第4話 精霊のファン、精霊の友
帝国へ、発つ。……と、決めた、翌日。
旅の、支度を、していた、私たちの、ところへ。……招かれざる、客が、やってきた。
◇
「――お前が、湊ミライか」
宿の、前に。……数人の、エルフが、立っていた。長い、耳。整った、顔立ち。そして、その、目には。……隠しきれない、怒りが、燃えている。
……冒険者、風の、装備。たぶん、この、あたりを、拠点に、する、パーティーね。
「そうだけど。……なにか、ご用?」
「用が、あるから、来たのだ」先頭の、エルフ――リーダーらしき、男が、一歩、前に、出た。「……先の、防衛戦。……お前の、戦い方を、見た者から、聞いた。……お前は、精霊を。……この地に、根ざした、尊い、精霊たちを。……道具のように、つかんで、投げ、使い捨てたそうだな」
……ああ。あの、ぶん投げの、件ね。
◇
「……お前は」エルフの、リーダーは、声を、震わせた。「精霊を、なんだと、思っている」
……ふむ。
……なんだと、思っている、か。
私は、少し、考えて。……素直に、答えた。
「……ファン、かな」
「……は?」
「私の、ファン」私は、頷いた。「ほら、私が、詠唱すると。……喜んで、力を、貸してくれるの。……いわば、投げ銭、してくれる、応援団。……熱心な、ファンよ」
「……っ、貴様……!」エルフの、リーダーの、顔が、真っ赤に、なった。「精霊を、ファンだと……投げ銭だと……! この、愚か者が……! 精霊は、我らが、敬い、感謝し、対等に、力を、借りる、尊い、隣人だ……! それを……それを、お前は……!」
……うわ。すごい、剣幕。
「……リーダー、落ち着いて、ください」
後ろに、控えていた、若い、エルフが。……リーダーを、なだめながら。……ふと、私の、周りを、見て。……はっと、した、顔を、した。
「……待って、ください。……リーダー。……妙です」
「なんだ」
「……この、娘の、周り。……かすかに、ですが。……精霊たちの、気配を、感じます」若い、エルフは、目を、細めた。「……それも、たくさん。……そして、その、気配は。……嫌がって、いない。……むしろ。……彼女に、寄り添って、いるように、感じます」
「……なんだと?」
◇
……ちなみに。
このとき、私の、周りには。……当然、いつもの、精霊たちが、わらわらと、浮いていた。イフリートも、ウンディーネも、光の精霊も。……エルフには、その、姿までは、見えないけど。気配は、感じ取れる、らしい。
「……ねえ、あんたたち」私は、精霊たちに、聞いた。「このエルフ、私が、あんたたちを、粗末に、してる、って、怒ってるんだけど。……どう? あんたたち、私に、粗末に、されてる?」
すると。精霊たちが、口々に、言った。
『……えー? 別に?』
『ぼくら、ミライと、いるの、楽しいけど』
『だって、ミライ、ぼくらのこと、"見える"し、ちゃんと、"話しかけて"くれるもん』
『他の、人間とか、エルフはさー。……ぼくらのこと、拝むばっかりで。……ちゃんと、目を、見て、喋って、くれないんだよねー』
『そうそう。……敬うとか、言って。……遠くから、手を、合わせるだけ。……近くで、普通に、喋ってくれるの、ミライだけ』
『捕まえて、契約で、縛ろうとする、やつも、いるしさー。……それに、比べたら、ミライ、全然、いいよ』
……ほう。
私は、にんまり、した。
「……だ、そうよ?」私は、エルフに、向かって、言った。「私の、精霊たちは。……別に、怒ってないって。……むしろ、あんたたちより、私と、いる方が、楽しいって、言ってるわ」
◇
エルフたちは。……絶句、していた。
「……そんな、馬鹿な」リーダーが、呻いた。「我らは、代々、精霊を、敬い……祈りを、捧げ……」
「敬いすぎて、たんじゃ、ないの?」私は、肩を、すくめた。「拝んで、崇めて、遠くから、手を、合わせるばっかりで。……肝心の、精霊本人と。……ちゃんと、喋って、あげてた? ……目を、見て。……対等に。……友達みたいに」
「――友達、だと……!?」リーダーが、激昂した。「精霊を、友達などと……不遜な……!」
「ほら、それよ」私は、指を、さした。「あんたたちは、精霊を、"上"に、置きすぎてるの。……崇めてる、つもりで。……距離を、取ってる。……精霊は、そんなの、望んでないのに、ね」
……エルフたちは。……何も、言い返せず。……ただ、わなわなと、震えていた。
……ふふ。論破。……気持ちいい。
◇
結局、エルフたちは。……精霊が、私を、慕っている、という、事実の、前に。……引き下がる、しか、なかった。
でも。……リーダーは、去り際に。……私を、きっ、と、睨んで。……こう、言い残した。
「……精霊が、お前を、許しても。……この、私は。……断じて、認めん。……お前のような、"敬意なき者"が。……精霊に、愛される、など。……あってはならん、ことだ。……いつか、必ず。……お前は、その、思い上がりの、報いを、受ける」
そして、エルフたちは、去っていった。
「……なによ、あれ」私は、口を、尖らせた。「精霊本人が、いいって、言ってるのに。……第三者が、ぐちぐちと。……はた迷惑ね」
『……あの、ミライさん』イフリートが、そっと、言った。『……エルフの、彼らも。……悪気は、ないんですよ。……ただ、敬い方が。……その……不器用なだけで』
「知らないわ、そんなの」私は、ぷいっと、した。「……人が、慕われてるのを、見て、いちいち、噛みついて。……嫉妬って、こわいわねー」
……まったく、本質を、わかってない、私であった。(※わかっていたら、もっと、丁寧に、生きている)
◇
さて。……いよいよ、出立。
でも。……ここで、一つ、切ない、お別れが、あった。
『……ミライぃ……』
土地の、精霊たちが。……しょんぼりと、私の、周りに、集まっていた。
『……ぼくら、ついていけないんだ……』
『地母神さまに、縛られてるから……この土地から、出られないの……』
……そう。土地に、根ざした、精霊たち――防衛戦で、私を、助けてくれた、あの子たちは。……この土地を、離れられない。……ついてこられるのは、イフリートや、ウンディーネのような。……高位の、自由な、精霊たち、だけ。
「……そう」私は、少し、寂しくなって、言った。「……あんたたち、とは。……ここで、お別れ、なのね」
『……うん……』
『……ミライ、元気でね……』
『……たまには、思い出してね……』
……ちょっと、鼻の、奥が、つん、と、した。
「……ばか。……縁起でも、ないこと、言わないの」私は、わざと、そっけなく、言った。「……いつか、また、来るわよ。……この、街に。……そのときは。……また、詠唱、聞かせて、あげる」
『……うん! ……絶対だよ!』
……まったく。……調子が、狂う。
◇
……で。
こうして、私たちは。……ほとんど、夜逃げ同然に。……この街を、後に、した。
王国に、追われる、身。……大手を、振って、出発、なんて、できない。……こっそりと。……人目を、忍んで。……荷物を、まとめて。……ひっそりと。
……そして。
この、出立で。……一番、割を、食ったのは。……少年、だった。
「……せっかく、いい、仕事、見つけたのに」少年は、寂しそうに、笑った。「……辞めて、きました。……また、一から、ですね」
……そう。少年は、この街で。……ようやく、見つけた、堅実な、職を。……失う、ことに、なった。……私に、付き合って。……また、無職。
「……悪いわね」私は、ぼそっと、言った。「……あんたには、また、苦労を、かけるわ」
「……いえ」少年は、首を、振った。「……ミライさんを、一人には、できませんから。……それに。……なんだかんだ。……ミライさんの、そばは。……退屈しないので」
……こいつ。……お人好しにも、ほどが、ある。
……でも。……その、気持ちは。……ちょっとだけ。……ありがたい、と。……思った。(※口には、出さない)
◇
街を、出て。……街道を、南へ。
夜の、闇に、紛れて、歩きながら。私は、ふと、立ち止まって。……振り返った。
遠ざかる、街の、灯り。……私が、聖女と、崇められた、街。……精霊たちと、出会った、街。
……ここでの、日々も。……悪くは、なかったわ。
私は、その、灯りに、向かって。……小さく、呟いた。
「……いずれ、この、逃避行も。……歴史に、刻まれる、はず。……"聖女ミライの、聖なる道"……なんて、名前で。……二百年後の、吟遊詩人が。……歌に、するのよ」
「……ミライ?」隣を、歩く、五百旗頭が、怪訝そうに、した。「……何を、ぶつぶつ、言っているんですか」
「……ナレーションよ」
「ナレーション」
「そう。……私の、伝説の、ナレーション」
「……はあ」五百旗頭は、呆れたように、笑った。「ではでは。……その、伝説の、第一歩は。……まずは、無事に、帝国に、たどり着いてから、ですね」
……ふん。……夢の、ない、こと、言う人ね。
……こうして。……夜逃げ同然の、逃避行、という名の。……(私の中では)輝かしい、新たな、冒険が。……幕を、開けたのだった。
(第4話 了)




