第31音 素体と疑問
――現在。
ヒーロー協会本部。
緊急対策室。
大型モニターには。
各地で増加するノイズ反応。
そして。
“復活した破音五人衆”のデータ。
ミオは席につきながらまだ少し頭を押さえていた。
ビートが心配そうに言う。
「まだ痛い?」
「……ちょっとだけ」
だが。
それ以上に。
レンのことが頭から離れなかった。
セレスティアが資料を開く。
「確認された破音五人衆は五名」
「ただし」
「現在の個体は4年前にゼロビートが撃破した個体とは微妙に異なる」
ミオが聞く。
「異なる?」
オラクルが説明する。
「正確には“復元”です」
モニターに映像。
破壊された旧破音五人衆。
そして。
1年前。
黒い培養装置。
ノイズの肉体生成。
ブレイズハウルが顔をしかめる。
「気味悪ぃな……」
オラクルが続ける。
「外見・能力・記憶は旧個体とほぼ同一」
「ですが」
「身体構造が別物」
「新しい肉体です」
ミオは嫌な予感がした。
モニター切り替え。
紫のノイズ。
重低音の怪物。
《ディストーション》
だが。
内部データには。
【素体:男性高校生】
ミオが目を見開く。
「……え」
ギガントが拳を握る。
「人間を器にしたのか」
オラクルが静かに頷く。
「完全に」
「人格は消滅しています」
会議室が重くなる。
次の映像。
白い少女型。
静寂を操る存在。
《サイレント》
【素体:女子高校生】
セレスティアが目を伏せる。
「最悪ですね」
ブレイズハウルが苛立つ。
「クソ共が……!」
次。
異形。
獣のような怪物。
《ハウリング》
オラクルが説明する。
「ハウリングのみ人工錬成型」
「ノイズと肉体を融合させた怪物兵器です」
映像では。
街を食い破るハウリング。
以前よりさらに凶悪だった。
最後。
モニターに映る。
白い仮面。
静かな笑み。
《レゾナンス》
ミオの鼓動が止まりそうになる。
なぜか。
嫌な感覚。
オラクルが言う。
「レゾナンスだけは特殊です」
「適合率が異常に高い」
「人格定着率99%」
セレスティアが険しい顔。
「……まるで最初から適合していたみたい」
ミオの頭に。
レンの笑顔がよぎる。
心がざわつく。
理由は分からない。
ただ。
妙に苦しかった。
クロノスが壁にもたれながら言う。
「で」
「問題は親玉だ」
空気が変わる。
モニター。
黒い影。
《ノクターン》
オラクルが静かに言う。
「1年前」
「ノクターン完全復活を確認」
ミオが驚く。
「1年前……?」
つまり。
自分が正式ヒーローになる少し前。
世界の裏で。
すでに戦争は始まっていた。
クロノスが舌打ち。
「復活直後は不完全だった」
「だが今は違う」
「完全に戻りつつある」
セレスティアが低く言う。
「……ゼロビートの犠牲でも止めきれなかった」
ビートが静かになる。
ミオも拳を握る。
廊下。
ミオは一人歩いていた。
レンのことが離れない。
修学旅行。
夏休み。
笑顔。
優しかった声。
なぜ今になって思い出すのか。
ビートが小さく言う。
「……ミオ」
「なに」
「もし」
「もし大事な人が敵になったらどうする?」
ミオが止まる。
その質問が妙に怖かった。
ミオは少し考えて。
静かに答える。
「……助けたい」
ビートは何も言わなかった。
その頃。
ノイザー本拠地。
巨大な黒い塔。
その最上階。
レゾナンスが静かに窓の外を見ていた。
夜景。
街。
そして。
小さく呟く。
「……ミオ」
その声だけ。
ほんの少しだけ。
悲しそうだった。
だが次の瞬間。
仮面の奥の瞳が紫に染まる。
ノイズが全身を覆う。
そこへ。
ノクターンが現れる。
「揺らいでいるな」
レゾナンスは跪く。
「問題ありません」
ノクターンは静かに見下ろす。
「原初音は近い」
「次の段階へ進め」
レゾナンスが頷く。
だが。
窓へ映る自分の姿を見た瞬間。
一瞬だけ。
紫色の瞳の奥に
人間の目が見えた。




