第4話 皇帝が、来た
その日も、私は。……精霊たちと、一緒に。……せっせと、社を、掘り起こして、いた。
土に、まみれ。……汗を、かき。……我ながら。……聖女、というより。……発掘作業員。
◇
『……ミライ! ……ミライ、たいへん!』
と、そのとき。……見張りを、していた、精霊が。……慌てて、飛んできた。
『……南から! ……軍隊が! ……すっごい、数の、軍隊が、来る!』
「……軍隊?」
私は、土を、払って、立ち上がり。……南の、方角を、見た。
……地平線の、向こうから。……砂煙を、上げて。……こちらへ、向かってくる。……大軍勢が、あった。
整然と、並んだ、隊列。……磨き上げられた、鎧。……はためく、無数の、旗。……その、旗印は――
「……帝国軍……」私は、呟いた。「……それも。……この前の、比じゃ、ないわね。……本軍、じゃない、これ」
『……また、戦争?』精霊たちが。……怯えて、身を、寄せ合った。『……ここ、また、戦場に、なるの……?』
「……落ち着きなさい」
私は、精霊たちを、宥めながら。……内心。……身構えた。
◇
……まずいわね。
こんなときに、限って。……五百旗頭は、遺物探しで、不在。……アリシアは、ダンジョンで、修行中。……少年は。……街まで、買い出しに、行かせて、いる。(会計係として、物資の、調達を、任せて、いるのだ)
……つまり。……今、この場に、いる、まともな、戦力は。……私、一人。
……いえ。……精霊たちが、いるから。……戦えないことは、ない。……でも。……相手は、帝国の、本軍。……いくらなんでも。……数が、違いすぎる。
……どう、する。……逃げる?……戦う?……それとも――
◇
「――聖女、湊ミライ殿と、お見受けする!」
軍勢の、先頭から。……一騎の、伝令が。……駆けてきて。……声を、張り上げた。
「我らは、帝国、皇帝陛下の、親征軍である! ……陛下が、聖女殿に、お会いに、なりたいと、仰せだ! ……至急、陣中まで、ご足労、願いたい!」
……皇帝。
……皇帝陛下、が。……私に、会いたい?
……ほう。
……身構えていた、緊張が。……すっと、ほどけて。……代わりに。……じわじわと。……別の、感情が、湧いてきた。
……ふふ。……そう。……とうとう。……皇帝陛下まで。……この、私の、噂を、聞きつけたのね。
……戦争、じゃ、なかった。……お呼び出し、だった。……それも。……一国の、頂点からの。
◇
『……ミライ、行くの?』精霊が、心配そうに、言った。『……罠かも、しれないよ?』
「……大丈夫よ」私は、鼻で、笑った。「……向こうが、"会いたい"って、言ってるんだから。……いきなり、斬りかかっては、こないでしょう。……それに」
……それに。
……皇帝に、呼ばれる、聖女。……なんて、いい響き。……このシチュエーション。……逃す手は、ないわ。
「……ちょっと、行ってくる」
『……え、一人で?』
「一人で、行くのが。……かっこいい、でしょう」私は、髪を、かき上げた。「……単身、敵陣に、乗り込む、聖女。……ふふ。……絵に、なるじゃない」
……もっとも。……本当は。……他に、誰も、いないから。……一人で、行くしか、ない、だけ、なのだけど。……そこは。……言わないで、おく。
◇
……で。
私は、精霊たちを、数匹だけ、連れて。……帝国軍の、陣中へと。……乗り込んだ。
整然と、並んだ、天幕。……行き交う、兵士たち。……その、中央に。……一際、大きく、豪奢な。……皇帝の、陣幕が、あった。
中へ、通されると。……そこには。
……壮年の、男が。……どっしりと。……椅子に、腰かけて、いた。
立派な、髭。……鋭い、眼光。……身に、まとう、豪奢な、衣。……なるほど。……これが。……帝国の、皇帝、ね。
そして。……その、脇に。
……もう一人。……痩せぎすの、男が。……立っていた。
◇
……この、痩せた、男。
……なんだか。……妙に。……目つきが、鋭い。
文官らしき、装い。……でも。……その、目は。……武人の、それより、ずっと。……油断が、ならない。……こう。……相手の、腹の、底まで。……見透かそうと、するような。……値踏みするような。……そういう、目。
……ふうん。……なんか。……好きじゃ、ないタイプね、こいつ。
男は。……私が、入ってくると。……すっと、目を、細めて。……口元に。……うっすらと。……笑みを、浮かべた。
「……ようこそ、おいで、くださいました。……聖女様」男は、慇懃に、頭を、下げた。「……私は、皇帝陛下に、お仕えする、軍師で、ございます。……以後、お見知りおきを」
……軍師。
……ふうん。
(……このとき、私は。……まだ、知らなかった。……この、目つきの、鋭い、軍師こそが。……これから。……私を、まんまと。……盤上の、駒に、しようと、企む。……張本人だ、ということを。……そして。……そういう、腹の探り合いが、大の苦手な、私にとって。……頼れる、五百旗頭が、隣に、いないことが。……どれほど。……致命的か、ということを)
(第4話 了)




