第1話 荒れ果てた約束の地
私たちは、ついに、たどり着いた。
南の、精霊郷。……高位精霊が、暮らすという。……そして、その先には、伝説の、武器が、眠るという。……冒険の、目的地。
◇
……のだけれど。
目の前に、広がっていた、光景に。……私は、思わず、言葉を、失った。
――そこは。……荒れ果てた、大地、だった。
黒く、焼け焦げた、大地。……薙ぎ倒された、木々。……干上がった、川床。……かつては、緑豊かで、清らかな、水が、流れていたのであろう、その、面影は。……もう、どこにも、なかった。
「……なにここ」私は、呆然と、呟いた。「……精霊郷って。……もっと、こう。……キラキラした。……幻想的な。……そういう、ところじゃ、なかったの」
「……荒らされたようですね」隣で、五百旗頭が、眉を、ひそめた。「……それも、かなり、徹底的に」
◇
――魔王軍の、仕業だ。
同行していた、精霊たち――イフリートや、ウンディーネが。……沈んだ、声で、教えてくれた。
『……ここは、魔王軍の、侵攻を、受けたんです』イフリートが、言った。『……大地は、破壊され。……精霊たちは、散り散りに。……そして。……この地を、治めていた、精霊王も……倒された、と』
「……精霊王が?」
『はい。……もう、この精霊郷は。……昔の、面影も、ありません』
……ふうん。
……精霊王。
……ちょっと、興味が、あったのよね。……一度、会って、みたかった。
◇
……いえ。
正直に、言うと。……ちょっとだけ、ほっと、した。
だって。……精霊王、なんて。……いかにも、偉そうな。……「精霊たちを、束ねる、王」でしょう。……そういうのって。……絶対、指示厨、なのよ。
「聖女よ、精霊を、敬いなさい」だの。……「その、詠唱は、正しくない」だの。……「土地神への、祈りが、足りぬ」だの。……いちいち、口を、出してくるに、決まってる。……ああ、うるさい。……想像しただけで、うんざり。
……だから。……その、精霊王とやらが。……もう、いない、というのなら。……まあ。……悪くない、わ。(※不謹慎)
◇
「……ミライさん。……あれ、見てください」
トウリが――ああ、そうそう、この、気弱な、少年。……いつのまにか、みんな、「トウリ」って、名前で、呼ぶように、なったのよね。……私は、呼ばないけど。……面倒くさいから。「少年」で、いいでしょう。
その、少年が。……荒れ地の、片隅を、指さした。
……そこには。
小さな、光の、玉が。……いくつも。……ふわふわと。……力なく、漂っていた。
……精霊? でも。……私の、知ってる、精霊たちより。……ずっと、小さくて。……弱々しくて。……なんだか。……おどおど、している。
◇
『……あの子たちは』ウンディーネが、痛ましそうに、言った。『……野良の、精霊です。……ここも、他の、土地も。……魔王軍に、荒らされて。……住処を、失って。……行き場が、なくなって。……この、精霊郷に、流れ着いた、子たち』
……野良精霊。
私は、その、小さな、光たちを、見た。
彼らは。……瓦礫の、陰に、隠れたり。……焼けた、木の、根元で、小さく、なったり。……びくびくと、震えながら。……あてもなく、さまよって、いた。
……なんだか。……見て、いられない、光景ね。
「……で。……この土地。……立て直すことは、できないの?」私は、イフリートに、聞いた。
『……それが』イフリートは、言葉を、濁した。『……難しいです。……立て直そうとしても。……魔王軍が、また、荒らしに、来ますし。……それに。……ここは、帝国と、魔王領の、境目。……人間の、帝国軍も。……ここを、戦の、舞台に、選ぶんです。……だから。……どうせ、また、壊される。……立て直しても。……無駄だ、と』
……無駄。
……ふうん。
……陰気な、話ね。
◇
一同、しばらく、沈黙した。
せっかく、はるばる、やってきた、精霊郷が。……こんな、有様。……目的の、一つだった、高位精霊との、出会いも。……この、様子じゃ。……望み薄。……伝説の、武器の、手がかりも。……ここでは、得られそうに、ない。
……陰鬱な、空気が。……重く、垂れ込めた。
「……どうしましょうか」五百旗頭が、ため息を、ついた。「……正直、当てが、外れましたね。……この土地で、力を、つける、つもりでしたが。……これでは」
「……そうね」私も、腕を、組んだ。
……さて。……どうしたもの、かしら。
……と、そのときだった。
◇
『……あ、あの……』
おずおずと。……声が、した。
見ると。……さっきの、野良精霊たちが。……いつのまにか。……私の、周りに。……そろりそろりと。……集まってきて、いた。
『……あなた……精霊が、見える、人……?』
『……しかも……こんなに、たくさんの、精霊を……従えてる……』
『……もしかして……すごい、人……?』
……ほう。
……この子たち。……私が、見えるのね。……そして。……私の、周りの、精霊たちを、見て。……おどおど、しながらも。……ちょっと、期待の、こもった、目で。……私を、見上げている。
……ふふ。
……そう。……そうよ。……私は、すごい人。……この、湊ミライ、様よ。
……なんだか。……久しぶりに。……この、"崇められる"感じ。……いいわね。
(第1話 了)




