第7話 国家戦略級
翌朝。
目を、覚ますと。……私たちは、囲まれていた。
◇
丘の、周りを。……ぐるりと。……重装備の、兵士たちが。……取り囲んでいた。
磨き上げられた、鎧。統率の、取れた、隊列。……掲げられた、旗印は――帝国の、紋章。
「……帝国軍……」隣で、飛び起きた、五百旗頭が、舌打ちした。「……くっ。……野営してる、間に、囲まれた……。……だから、いった、こっちゃない……」
「……いった、こっちゃない?」
「フラグ、ですよ」五百旗頭は、渋い顔で、言った。「……昨夜、あなたが、立てた」
……あ。
……そういえば。「この旅が、終わったら」とか、なんとか。……言った、っけ。
……なるほど。……これが。……フラグ回収、というやつ。
◇
「――動くな!」
兵士の、隊列の、前に。……指揮官らしき、男が、進み出て。……声を、張り上げた。
「そこの、四名。……貴様らを、拘束する。……抵抗すれば、容赦は、しない」
「……理由を、聞かせてもらえますか」五百旗頭が、私を、庇うように、前に、出て、冷静に、問うた。「私たちは、ただの、旅人です。……何か、法を、犯した、覚えは、ありません」
「理由?」指揮官は、鼻で、笑った。「――貴様らが、"異世界人"だからだ」
……。
「異世界人は、国家戦略級の、存在だ」指揮官は、続けた。「その力は、一国の、軍事バランスを、覆す。……ゆえに、帝国の、法で、定められている。……"帝国領内に、立ち入った、異世界人は、速やかに、身柄を、確保せよ"と。……さらに」
指揮官は、じろり、と、私たちを、見た。
「……我が国は、隣国と、相互同盟を、結んでいる。……その、盟約には、こう、ある。……"いずれかの、国に、現れた、異世界人は、両国で、共有し、しかるべく、処遇する"と。……つまり、貴様らは。……見つかった、時点で。……詰み、なのだよ」
……なるほど。
私たちは、追われて、帝国に、逃げ込んだ、つもりだった。……でも、その、帝国自体が。……異世界人を、放っておかない、国だった、というわけね。……逃げ場、なし。
◇
「……どう、しますか、ミライ」五百旗頭が、小声で、言った。「……やり合いますか。……あなたの、精霊なら。……この、包囲を、突破することも……」
……ふむ。
やろうと、思えば、できる。精霊たちに、頼めば。……この、兵士たちを、蹴散らして、逃げることも。……たぶん、可能。
……でも。
私は、囲まれた、この、状況を。……ぐるり、と、見回した。
……逃げ場の、ない、包囲。……突きつけられる、無数の、槍。……絶体絶命の、ピンチ。……そして、その、真ん中に、立つ、私。
……。
……ぞくぞく、してきた。
「……いえ。……いいわ、いおきべさん」私は、にやり、と、笑った。「……ここは、おとなしく、捕まりましょう」
「……え?」
「だって」私は、うっとりと、言った。「……囚われの、身、なんて。……ちょっと、素敵じゃない。……敵の、本拠地に、囚われて。……そこから、どう、脱出するか。……あるいは、囚われた、まま、どう、盤面を、ひっくり返すか。……ふふ。……主人公の、腕の、見せどころよ」
「……ミライ」五百旗頭は、頭を、抱えた。「……あなた、この、状況、楽しんでませんか」
「……まさか」
……まんざらでも、なかった。
◇
というわけで。……私たちは、抵抗せず、おとなしく、捕縛された。
手枷を、はめられ。……馬車に、乗せられ。……城塞都市へと、連行される。
少年は、真っ青な、顔で、震えていたし。アリシアは、悔しそうに、唇を、噛んでいた。五百旗頭は、油断なく、周囲を、観察していた。……そして、私は。……この、"囚われの、聖女"という、シチュエーションを。……ひそかに、堪能して、いた。
(……見て。……この、憂いを、帯びた、囚われの、美少女。……絵に、なるわ。……ふふ)
◇
連行された、先は。……城塞都市の、地下に、ある、牢獄、だった。
石造りの、冷たい、独房。……鉄格子。……差し込む、わずかな、光。
……そして、始まったのは。……尋問、だった。
「――貴様らの、目的は、何だ」
「なぜ、帝国に、来た」
「王国とは、どういう、関係だ」
「その、"聖女の、力"とは、何だ」
……来る、日も、来る、日も。……同じような、質問を。……代わる代わる、やってくる、尋問官が、ぶつけてくる。
五百旗頭は、のらりくらりと、かわしていたし。私は、というと。「私は、令和の、日本が、生んだ、天才、美少女、湊ミライよ」と、堂々と、名乗り、あとは、詠唱について、熱く、語った。(尋問官は、困惑していた)
◇
……そんな、尋問の、日々が。……数日、続いた。
……ちなみに、その、あいだも。私の、周りには、こっそり、精霊たちが、いた。(牢獄にも、ついてきていた)
『……ミライ、逃がそうか?』
『鉄格子くらい、溶かせるよ?』
精霊たちは、そう、囁いた。……でも、私は。……首を、横に、振った。
「……いいの。……もう少し、様子を、見るわ」
……なんとなく。この、膠着状態が。……そう、長くは、続かない、気が、していた。……向こうが、私たちを、ただの、罪人として、扱う、つもりなら。……とっくに、処刑するか、王国に、引き渡している、はず。……なのに、こうして、丁寧に、尋問を、繰り返している。……ということは。……向こうにも、何か。……"事情"が、ある。
……そして。……その、予感は。……当たった。
◇
捕縛から、数日後の、ある日。
突然、私の、独房の、扉が、開いた。
「……出ろ。……待遇が、変わった」
兵士に、連れられて、向かった、先は。……牢獄では、なかった。……磨き上げられた、床。……豪奢な、調度。……明らかに、身分の、高い、者が、使う、大きな、部屋。
そして、その、部屋の、奥に。……いかにも、歴戦の、風格を、漂わせた、大柄な、男と。……その、側近らしき、者たちが、待っていた。
男は、私と、五百旗頭を、見ると。……おもむろに、口を、開いた。
「――突然、拘束して、済まなかった」
……。
……ほう。
牢屋に、放り込んで、尋問しておいて。……今さら、「済まなかった」。……ふうん。……これは。……何か、頼みごとが、ある、顔ね。
私は、内心、にやり、と、しながら。……しかし、表向きは、澄まして。……その、男の、次の、言葉を、待ったのだった。
(第7話 了)




