2. 初めてできた、無償の仲間
――「ようこそ、エイレル村へ。若き冒険者よ」
レグルは長い髭を生やした小柄な男に頷いて、そのまま村の中へと進んでいった。見たところ、この村はごく普通の村だった。レグルは宿を借りることにしたものの、どこへ行けばいいのか分からず、村の中を見回してみたが、目的の場所を示す看板は見つからなかった。
(これは困ったな……)
「迷ったのか?」
少年は聞き慣れない荒々しい声に振り向くと、少し離れた場所に果物の入った籠を持った背の高い男が立っているのを見つけた。村の中を歩き回り、一軒一軒の建物を見ていたレグルの姿が怪しく見えたのか、それが村人の一人の目に留まったらしい。男は大きな手で重そうな籠をまるで二本の指だけで持っており、鋭い目で真っ直ぐレグルを見つめていた。その迫力に、レグルは思わず唾を飲み込んだ。
「は、はい。あの……この辺りで泊まれる場所を知りませんか? お金なら払います」
男は少し考えるような顔をして、顎に手を当てた。
「俺の家に泊めてやることはできる。ただ、俺には家族がいるからな。一応、みんなに聞いてみないといけない」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「ついてこい」
二人は木製の屋根がついた石造りの家へ向かって歩き始めた。外は次第に暗くなり始めており、今のレグルにとって、この男だけが頼りだった。どうやらこの村には宿屋がないらしい。もし泊めてもらえなければ、今夜は外で寝るしかない。
レグルは男が家族に話をしてくれるのを待ちながら、家の外で緊張した様子で庭を行ったり来たりしていた。しばらくすると扉が開き、中から一人の女性が出てきた。彼女は笑顔を浮かべ、手には白いタオルを持っている。
「中に入っていいわよ」
「は、はい……」
レグルは不安そうに家へ向かい、女性の前で立ち止まった。
「い、一晩いくらですか?」
女性はレグルが持っている金の入った袋に視線を向けると、優しく微笑んだ。
「何もいらないわ。ほら、入って」
「で、でも……」
レグルは無料で泊めてもらえることが信じられなかった。しかし、そのとき家の中から聞こえてきた男の荒々しい声が、彼を早く中へ入るよう促した。
「早く入れ。風が入ってくる!」
「は、はい!」
レグルは急いで小さな家の中へ入り、辺りを見回した。質素な内装ではあったが、家具はきちんと配置されており、暮らしやすそうな空間になっている。レグルは女性が扉を閉めるのを待ってから、その後についていこうとした。
「お母さん? この人、誰?」
すると、部屋の中から小柄な少女が出てきて、じっとレグルを見つめた。彼女は青みがかった長い髪をしており、身につけているのは美しくも質素な服だった。瞳も同じように青く、それが彼女をどこか特別な存在のように感じさせていた。
「僕はレグル・エルグレイス。冒険者で、パーティーの一員……。いや、元冒険者だ」
「じゃあ、王都から来たの? それとも隣の村から?」
「王都から来ました」
長い青髪の少女の目が、明らかに興味深そうに変わった。
「王都? あなた、そこにいたの?」
「え? は、はい。そこで暮らしていました」
「へぇ!」
「もういいだろ。客人にそんなに質問するんじゃない、クラーラ」
女性は微笑むと、自分と娘を紹介した。
「私の名前はシルラ。夫の名前はブラン。そして、この子が私たちの娘、クララよ」
「よろしくお願いします」
レグルはまだ少し緊張しながら、軽く頭を下げた。見ず知らずの家族の家に入り、何の質問もされることなく泊めてもらえることになったのだ。ほんの数時間前まで、彼は勇者パーティーの仲間たちと一緒にダンジョンにいた。それなのに今は、小さな村の家の中で、初めて会った人たちと話している。
森で起きたことを考えれば、レグルは周囲の人間から疑いの目や侮蔑を向けられると思っていた。しかし、シルラもブランも、その娘であるクララも、彼に対してまったく違う態度を取っている。
彼らはレグルのスキルが弱いことも、パーティーから追放されたことも、今日の依頼で失敗したことも知らない。彼らにとってレグルは、ただ泊まる場所を必要としている一人の旅人に過ぎなかった。
「レグル、お腹が空いているんじゃない?」
シルラが指差した先には、すでに簡単な家庭料理が並べられていた。そこには温かいスープが入った器があり、新鮮なパンといくつかの野菜料理も用意されている。
レグルは数秒間、黙ったまま料理を見つめていたが、やがて腹の奥から小さな音が鳴った。誰にも聞かれていないことを願うように慌てて顔を下げたものの、クララが小さく笑い、シルラも優しく微笑んだ。
「ほら、座って食べなさい。きっと長い間歩いてきたんでしょう?」
レグルは戸惑いながら椅子に座り、目の前に並べられた料理を見つめた。本当ならいくら払えばいいのか聞きたかったが、先ほど女性が何も必要ないと言ってくれたことを思い出す。それでも、こんな親切を素直に受け入れることには抵抗があった。最近の彼は、誰かから優しくされることよりも、役に立たないと言われることのほうが多かったからだ。すでにブランも食卓についており、レグルが座るのを待っていた。
「ほ、本当に……食べてもいいんですか?」
「もちろんよ。あなたが来る前に、ちょうど夕食を食べようとしていたところだから」
「でも、今の僕はあまりお金を持っていなくて……」
「気にしなくていいわ。お金なんて払わなくていいのよ」
「い、いただきます……」
レグルはどう答えればいいのか分からなかった。ゆっくりとスプーンを手に取り、スープを一口飲んでみる。その瞬間、レグルの目がわずかに見開かれた。それはどこの家庭でも作れるような、ごく普通の料理だった。
それなのに、なぜか今まで食べたどんな料理よりも美味しく感じられた。
もしかすると、空腹だったからというだけではないのかもしれない。
今日までの出来事を考えれば、見返りを求めず何かを与えてもらったのは、本当に久しぶりのことだった。レグルは顔を伏せたまま、胸の奥から込み上げてくる感情を隠すように黙々と食べ続けた。
「美味しい……」
シルラが微笑む一方で、クラーラは相変わらず興味深そうにレグルを見つめていた。何か聞きたいことがあるらしく、しばらく黙っていたものの、やはり好奇心には勝てなかったのか、ついに口を開いた。
「あなた、本当に王都から来たの?」
レグルは一瞬手を止め、顔を上げた。以前なら、その質問をされれば誇らしい気持ちになっただろう。実際、彼は王都で暮らし、勇者パーティーの一員にまでなったのだから。だが今となっては、王都という言葉から思い浮かぶのは、侮辱や孤独、そして今日起きた裏切りばかりだった。
「うん。そこで暮らしていた」
「本当!? どんなところなの?」
クララは興味津々といった様子で身を乗り出した。レグルはどんなふうに説明すればいいのか考えながら、少しだけ昔を思い出す。かつての彼にとって王都は、成功を掴み、金を稼ぎ、いつか両親のもとへ帰って自分が立派になった姿を見せるための場所だった。
しかし今は何もかも変わってしまった。パーティーでの居場所を失い、住む場所まで失い、手元に残っているお金もほとんどない。今は王都へ戻ることさえ、ガレットたちと再び顔を合わせることを考えると怖かった。
「大きな街だよ。人も多いし、市場もギルドも冒険者もたくさんいる。この村と比べたら、まるで別の世界みたいに感じると思う」
「へぇ……私は王都に行ったことがないの」
「よかったら、王都のことを話そうか?」
自分でも意外な言葉だった。少し前まで誰とも話したくなかったはずなのに、今はなぜかクララの質問に自然と答えていた。
クララは本当に楽しそうに話を聞き、ときどき新しい質問をしてくる。食事を終えたあとも、レグルは料理を用意してくれたことへの感謝を伝え、そのままクララとの会話を続けていた。
シルラは家事をしながら、ときどき二人を微笑ましそうに眺め、ブランは近くに座ったまま静かに話を聞いている。ほんの数分の間だけだったが、レグルはダンジョンで起きた出来事を忘れていた。
しかし、そんな時間はクララの一言によって終わった。
「ねえ、あなたって本当に勇者パーティーにいたの?」
レグルはゆっくりと頷いた。
「はい....」
「じゃあ、本物の冒険者なんだね?」
「……元、だけどね」
レグルが小さな声で答えると、クララはすぐに彼の雰囲気が変わったことに気づいた。さらに何かを聞こうとしたが、その前にシルラが娘を止める。
「クララ、もうお客さんにそんなに質問しちゃダメよ。今日はきっとすごく疲れているんだから」
「――うん……」
クララは素直に頷いた。そんな彼女を見ながら、レグルはその夜になって初めて、不思議な安心感を覚えていた。この家では、誰も彼を役立たずとは呼ばない。誰も彼のスキルを笑わない。
そして、誰も自分の価値を証明しろとは言わない。彼らにとってレグルは、ただのレグルだった。今日、行く場所を失った一人の人間に過ぎない。
やがて夕食を終え、レグルは親切にしてもらったことと美味しい料理を用意してくれたことへの礼を伝えた。そのとき、ふと視線を向けた先に、台所の近くに置かれた古びた鉄製のナイフがあった。レグルはしばらくそのナイフを見つめ、それから自分のスキル――『クリエイター』のことを思い出した。これまでずっと、彼はこのスキルを役に立たないものだと思っていた。
勇者パーティーに加入してからも、作れるのは簡単な防具や武器だけだった。そのため、仲間たちから何度も自分が弱いことを思い知らされてきた。しかし今は、頼ることのできるパーティーもない。だからこそレグルは初めて、自分がこれまで『クリエイター』というスキルを本当の意味で使おうとしたことがなかったのではないかと考え始めた。
(もしかして……僕は、このスキルの使い方を間違えていただけなんじゃないか?)
その考えは突然浮かんだものだった。しかし、一度考え始めると頭から離れなくなった。レグルは自分の両手を見つめ、それからもう一度、古びたナイフへ視線を戻す。もし自分が強い冒険者になれないのなら、無理にその道を進み続ける必要はないのかもしれない。彼に残されているのは、たった一つのスキル――『クリエイター』。これまで誰もが役に立たないと言っていたスキルだけだ。
(戦えないのなら……別の方法で、このスキルを使えばいい)
その瞬間、レグルは初めて、自分のスキルを諦めるのではなく、その本当の可能性を確かめてみようと決意した。




