第9話 絶望的だからこそ
私たちは、休む間も、なく。……皇太子の、部隊が、包囲されている、戦場へと。……向かった。
帝国軍の、精鋭とともに、馬を、駆り。……荒野を、南へ。
◇
「――ねえ、いおきべさん」馬上で、私は、隣を、走る、五百旗頭に、聞いた。「……その、魔王軍って。……要するに、魔物の、強いやつ、って、認識で、いいの?」
「……全然、違います」五百旗頭は、前を、見据えたまま、答えた。「……いいですか、ミライ。……よく、聞いて、ください。……これまで、あなたが、相手にしてきた、魔物の、群れ。……あれは、統率の、ない、ただの、獣の、集まりです。……でも、魔王軍は、違う」
「違う?」
「……あれは、"軍隊"です」五百旗頭の、声が、重く、なった。「……指揮系統が、あり。……戦術が、あり。……連携が、ある。……人間の、軍隊の。……そのまま、強化版だと、思って、ください。……はっきり、言って。……戦力差は。……絶望的です」
……絶望的。
……ふうん。
……ぞくり、と、した。
「――絶望的、だからこそ、いいのよ!」私は、思わず、叫んだ。「絶望的な、戦力差を。……仲間と、力を、合わせて。……ひっくり返す。……それこそ、物語の、醍醐味じゃない! ……ああ、脳汁、出てきた!」
「……ミライ?」五百旗頭は、ため息を、ついた。「……これ、もう、聞いてませんね」
◇
……で、その、脳汁を、垂れ流しつつ。私は、傍らに、浮かぶ、イフリートに、聞いた。
「ねえ、チュートリアル。……戦場でも。……あんたたち、力、貸せる?」
『……あー、それなんですが』イフリートが、言った。『……戦場に、近づくほど。……精霊の、数は、減るんです。……戦の、殺気とか、血の、匂いを。……嫌がる、子が、多くて』
「……え。……それ、困るわ。……あんたたちが、いないと。……私、詠唱してるだけの、ただの、人に、なっちゃう」
『大丈夫です』イフリートは、頷いた。『……その分、この、あたりの、地元の、精霊たちに。……協力を、頼んで、あります。……戦場の、近くにも。……ちゃんと、集まって、くれる、はずです』
「……あら。……準備、いいわね」
『……で。……ミライさん』イフリートが、ふと、言いにくそうに、言った。『……一つ、お願いが、あるんですが』
「なに?」
『……今回は。……その。……精霊を、投げないで、ほしいんです』
……。
……ああ。あの、防衛戦の、ときの。……ぶん投げ。
◇
『……あのときは。……みんな、怖い、思いを、しました』イフリートは、遠慮がちに、言った。『……だから、今回は。……投げないで、ください。……その、代わり。……ミライさんは、ただ、後ろで。……いつもの、詠唱を、してくれれば、いいです。……攻撃は、俺たちが、やります。……ミライさんの、詠唱に、合わせて』
「……ふうん」私は、少し、考えて、頷いた。「……わかったわ。……投げない。……約束する」
『……ありがとうございます』
「その、代わり」私は、にやり、と、した。「……思いっきり、かっこいい、詠唱を、するから。……ちゃんと、それに、合わせて、暴れなさいよ」
『……はい。……もちろん』
……ふふ。
……償いを、して。……和解して。……こうして、"投げないで"って、お願いされて、それを、聞いてあげる。……なんだ、私。……ずいぶん、精霊たちと。……いい関係、築けてる、じゃない。(※関係の、認識は、相変わらず、ズレている)
◇
……そして。
私たちは、戦場に、着いた。
――それは。……見渡す限りの。……黒い、うねり、だった。
整然と、隊列を、組んだ、魔物たち。……剣を、持つ、オーク。……弓を、構える、コボルト。……禍々しい、魔法を、練る、魔族。……そして、それらを、統率する。……ひときわ、大きな、影。……魔王軍の、幹部。
その、包囲の、中心で。……帝国軍の、残存部隊が。……ぼろぼろに、なりながら。……必死に、持ちこたえていた。
「……あれが、魔王軍……」五百旗頭が、刀の、柄に、手を、かけた。「……ミライ。……作戦を、確認します」
◇
「私が、先陣を、切って、突っ込みます」五百旗頭は、静かに、言った。「……私の、勇者スキルで。……魔王軍、全体を、弱体化させながら。……敵陣を、切り崩します。……その、あいだ」
「精霊が、援護する」私は、頷いた。「あんたが、ピンチに、なりそうな、ときに。……精霊が、魔法で、フォローする。……ね、チュートリアル?」
『はい、任せてください』
「そして、私は」私は、髪を、かき上げた。「……後方で。……ひときわ、荘厳に。……渾身の、詠唱を、する」
「……それ、意味、あるんですか」五百旗頭が、じとっと、した。
「あるわよ!」私は、胸を、張った。「私が、詠唱すると。……精霊が、それに、合わせて、魔法を、放つの。……つまり、私の、詠唱が。……号令に、なるのよ。……それに」
「それに?」
「……敵にも、味方にも。……見せつけるの。……"聖女、ここにあり"って。……士気が、上がるでしょう?」
……まあ、半分は、ただ、目立ちたい、だけ、なのだけど。(※言わない)
◇
「――行きます」
五百旗頭が。……馬を、飛び降り。……刀を、抜いた。
その、瞬間。……彼女の、体から。……青白い、光が、放たれ。……戦場全体に、広がっていった。……勇者スキル。……魔王軍の、動きが。……目に、見えて、鈍くなる。……弱体化。
「……なっ、体が……重い……!?」
魔王軍が、動揺する、その中へ。……五百旗頭が。……疾風の、ように、斬り込んだ。
――一閃。
オークが、崩れる。……返す、刀で、コボルトを、薙ぐ。……その、動きは。……無駄が、なく。……美しく。……そして、容赦が、ない。
……ほう。
……いおきべさん。……あんな、風に、戦うのね。……私、初めて、見たわ。……なんか、かっこいい。
◇
そして。……五百旗頭が、敵に、囲まれ。……危うく、なった、その、瞬間。
「――今よ!」私は、後方で、声を、張り上げた。「古より、紡がれし、原初の、焔よ――ッ!」
私の、詠唱に、合わせて。……周囲の、地元精霊たちが。……一斉に、魔法を、放った。
――どがががががっ!
炎が。……水が。……土の、礫が。……風の、刃が。……五百旗頭を、囲んでいた、魔物たちを。……まとめて、吹き飛ばした。
「……助かりました、ミライ」五百旗頭が、包囲を、脱しながら、言った。
「ふふ。……礼には、及ばないわ」
……もちろん。……やったのは、精霊。……私は、詠唱、しただけ。……でも、そんなこと。……戦場の、誰も、知らない。
◇
「……見ろ、あの、勇者と、聖女を……!」
「なんという、連携だ……!」
「勇者が、斬り込み。……聖女の、大魔法が。……それを、援護する……!」
帝国軍の、兵士たちが。……感嘆の、声を、上げた。
……そう。……傍目には。……完璧な、チームプレイ、だった。
前線で、鬼神の、ごとく、刀を、振るう、勇者。……後方で、荘厳に、大魔法を、操る、聖女。……その、二人が。……絶望的な、戦力差を、覆していく。
……実際には。……戦っているのは、五百旗頭と、精霊で。……私は、ただ、後ろで、かっこよく、詠唱、しているだけ、なのだけど。
……でも。……いいの。……見られてる。……称えられてる。……絵に、なってる。……それが、一番、大事、なんだから。
◇
「……なぜ、だ」
戦場の、奥で。……魔王軍の、幹部が。……苛立った、声を、上げた。
「……なぜ、人間、ごときが。……これほど、まで、強い……! ……たかが、二人。……勇者と、小娘に。……我が、軍が。……押されて、いる、だと……!?」
……ふふ。
……そうよ。……人間、ごとき、二人(と、見えない、精霊、大勢)に。……あんたたちは、翻弄、されてるの。
……この、調子なら。……皇太子の、救出も。……そう、遠くは、ない。
……そう、思った、矢先。
……その、幹部の、視線が。……ぎろり、と。……後方の、私を。……捉えた、のだった。
(第9話 了)




