、国!」
「……ええ。……ただし」五百旗頭は。……釘を、刺した。「……面倒な、交渉ごとは。……全部。……私が、やります。……あなたは。……余計なことを。……喋らないで、ください。……特に。……あの、軍師の、前では」
「……失礼ね。……私だって。……ちゃんと……」
「――喋らないで、ください」
「……はい」
……こうして。……なし崩し的に。……私の、"国づくり"は。……本格的に。……始まったのだった。
(第6話 了)




