↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者パーティーを追放された俺、実は生産スキルが勇者のスキルより強かった  作者: 月兎
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/24

17. 別れの苦しみ

「どうしてそこまでして人間を食べるんだ? 他のものを食べればいいだろ!」


 セリナはしばらく黙っていたが、やがて疲れたように視線を落とした。



「あなたの言う通りよ……。でも、もうそれには疲れたの……」


「疲れた?」


「あなたが私の立場になって考えてみて……。何年も何年も時間だけが過ぎていくのに、周りにあるものは何も変わらない。私はもう長い間、こいつらと一緒に生きている……。昔の私は冒険者だった。仲間がいて、夢があって、自分自身の人生があった。でも、ある日、私の仲間たちはゴブリンに殺されて、私はここに無理やり残された。それからの私は、こいつらの種族を存続させるための道具でしかなかった……」



 セリナの声は次第に小さくなり、その手が震え始めた。


「あなたたちは……自分たちの人生を生きて、私がここにいることさえ知らなかった。私は助けを待っていた……。何年も待っていた……。でも、誰も来なかった」


 レグルは黙って彼女を見つめ、何と答えればいいのか分からなかった。


「私は何度も何度も子供を産んだ……。何年も、何十年も過ぎていったのに、何も変わらなかった。いつか全部終わるんじゃないかって、そのたびに願った。でも、それが叶うことはなかった……」


 セリナは顔を上げ、まっすぐにレグルを見つめた。頬を涙がゆっくりと伝い、その顔には初めて本当の苦しみが浮かんでいた。


「見た目は人間に見えるけど……私はもう、自分が人間なのかどうかさえ分からない」


 彼女は笑おうとした。しかし、その笑顔はあまりにも悲しく、レグルは彼女の目を見ることさえ苦しくなった。


「私は人間じゃない……。本物の怪物なの……」


 最後の言葉は、ほとんど囁き声だった。


 レグルは拳を握りしめた。


 今、彼の目の前にいるのは、ただ倒すべきゴブリンの女王ではなかった。


 そこにいるのは、あまりにも長い間、自分自身の過去に囚われ続け、そこから抜け出す希望さえ失ってしまった一人の人間だった。


「私はただ、女の子になりたかった……。何も知らない、純粋な女の子に……。家族を作って、普通の生活を送りたかった……。でも、そんなことはもう叶わない……。私を妻にしてくれる人なんて、もう誰もいない……。こいつらゴブリンが私を崇めているのだって、ほとんど全員が私の子供だから……」


 レグルは視線を落とし、指を鳴らした。


「え? 何をしているの?」


 数秒後、周囲に立っていたゴブリンたちが次々と息苦しそうにし始めた。彼らは地面に倒れ込み、胸を押さえた。


「何? 何をしたの!?」


「ここでは、酸素は人間だけが利用できる。人間以外はこの空気を吸うことができない。見てみろ……。お前は生きている……。つまり、お前は人間だ」


 セリナは数秒間、黙ってレグルを見つめていた。まるで、今聞いた言葉を信じられないかのように。


 やがて彼女の瞳に涙が浮かび、一粒、また一粒と頬を伝っていった。


「そんなの……ずるいよ……」


 声が震える。


「私を殺して……。お願い……」


 セリナはその場に膝をつき、両手で顔を覆って涙を隠そうとした。

 しかし、レグルにはすぐに分かった。

 これは恐怖や絶望の涙ではない。

 幸福の涙だった。


 長い年月の中で初めて、誰かが彼女を化け物としてではなく、ゴブリンの女王としてでもなく、そしてゴブリンたちの子供を産むための存在としてでもなく、一人の人間として見てくれたのだ。


 レグルは数秒間、黙ってセリナを見つめた。


 そして、ゆっくりと彼女のもとへ歩み寄った。


 セリナは今も膝をついたまま顔を両手で覆い、肩を小さく震わせながら泣いていた。

 レグルは彼女の隣で足を止めたが、すぐには何も言わなかった。

 今の彼女に必要なのは、哀れみでも約束でもない。


 長い間、彼女から奪われていた、ただ当たり前の人間として接してもらうことだった。


 少年は彼女に手を差し出した。


「レディ・セリナ」


 セリナはゆっくりと顔を上げ、涙越しにレグルを見た。



「レディ……?」


「そうだ。あなたは、そう呼ばれるに値する人だろ?」


 セリナは何も答えなかった。



 ただ、差し出された手を見つめていた。



 まるで、自分を本当に尊敬してくれる人間を、初めて目の前にしたかのように。

 数秒後、彼女は恐る恐る自分の手をレグルの手に重ねた。

 レグルは彼女を立ち上がらせると、本物の紳士が高貴な女性に接するように、わずかに頭を下げた。


「レディ・セリナ。私と踊っていただけませんか?」

「踊る……? 今? ここで?」


「いいじゃないか」

 レグルは微笑んだ。


「あなたはあまりにも長い間、自分が何者だったのかを忘れさせられる場所で生きてきた。だから、せめて今日くらいは思い出してほしい。あなたは、他人から何と呼ばれようと、その人間になる必要なんてないんだ」


 セリナは動きを止めた。

 そして、唇がほんの少しだけ動いた。


「あなたって……変な人ね、レグル……」

「僕って、自分の名前を言ったっけ?」


 セリナは一瞬、驚いたように目を見開いた。


 そして、何かを隠すような笑みを浮かべた。

 レグルは彼女の手をそっと取り、石造りの広間をゆっくりと歩き始めた。

 音楽はなかった。

 だからレグルは、足音で静かにリズムを刻んだ。


 最初はセリナも不慣れな様子だったが、次第にレグルの動きに合わせられるようになっていった。

 巨大な地下空間。

 つい先ほどまで恐怖に包まれていたその場所で、今はまったく予想もしなかった光景が繰り広げられていた。


 誰もが化け物だと思っていたゴブリンの女王が、長い年月の中で初めて自分を一人の女性として見てくれた少年と踊っている。


 セリナは小さく笑った。


「最後に踊ったのがいつだったのか……もう忘れちゃった……」


「じゃあ、今日思い出せばいい」


 彼女はレグルを見つめ、長い間見せることのなかった、本当の笑顔を浮かべた。

 洞窟の奥にある小さな穴から差し込んだ月明かりが、彼女の顔を照らしていた。


 頬には、まだ涙の跡が残っている。

 そしてレグルはふと思った。

 自分の目の前にいるのは、本当にゴブリンの女王なのだろうか。



 いえ。


 そこにいるのは、ただのセリナだった。

 かつて、ごく普通の人生を夢見ていた一人の女性。

 そして初めて、彼女は再び笑顔になることができた。

 やがて踊りが終わると、レグルは足を止め、しばらくセリナを見つめた。


 そして、これまで彼女が経験してきたすべての苦しみの後に、ほんの少しでも穏やかな時間を与えようとするかのように、そっと彼女を抱きしめた。


「僕は……あなたが好きだ……」





「え……?」


 セリナの顔が赤くなり、予想していなかった言葉に戸惑った。


「……」


 しかし次の瞬間、レグルは胸に鋭い痛みを感じた。


「ぐはっ!」


 驚いたレグルが前を見ると、そこには剣を手にした若い男が立っていた。

 剣の切っ先はレグルとセリナを貫き、二人はその場で動きを止めた。

 血が地面へと流れ、剣を伝って落ちていく。

 レグルは目の前の光景を信じることができなかった。


(こいつ……誰なんだ……?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。