第34音 分岐と救う歌
崩壊していく進化型ノイズ。
紫の粒子。
暴走。
苦しむ声。
「……ころして……」
ミオの胸が締め付けられる。
今までのノイズとは違う。
ただの怪物じゃない。
“誰か”だった。
ミオが一歩前へ出る。
セレスティアが止める。
「危険です!」
「でも……!」
進化型ノイズの身体が暴走。
腕が膨張。
ノイズ波が周囲へ拡散。
ビートが警告。
「限界!」
「爆発する!!」
ソラが叫ぶ。
「離れて!!」
だが。
ミオは止まらなかった。
怪物を見る。
苦しそうだった。
まるで。
助けを求める子供みたいに。
その瞬間。
ミオの頭に。
昔の記憶。
まだ小さかった頃。
夜。
研究所。
母・カナデがミオの髪を撫でながら歌っていた。
優しい歌。
静かなメロディ。
ミオが眠そうに聞く。
「その歌なぁに?」
カナデが笑う。
「秘密の歌」
「つらい時ね」
「誰かの心に寄り添える歌なの」
ミオが首を傾げる。
「よくわかんない」
カナデは優しく額をつつく。
「いつか分かるよ」
その歌は。
どこか懐かしく。
温かかった。
ミオが小さく呟く。
「……あの歌」
自然に。
口から零れる。
静かな旋律。
優しい歌。
戦場とは思えないほど穏やかな声。
セレスティアが目を見開く。
「……これは」
ビートも驚いていた。
「その歌……!」
進化型ノイズが止まる。
暴走していた身体が震える。
赤い瞳。
ゆっくりミオを見る。
ミオは歌い続ける。
怖い。
でも。
届いてほしかった。
その瞬間。
怪物の身体から。
黒いノイズが剥がれ始める。
ミオが目を見開く。
「……え」
怪物が涙みたいな黒い粒子を流す。
そして。
最後に小さく呟いた。
「……ありがとう」
次の瞬間。
進化型ノイズは静かに消滅した。
爆発ではなく。
まるで。
眠るように。
静かに。
全員が言葉を失う。
セレスティアがミオを見る。
「あなた今……」
ミオ自身も分かっていなかった。
ただ。
歌っただけ。
でも。
ノイズが救われた。
その意味を。
まだ誰も知らない。
同時刻。
廃工業区域。
大量のノイズ群。
数百。
普通のヒーローでは対処不可能。
だが。
そこにいたのは一人。
黒いコート。
赤い瞳。
《クロノス》
ノイズが咆哮。
だが。
クロノスは動かない。
ポケットに手を入れたまま。
静かに呟く。
「……つまんねぇ数だな」
その瞬間。
能力発動。
《Perfect Command》
耳元で声。
『右後方3歩』
クロノスが従う。
直後。
背後からの奇襲ノイズが空振る。
『左回転』
回転。
蹴り。
ノイズ頭部粉砕。
『しゃがめ』
音波回避。
『投げろ』
ナイフ投擲。
三体同時貫通。
速い。
いや。
未来を知ってるみたいだった。
ノイズ達が一斉突撃。
クロノスは淡々と従う。
『前進』
『撃て』
『避けろ』
『踏み込め』
無駄ゼロ。
完璧。
戦闘というより。
“未来の再現”。
ノイズが次々倒れる。
血すら浴びない。
圧倒的。
その時。
奥から現れる。
進化型ノイズ。
コード・グリーフの別個体。
怪物がクロノスを見る。
「……ヒーロー」
クロノスは眉をひそめる。
「喋るのか」
怪物が苦しそうに言う。
「……たす……」
だが。
クロノスは止まらない。
能力発動。
『殺せ』
一瞬。
クロノスの目が冷たくなる。
「了解」
次の瞬間。
超高速。
怪物の背後。
ナイフ。
首へ。
ザンッ。
進化型ノイズが崩れる。
助けを求める暇すらなかった。
クロノスは興味なさそうに振り返る。
「ノイズはノイズだ」
だが。
怪物が消える瞬間。
小さく。
「……に……げ……て……」
クロノスの動きが止まる。
その言葉。
妙に耳に残った。
だが。
すぐに舌打ち。
「……チッ」
クロノスは去る。
背後には。
無数のノイズの残骸だけが残っていた。
そして遠く。
ノクターンが静かに笑う。
「分岐し始めたな」
ミオ。
クロノス。
二人の選択が。
未来を大きく変え始めていた。




