第8話 軍事的価値
「――突然、拘束して、済まなかった」
大柄な、男は、そう、繰り返して。……私たちに、椅子を、勧めた。
「私は、この、帝国の、将軍を、務める、者だ」男は、名乗った。「……単刀直入に、言おう。……お前たちに、協力して、ほしい」
◇
「協力?」私は、椅子に、腰かけながら、聞き返した。「……牢屋に、放り込んで、おいて。……ずいぶん、勝手な、お願いね」
「面目ない」将軍は、悪びれもせず、頷いた。「だが、こちらにも、事情が、あってな。……まず、確認したい。……お前たちの、正体だ」
将軍は、私と、五百旗頭を、順に、見た。
「そちらの、剣士。……魔王討伐の、旅の、途中で、姿を、消した、"逃亡勇者"だな。……そして、そちらの、娘」
将軍の、視線が、私に、向いた。
「……隣の、王国側の、街で。……単身、魔物の、スタンピードを、退けたという。……"聖女"。……その、噂の、主だな」
「あら」私は、思わず、口元を、緩めた。「……さすが。……分かる人には、分かるのね。……この、私の、輝きが」
「輝き?」将軍は、けげんな、顔を、した。「……いや。……私が、評価しているのは、そんな、ふわふわ、したものでは、ない」
「……え?」
◇
「――お前が、"軍事的価値"を、持つ、という、一点だ」
将軍は、きっぱり、と、言った。
「聖女だ、女神だ、といった。……信仰の、話には。……私は、興味が、ない。……私が、見ているのは。……お前の、力が。……戦場で、どれだけ、使えるか。……ただ、それだけだ」
……。
……ふうん。
……この、将軍。……他の、連中とは。……ちょっと、違うわね。
街の、人々は。……私を、「聖女」だ、「英雄」だと。……崇めて、くれた。……気持ちよく、崇めて、くれた。……でも、この、将軍は。……そういう、目で、私を、見ていない。
崇拝も。……畏怖も。……敬意も。……ない。……ただ、「使える、駒か、どうか」。……それだけの、目で。……私を、値踏み、している。
……なんか。……ちょっと。……むっと、する。(※崇めて、くれない、から)
でも。……五百旗頭は。……むしろ、この、将軍の、態度に。……安心した、ように、見えた。(後で、聞いたら、「感情でなく、損得で、動く、相手の、方が。……交渉は、しやすい」と、言っていた)
◇
「……で。……その、"軍事的価値"の、ある、私たちに。……何を、させたいの」私は、聞いた。
「――軍の、救出だ」将軍の、顔が、引き締まった。「今、我が、帝国軍の、一部隊が。……魔王軍に、包囲され。……壊滅の、危機に、瀕している。……その、救出を。……手伝って、ほしい」
「魔王軍……」五百旗頭が、呟いた。
「勇者の、力は、聞いている」将軍は、五百旗頭を、見た。「……お前の、力は。……魔王軍に、対して。……絶大な、"弱体化"を、もたらすそうだな。……それも、個体では、なく。……軍、単位で」
「……ええ、まあ」五百旗頭は、曖昧に、頷いた。
「そして、聖女の、力は。……正直、よく、わからん」将軍は、私を、見た。「……だが、あの、スタンピードを、単身で、退けたという、話が、本当なら。……その、"五大元素を、同時に、操る"という、力は。……魔王軍の、幹部クラスすら。……打ち倒せる、かもしれん」
……ふふ。(※実際に、戦っているのは、精霊なのだが、将軍は、知らない)
◇
「……で、どうして、そんなに、その、部隊の、救出を、急ぐの?」私は、聞いた。「壊滅の、危機の、部隊なんて。……戦争なら、いくらでも、あるでしょう。……なぜ、わざわざ、囚人の、私たちに、頼んでまで」
将軍の、表情が。……ぐっと、険しく、なった。
「……その、包囲されている、部隊に。……皇太子殿下が、おられるからだ」
……皇太子。
「殿下は、視察の、途中で。……魔王軍の、奇襲を、受け、孤立された。……このまま、では。……殿下が、討ち取られる。……そうなれば」将軍の、声が、低くなった。「……国家、存亡の、危機だ。……帝国の、未来が、失われる」
……なるほど。
だから、こんなに、必死なわけね。……そして、そのために。……牢屋の、囚人にまで。……頭を、下げてでも。……使える、駒は、全部、使いたい、と。
◇
「……間に合うの?」五百旗頭が、冷静に、問うた。「壊滅の、危機、なんでしょう。……今から、向かって。……間に合う、保証は」
「わからん」将軍は、正直に、答えた。「……だが、やらねば、ならん。……そして、お前たちの、力が、あれば。……可能性は、上がる。……逃亡勇者の、軍単位の、弱体化。……聖女の、幹部級すら、屠る、大魔法。……この、二つが、あれば」
……ふむ。
私は、ちらり、と、五百旗頭を、見た。
……五百旗頭は。……なぜか。……薄く。……にやり、と、笑っていた。
……あら。……この人。……なんか、企んでる、顔ね。……たぶん、この、依頼を。……ただ、引き受ける、だけじゃ、なくて。……何か、こっちの、利益に、繋げる、算段でも。……しているんでしょう。……さすが、私の、相棒。
◇
「……で。……条件は?」私は、切り出した。「タダで、働く、ほど。……私、お人好しじゃ、ないの。……囚人を、こき使うなら。……それ、相応の、見返りを、もらわないと。……ね? 三食、昼寝付き、とか?」
「見返りは、出す」将軍は、頷いた。「……お前たちは、確か。……南の、"精霊郷"を、目指している、と、尋問で、話していたな。……その先の、"勇者の、遺物"も」
「……よく、知ってるわね」
「その、道中の、サポートを、約束しよう」将軍は、言った。「……安全な、通行の、保証。……物資の、提供。……なんなら――兵を、貸しても、いい」
……。
……ほう。
……兵を、貸す。……ふうん。
……私の、頭の中で。……ぴかーん、と、何かが、光った。
……軍を、貸す。……帝国の、軍を。……私に。……ふふ。……それって。……使い方に、よっては。……私の、壮大な、計画……"王国、乗っ取り"にも。……使えるんじゃ、ない?
「……いいわ」私は、にやり、と、笑った。「その、依頼。……引き受けて、あげる」
◇
「――ただし」将軍は、釘を、刺した。「まずは、軍の、救出が、先だ。……話は、それから。……時間が、ない。……すぐに、発ってもらう」
「もちろん」私は、立ち上がった。「……囚われの、聖女が。……皇太子を、救いに、向かう。……ふふ。……悪くない、展開じゃ、ない」
「……ミライ」五百旗頭が、小声で、たしなめた。「……あなた、また、話を、"美味しい、シチュエーション"として、しか、見てないでしょう」
「あら。……バレた?」
「バレバレです」
……こうして。……囚われの、身から、一転。私たちは。……帝国の、命運を、賭けた、皇太子救出戦へと。……向かう、ことに、なったのだった。
(第8話 了)




