第10話 死にたくなければ私の後ろにいろ
魔王軍の、幹部の、視線が。……後方の、私を、捉えた。
◇
「……あの、小娘。……あれが、諸悪の、根源か」
幹部は。……ぎり、と、牙を、剥いた。
「勇者の、剣は、厄介だが。……あの、後方の、"聖女"を、叩けば。……この、忌々しい、大魔法の、雨も。……止むはず……!」
……あら。
……こっちに、気づいた。
幹部は。……ぐん、と、身を、低くして。……戦場を。……一気に、駆け抜けてきた。……精霊たちの、放つ、魔法の、雨を。……巧みに、かいくぐり。……まっすぐ。……後方の、私、めがけて。
「――ミライ! 後ろです、狙われてる!」五百旗頭が、叫んだ。……でも、彼女は、敵陣の、奥。……間に、合わない。
……ふむ。
……なるほど。……絶体絶命。……敵の、幹部が。……私に、迫る。……周りには、逃げ惑う、帝国兵、たち。
……。
……あ。……これ。……これ、じゃない!
◇
……そう。……これは。……あの、シチュエーション。
仲間が、危険な、とき。……身を、挺して。……みんなを、庇う、あの、瞬間。
「――みんな、下がって!」私は、さっと、両手を、広げ。……近くで、うろたえていた、帝国兵たちの、前に。……立ちはだかった。「……死にたくなければ。……私の、後ろに、いなさい!」
……ああ。
……言えた。……この、セリフも。……ずっと、言ってみたかったの。
(……回収。……回収したわ。……ふふ。……脳汁、どぱどぱ)
帝国兵たちが。……ぽかん、と、した。
「……せ、聖女様……!」
「聖女様が、我らを、庇って……!」
……ふふ。……いい、反応。
◇
でも。……問題は、ここから、だった。
幹部は。……もう、目前。……その、腕には。……禍々しい、闇の、刃が。……振り上げられて、いる。……あと、数秒で。……私は。……真っ二つ。
……で。……こういう、とき。……私は。……詠唱を、始める。
「――古より、紡がれし、原初の、焔よ。……我が、手に、宿りて。……すべてを、灰燼に、帰せ……」
「……ミライ、詠唱、悠長すぎます! 間に、合わな……」五百旗頭の、悲鳴。
……ところが。
……今回ばかりは。……間に、合った。
……なぜなら。……幹部が、私に、たどり着くまでの。……その、数秒が。……ちょうど。……私の、長い、長い、詠唱の。……最後の、一節と。……ぴったり。……重なった、から。
「――我は、原初を、統べる、者。……焔よ、奔れ。……我が、意志の、ままに……ッ! ……ファイアボール! ファイアボール! ファイアボール!」
◇
――ごうっ、ごうっ、ごうっ!
私の、手のひらから。……三連の、火球が、放たれ。
そして、それと、寸分、たがわぬ、瞬間。
――どがががががががっ!!
この、あたり一帯の。……地元の、精霊たちが。……ミライの、詠唱、完了を、合図に。……一斉に、総攻撃を、開始した。
炎。……水。……土。……風。……光。……ありとあらゆる、属性の、魔法が。……幹部、ただ、一体に。……集中砲火で、叩き込まれた。
「……ぐ、が……あああああっ!?」
闇の、刃を、振り上げた、まま。……魔王軍の、幹部は。……あらゆる、属性の、魔法に、飲み込まれ。……黒焦げに、なって。……吹き飛んだ。
「……ば、馬鹿な……人間の、小娘の、魔法、如きで……この、私が……ッ」
幹部は。……最後に、そう、呻いて。……ずるり、と、後退し。……仲間の、魔物とともに。……戦線を、離脱していった。
◇
……しん、と。……戦場が、静まった。
「……せ、聖女様が……!」
「幹部を……あの、幹部を、退けたぞ……!」
「うおおおおっ! 聖女様、万歳……!」
帝国軍から。……地鳴りの、ような、歓声が、上がった。
……ふふ。
……いい気分。
……ちなみに。……今の、火球。……あれは、確かに、私が、撃った。……でも、幹部を、吹き飛ばしたのは。……大半が、精霊たちの、総攻撃。……私の、火球は。……いわば、号砲。……着火の、合図、みたいな、もの。
……でも。……そんなこと。……誰も、知らない。……みんな、「聖女様が、幹部を、退けた」と。……信じ込んで、いる。
「……ねえ、チュートリアル」私は、こっそり、囁いた。「……あんたたち、すごい、火力ね。……これ。……その気になれば。……精霊だけで。……軍隊、作れるんじゃ、ない?」
『……あはは。……どうでしょうね』イフリートは、笑った。……なんだか、その、笑いが。……ちょっと、意味ありげ、だった、気も、するけど。……まあ、いいわ。
◇
幹部を、退けた、ことで。……魔王軍の、包囲は。……大きく、綻んだ。
私たちは、その、綻びを、突いて。……さらに、敵陣を、切り崩し。……ついに。……包囲の、中心に、たどり着いた。
そこには。……ぼろぼろに、なった、帝国軍の、残存部隊が。……傷つき、疲れ果てながらも。……必死に、盾を、並べて。……何かを、守っていた。
……その、守りの、中心に。
……ひときわ、立派な、鎧を、まとった、若い、男が。……重傷を、負って。……倒れて、いた。
「……あれが、皇太子……」五百旗頭が、駆け寄りながら、言った。「……ひどい、傷だ。……早く、手当てを……!」
「――任せなさい」私は、進み出た。「……こういうの。……得意なの。……なにせ、私」
私は、髪を、かき上げて。……とびきりの、笑みで、言った。
「……専属の、光の、ヒーラーを。……従えて、いるんだから」
(第10話 了)




