第9音 静寂の降臨と新ジャンル
世界から音が消えた。
車も。
人々の声も。
風の音すら存在しない。
ノクターンが空に立っているだけで、都市そのものが沈黙していた。
「ぐっ……!」
バルクラインが膝をつく。
重装甲スーツが停止しかける。
グラヴィナも顔を歪める。
「能力が……使えない……!」
リズが叫ぶ。
「周囲一帯の“音エネルギー”が奪われています!」
ミオは必死に立ち上がる。
だが。
スーツが明滅する。
「なんで……!」
音がなければ、彼女の力は成立しない。
ノクターンが静かに見下ろす。
「音に依存した力」
「脆いな」
ノクターンの背後。
四つの影が前へ出る。
最初に現れたのは。
## 《ディストーション》
「また会ったね、音の少女」
次。
巨大なスピーカーの怪物。
## 《ハウリング》
咆哮だけで空間を割る。
三人目。
黒いドレスの女。
## 《サイレンス》
周囲だけ完全な無音になる異常存在。
最後。
フード姿の細い男。
## 《デッドエコー》
無数の“声”が身体から漏れている。
ソラが震える。
「……やばい」
ルナも珍しく表情を崩す。
「レベルが違う」
「君の音、もっと聞かせてよ」
ディストーションが笑う。
ノイズ弾を放つ。
ミオが避ける。
「っ!」
だが速度が違う。
吹き飛ばされる。
「ミオ!」
ソラとルナが飛び出す。
シンクロ攻撃。
しかし。
ディストーションは片手で受け止めた。
「98%だっけ?」
笑う。
「でも“ズレ”がある」
その瞬間。
二人の連携が崩される。
「えっ!?」
「読まれてる!?」
完全に解析されていた。
ノクターンは戦いを見ながら、ただミオを見つめていた。
「……なぜだ」
小さく呟く。
「なぜ、その音がまだ残っている」
ミオは睨み返す。
「知らない……!」
「でも!」
ギターアックスを握り直す。
「私はあんたなんかに負けない!!」
その時。
静寂の中で。
小さな音が鳴る。
――ピコン。
ビートだった。
落下していた小型ロボット。
その目が微かに光る。
「……再起動」
ミオが振り向く。
「ビート!」
ビートはフラフラ浮かび上がる。
「ミオ」
「音は消えてない」
「え……?」
「君の中に、まだある」
ノクターンの仮面がわずかに動く。
まるで驚いたように。
静かな世界。
でも。
ミオには聞こえた。
ドクン。
ドクン。
自分の心臓の音。
「……あ」
ビートが優しく言う。
「リズムは、外だけじゃない」
「君自身が“音”なんだ」
ミオの目が見開かれる。
鼓動。
呼吸。
感情。
全部がリズムになる。
ミオのスーツが再点灯する。
ピンク色の光。
ノクターンが初めて明確に反応する。
「……!」
「その波長……」
ミオがゆっくり立ち上がる。
「聞こえる」
「みんなの音が」
都市中。
消えたはずの音が微かに戻り始める。
ソラ。
ルナ。
ヒーローたち。
人々の鼓動。
全部がミオへ集まっていく。
「ジャンル選択――」
今までにないUI。
見たことのない色。
ビートが震える。
「それ……!」
ミオが静かに言う。
「HEART BEAT」
瞬間。
白と虹色の光が爆発する。
新フォーム。
心音そのものを力へ変える形態。
ノクターンの静寂を打ち破る。
ディストーションが後退する。
「空間を書き換えた!?」
ミオはギターを構える。
だが。
今までと違う。
攻撃的ではない。
優しく。
強い音。
「これは――」
「みんなの音!!」
一撃。
音の波が街を包む。
止まっていた信号が戻る。
車が動く。
人々の声が戻る。
世界に“音”が帰ってくる。
ノクターンの静寂が、初めて崩れた。
ノクターンが静かにミオを見る。
仮面の奥。
見えないはずなのに。
確かな動揺。
「……ゼロビート」
ミオは眉をひそめる。
「誰、それ」
ビートが一瞬だけ沈黙する。
そして。
ノクターンは空へ浮かび上がる。
「まだ早い」
破音五人衆も後退。
ディストーションだけが笑っていた。
「次はもっと遊ぼう」
黒いノイズが空を覆い――消える。
静寂が終わる。
だが。
誰も気づいていなかった。
ビートの瞳が、一瞬だけ。
青く光る瞳になっていたことを。




