第3話 足手まとい(と、口が滑る)
精霊郷に、腰を、落ち着けて、数日。
五百旗頭が。……ある朝。……みんなを、集めて、切り出した。
◇
「――少し、ここを、離れます」
「え?」私は、聞き返した。「どこへ?」
「南です」五百旗頭は、言った。「……この、精霊郷の、さらに、南に。……"勇者の、遺物"が、眠っている、という、噂が、あります。……勇者である、私になら。……それを、扱えるかも、しれない。……手に入れれば。……大きな、戦力に、なります」
「……ふうん。……で、いつ、行くの。……みんなで?」
「いえ」五百旗頭は、首を、振った。「……私、一人で、行きます」
「一人で?」
「ええ。……大勢で、動くと、目立ちますし。……危険も、伴う。……身軽な、方が、いい」
◇
と、そのとき。
「――待ってください」
アリシアが。……ずい、と、前に、出た。
「五百旗頭さん。……私も、連れていって、ください」アリシアは、真剣な、顔で、言った。「……危険なら、なおさら。……一人より、二人の、方が、いい。……私、これでも、剣には、自信が、あります。……お役に、立てます」
……アリシア。
こいつ。……相変わらず、熱いわね。……格上に、食らいついて、成長する。……そういう、女だった。
「……ありがとうございます」五百旗頭は。……少し、困ったように、微笑んで。……それから、言った。「……でも。……今回は。……遠慮して、おきます」
「……え」
「……あなたには。……ここで。……やってもらいたいことが。……たくさん、ありますから」
……やんわりと。……でも、はっきりと。……断られた。
◇
アリシアの、顔が。……さっと、曇った。
……ああ。……わかりやすいわね、こいつ。……"足手まといだと、思われたんだ"って。……顔に、書いてある。
「……そう、ですか」アリシアは、無理に、笑って。……うつむいた。「……そう、ですよね。……私なんか。……ついていっても。……足を、引っ張るだけ、ですもんね」
「――そうそう。足手まといだって」
「……ミライ!」
……あ。
……つい。……口が、滑った。
五百旗頭が。……鋭く、私を、睨んだ。「……言わないの!」
「……え。……だって。……本人が、言ったから。……合ってるかと」
「合ってても、言わないの!」
……アリシアは。……ますます、しょんぼり、した。
……ちっ。……やってしまったわ。
◇
その日の、夜。
私は、こっそり、精霊たちを、集めた。
「……ねえ、あんたたち。……ちょっと、相談が、あるんだけど」
『なになにー?』
「……アリシアのこと」私は、腕を、組んだ。「……あいつ。……今日、五百旗頭さんに、断られて。……すっかり、落ち込んでる、でしょう。……"自分は、足手まといだ"って」
『……あー。……しょんぼりしてたねー』
「……あれ、見てると。……なんか。……調子が、狂うのよね」私は、口を、尖らせた。「……で。……ちょっと、力を、貸してほしいの」
◇
「……いい? これから、私は。……アリシアに、"特訓"を、してあげる」私は、精霊たちに、囁いた。「……近くの、ダンジョンで。……修行だ、って、言ってね。……で。……そのとき。……あんたたち。……こっそり、アリシアに、ついて。……あいつが、戦うとき。……そっと、力を、分けて、やってほしいの」
『……ふむふむ』
「……ただし。……絶対に。……気づかれちゃ、だめ。……アリシアには、精霊は、見えないから。……あいつが、"自分の、力で、強くなった"って。……思い込むように。……こっそり、支えるの」
『……なるほどねー』
『……でも、それって』一匹の、精霊が、首を、かしげた。『……ミライが、力を、貸してるって、ことに、しちゃうんだよね? ……アリシアには』
「そうよ」私は、頷いた。「……表向きは。……"私が、特別に、力を、分けてやる"って、ことにするの。……そうすれば。……あいつも、素直に、受け取るでしょう。……で、修行して。……ちょっとずつ、手応えを、感じて。……自信を、取り戻す。……そういう、寸法よ」
……精霊たちが。……顔を、見合わせて。……それから。……くすくす、笑った。
『……ミライって』
『……なんだかんだ。……優しいねー』
「……はあ?」私は、むっと、した。「……優しく、なんか、ないわよ。……ただ。……しょんぼりした、アリシアを、見てるのが。……鬱陶しいだけ。……さっさと、元気に、なってもらった、方が。……こっちも、気が、楽なの。……それだけ」
『……はいはい』
『……そういう、ことに、しておいてあげる』
……こいつら。……生意気。
◇
翌日。
私は、アリシアを、呼び出した。
「アリシア。……あんた、強く、なりたい?」
「……え?」アリシアは、きょとん、と、した。「……そりゃ、なりたいですけど」
「なら」私は、髪を、かき上げて。……もったいぶって、言った。「……特別に。……この、聖女、湊ミライが。……あんたに、力を、授けて、あげる」
「……力を?」
「そう。……私の、聖なる、力を。……少しだけ、分けて、あげるの。……で、あんたは。……近くの、ダンジョンで。……その力を、使いこなす、修行を、するのよ。……いわば、試練ね」
「……い、いいん、ですか? ……そんな、貴重な、力を。……私なんかに」
「いいの」私は、鷹揚に、頷いた。「……あんたには。……期待、してるんだから。……ほら。……行くわよ」
◇
……で。
私は、アリシアを、連れて、近くの、ダンジョンに、潜った。
もちろん。……私の、"聖なる、力"、なんて。……ただの、口実。……本当に、アリシアを、支えているのは。……こっそり、後ろを、ついてきている。……精霊たち。
「――いくわよ、アリシア。……そこの、魔物。……倒してみなさい」
「は、はい……!」
アリシアが、剣を、構えて。……魔物に、斬りかかる。……その、瞬間。……精霊たちが。……そっと、彼女の、剣に。……力を、宿らせた。
――ザシュッ!
いつもより、ずっと、鋭い、一撃。……魔物が。……あっけなく。……崩れ落ちる。
「……え」アリシアが、目を、見開いた。「……い、今の。……私……?」
「そうよ」私は、うんうん、頷いた。「……ほら、ね。……私の、力を、借りれば。……あんたも。……これくらい、できるの。……あとは。……その、感覚を。……自分の、ものに、していきなさい」
「……は、はい……!」
アリシアの、目が。……きらきら、輝きだした。
◇
それから、数日。
アリシアは、毎日、ダンジョンで、修行を、続けた。……私が、力を、貸している(と、思い込んでいる)ので。……安心して。……のびのびと。……剣を、振るった。
そして。……修行を、重ねるうちに。……彼女は。……本当に。……少しずつ。……強く、なっていった。
……いえ。……正確には。……"強くなった、気に"、なって、いった。
でも。……それで、いいの。……大事なのは。……"自分は、やれる"って、思えること。……その、自信が。……人を、変えるんだから。
「……ミライさん」ある日。……アリシアが。……晴れやかな、顔で、言った。「……ありがとう、ございます。……私。……なんだか。……前より、ずっと、戦える、気が、します。……これも、全部。……あなたが、力を、貸して、くれた、おかげです」
「……ふん」私は、そっぽを、向いた。「……勘違い、しないで。……力を、貸したのは、きっかけだけ。……強く、なったのは。……あんたが、努力したから、よ」
……まあ。……半分は、精霊の、おかげ、なんだけど。……そこは。……言わないで、おいて、あげる。
(……アリシアが。……"自分の、力だ"って。……信じられる、なら。……それが、一番。……いいんだから)
◇
……そういえば。
私は、ふと、思った。
……"精霊に、支えられて、強くなって。……でも、自分の、実力だと、思い込んでる"。
……あれ。……これって。……誰かに、似てる、ような。
……いえ。……気のせいね。……うん。……きっと、気のせい。
……で、五百旗頭は。……その頃には、もう。……たった一人で。……南の、遺物を、探しに。……旅立って、いた。
……そして、私は。……精霊たちと、一緒に。……荒れ果てた、精霊郷の。……埋もれた、社を。……せっせと、掘り起こす、日々を。……送り始めたのだった。
……いつのまにか。……冒険者、というより。……すっかり、土木作業員、みたいだけど。……まあ。……いいでしょう。
(第3話 了)




