第36音 死者の校舎と優しい目
朝。
いつもの学校。
いつもの教室。
ミオは机へ突っ伏していた。
「ねむ……」
先生の声が遠い。
黒板の文字もほぼ見えてない。
ビートが机の中から小声。
「昨日3時までゲームしてた」
「ヒーロー活動の報告書!!」
「途中からゲームしてた」
「うっ……」
クラスメイトが笑う。
平和。
普通の日。
……のはずだった。
数学。
ミオはノートに落書き。
ギター。
音符。
変なキャラ。
その時。
教室の窓が。
ピシッ。
ミオが顔を上げる。
「……?」
次の瞬間。
学校全体が揺れた。
ドォォォン!!!
悲鳴。
窓ガラスが割れる。
先生が叫ぶ。
「伏せろ!!」
警報。
赤い光。
【高濃度ノイズ反応】
ミオが立ち上がる。
「ノイズ!?」
ビートも即座に警戒。
「反応が変」
廊下から悲鳴。
そして。
放送。
ノイズ混じりの男の声。
『やぁ』
校内全スピーカーから響く。
不気味。
耳障り。
クラス全員が凍る。
『今日は少し』
『死者の話をしようか』
ミオの背筋が凍る。
その瞬間。
教室の壁が崩壊。
黒いノイズが侵入。
「きゃぁぁ!!」
生徒達が逃げ惑う。
ミオが前へ出ようとする。
だが。
その時。
廊下から。
ゆっくり現れる人影。
黒いコート。
細い身体。
口元だけ笑っている。
《デットエコー》
ビートが震える。
「……最悪」
ミオが睨む。
「お前……!」
デットエコーは楽しそうに笑う。
「こんにちは、原初音」
「学校生活は楽しい?」
その声。
ノイズみたいに歪んでいる。
だが。
どこか人間っぽい。
気味が悪い。
校内各所。
ノイズ大量発生。
出入口封鎖。
通信妨害。
ヒーロー協会も接近不可。
完全包囲。
デットエコーが両手を広げる。
「今日は実験なんだ」
「人は」
「“死”を見た時どう壊れるのか」
ミオが叫ぶ。
「ふざけんな!!」
だが。
デットエコーは笑うだけ。
「そう怒らないで」
「せっかくだから」
「会わせてあげようか」
その瞬間。
ノイズが蠢く。
黒い液体が人型になる。
ミオが目を見開く。
そこにいたのは。
「……お母さん?」
音羽カナデ。
優しい笑顔。
昔と同じ姿。
クラス全員が凍る。
ミオの呼吸が止まる。
「……え」
ビートが叫ぶ。
「違う!!」
だが。
“カナデ”はミオを見る。
優しい声。
「ミオ」
完全に本人だった。
声も。
仕草も。
全部。
ミオの足が震える。
デットエコーが笑う。
「ボクはね」
「死者の残響を再現できる」
「声も」
「記憶も」
「姿も」
「全部ね」
ミオが歯を食いしばる。
「……やめろ」
デットエコーがさらに笑う。
「それだけじゃない」
次の瞬間。
校舎中のノイズが変形。
生徒達の悲鳴。
ノイズが。
“知っている人の姿”になる。
亡くなった祖父。
友人。
家族。
失った誰か。
学校中が地獄になる。
「いやぁぁぁ!!」
「母さん……!?」
「なんで……!」
デットエコーは陶酔したように言う。
「人は死を乗り越えられない」
「だから最高なんだよ」
ミオが震えながら聞く。
「……お前が」
「破音五人衆を復活させたの?」
デットエコーが嬉しそうに拍手。
「正解♪」
「依り代さえあれば」
「死者は戻せる」
その瞬間。
背後のノイズが揺れる。
紫の影。
巨大な重低音。
《ディストーション》
さらに。
静かな白い少女。
《サイレント》
そして。
獣の咆哮。
《ハウリング》
クラス全員が絶望する。
ミオの顔も青ざめる。
デットエコーが笑う。
「復活って素晴らしいだろ?」
「まあ」
「魂は少し壊れるけど」
ミオが拳を握る。
怒りで震える。
だが。
デットエコーはさらに笑う。
「でも」
「君が一番会いたいのは」
「この人じゃない?」
その瞬間。
教室後方。
ノイズが人型になる。
黒髪。
優しい目。
静かな笑顔。
ミオの瞳が揺れる。
「……レン?」
天城レンが。
そこに立っていた。




