第6話 星と、フラグ
帝国に、入った、その夜。
私たちは、街道沿いの、小高い、丘で、野営を、することに、した。
◇
城塞都市までは、まだ、少し、距離が、ある。……日が、暮れてしまったので、今夜は、ここで、一泊。……アリシアが、手際よく、焚き火を、おこし、少年が、簡単な、食事を、用意する。五百旗頭は、周囲の、警戒。……みんな、それぞれ、旅慣れている。
……私は、というと。特に、やることも、ないので。(精霊が、火の番も、してくれる)……焚き火から、少し、離れた、草の上に、寝転がって。……ぼんやりと、空を、見上げていた。
……そして。……息を、呑んだ。
「……わ」
――満天の、星、だった。
街の、灯りが、ない、荒野の、夜空は。……こぼれ落ちそうなほどの、星で、埋め尽くされていた。天の川が、くっきりと、帯になって、夜空を、横切っている。……こんなに、たくさんの、星を。……私は、生まれて、初めて、見た。
「……星が、きれい」
思わず、呟いていた。
◇
「……そうだね」
いつの間にか、隣に、五百旗頭が、来ていた。……同じように、空を、見上げて、いる。
「……なんか、変な、感じね」私は、寝転がったまま、言った。「……私たち、追われてて。……夜逃げしてて。……なのに、こうして、のんびり、星なんか、見て」
「そうですね」
「……でも、さ」私は、ふと、笑った。「……実はさ。……この旅。……逃げるように、出てきたけど。……私、悪くないと、思ってるんだ」
「……ほう」
「知らない、土地を、歩いて。……知らない、空の、下で、眠って。……なんか、こう。……ちょっとした、冒険、みたいで。……ちょっとした、キャンプ、みたいで」
「……ミライ」五百旗頭が、こちらを、見て、ちょっと、呆れたように、笑った。「……あなた、一人だけ、テンション、違いませんか。……私たち、一応、命からがら、逃げてる、最中、なんですけど。……もしかして、キャンプ気分、ですか」
「……うん!」
「……うん、って」
◇
私は、にたー、と、笑った。
「……あのね、いおきべさん。……こういうときはさ。……言いたい、セリフが、あるの」
「セリフ?」
「うん」私は、星空に、向かって、両手を、広げた。「――この旅が、終わって。……無事に、元の、世界に、帰ったら。……私さ。……学校の、みんなと。……また、遊びたいな」
……ああ。
……言えた。
(……この、"○○が終わったら、××したい"、ってやつ。……一度、言ってみたかったのよ。……ふふ。……回収、したぞ)
私が、悦に入って、いると。……五百旗頭が。……すっと、真顔に、なって。……言った。
「……ミライ。……それ」
「ん?」
「……それ、言わない方が、いいですよ」
「……なんで?」
「……それ、フラグです」五百旗頭は、大真面目に、言った。「……"これが終わったら、あれをしたい"って、言ったやつは。……たいてい、そのあと、ろくな、目に、遭いません。……物語の、お約束です」
「……あはは。……縁起でも、ないこと、言わないでよ」
……私は、笑い飛ばした。
……セリフに、酔っていて。……五百旗頭の、忠告なんて。……半分も、聞いて、いなかった。
◇
「……まったく」五百旗頭は、ため息を、ついて。……それから、ふと、優しい、目を、して、言った。「……でも。……帰りたい、ですね。……元の、世界に」
「……うん」
「……帰りましょう。……絶対に」五百旗頭は、静かに、言った。「……勝手に、連れてこられて。……勝手に、使われて。……勝手に、捨てられて。……こんな、理不尽、あってたまるか、って。……私は、思っています。……だから。……必ず、帰りましょう。……あなたと、一緒に」
……。
……いおきべさん。
……珍しく、素直ね。……いつもは、飄々と、してるくせに。
「……ふん」私は、照れくささを、ごまかすように、そっぽを、向いた。「……当たり前でしょう。……私の、壮大な、計画には。……王国を、乗っ取って。……魔王を、倒して。……あんたを、回収して。……最後に、二人で、帰る、って。……ちゃんと、書いてあるんだから」
「……ふふ。……それは、頼もしい」五百旗頭は、笑った。「……ではでは。……その、壮大な、計画のためにも。……今夜は、ちゃんと、休みましょう。……明日は、城塞都市です」
「……はいはい」
……こうして。……星空の、下の、穏やかな、夜は。……更けて、いった。
……もっとも。この、穏やかさが。……ほんの、数時間後に、木っ端微塵に、なることを。……このときの、私たちは。……まだ、知らなかったのだけれど。
(第6話 了)




