第3音 秘密のリズム
朝。
教室の空気は、いつも以上に騒がしかった。
「昨日の仮ヒーロー、また出たらしいよ!」
「動画めっちゃ拡散されてる!」
教室のモニターには、昨日の戦闘映像が流れている。
爆音。
青い光。
音楽に合わせて戦うヒーロー。
ミオは机に突っ伏した。
(やばい……昨日ちょっと派手にやりすぎた……)
イヤホンの中から、ビートの小声。
「SNSトレンド急上昇。“音楽ヒーロー”」
「やめて、頭痛くなる」
その時。
「ねぇ、ミオ」
クラスメイトの少女がスマホを持って近づいてくる。
名前は**白瀬ユナ**。
明るくて観察眼が鋭いタイプ。
「このヒーロー、なんかミオっぽくない?」
「…………は?」
心臓が止まりかける。
「ほら、背格好とか声とか!」
「いやいやいや! 全然違うし!」
ミオは慌てて否定する。
だがユナはじーっと見つめる。
「ふーん……」
完全に疑っている目だった。
昼休み。
屋上へ逃げたミオは、大きくため息をつく。
「まずいなぁ……」
「バレ率、上昇中」
「他人事みたいに言わないでよ……!」
ビートがふらふら回る。
「でも、ミオ。ちょっと嬉しそう」
「……え?」
「みんな、“音”を覚えてる」
ミオは少し黙る。
確かに。
誰かが自分の戦いを見てくれている。
怖い。
でも少しだけ――嬉しい。
その時。
ビートの目が赤く点滅する。
「ノイズ反応!」
「えっ、今!?」
突然。
校内スピーカーから激しいノイズが流れ始める。
キィィィィィ――!!
悲鳴が上がる。
窓ガラスが震える。
「なにこれ!?」
廊下の先で、黒い靄が膨れ上がる。
現れたのは、小型ノイザーの群れ。
人々の不安や混乱に反応し、一気に増殖していく。
「学校の中で……!?」
「最悪のタイミング!」
ミオは歯を食いしばる。
(ここで変身したら確実にバレる……!)
だがノイズは生徒たちへ迫っていく。
ユナも逃げ遅れていた。
「きゃっ!」
「ユナ!」
ミオは思わず駆け出す。
ノイザーがユナへ飛びかかる。
その瞬間。
ミオは覚悟を決める。
(……迷ってる暇ない!)
「ビート!」
「了解!」
教室のスモーク消火装置をビートが誤作動させる。
白煙が広がる。
視界ゼロ。
その中で、ミオがスーツを起動する。
「ジャンル選択――POP!」
スーツが明るいピンクに発光する。
「行くよ!」
POPフォームは軽快さ重視。
音のステップで高速移動し、
周囲の感情を安定させる能力を持つ。
ミオは音楽に合わせるように駆ける。
「ハッ!」
リズムに乗った蹴りでノイザーを吹き飛ばす。
さらにマイクから柔らかな音波を放つ。
不安で混乱していた生徒たちの動きが落ち着いていく。
「……怖くない、落ち着いて!」
声そのものに安心感が宿る。
白煙の中。
ユナはかすかにその姿を見る。
(あの声……)
(もしかして……)
ミオは気づかない。
ノイザーはさらに増える。
「数、多すぎ!」
「上から来る!」
天井を這うようにノイザーが飛びかかる。
その瞬間。
校舎の壁が吹き飛ぶ。
ドゴォン!!
「全員伏せろ!」
現れたのは――
バルクライン。
巨大砲撃でノイザーを一掃する。
「プロヒーロー……!」
生徒たちがざわめく。
ミオは小さく舌打ち。
「タイミング良すぎでしょ……!」
バルクラインはミオを見る。
「またお前か」
「偶然!」
「学校内で活動するな、非公認」
「言ってる場合!?」
ノイザーの群れが合体を始める。
巨大化。
校舎を揺らす。
「チッ……」
バルクラインが構える。
ミオもギターアックスを展開。
「今回は合わせてよ!」
「お前が合わせろ」
「めんどくさい人!!」
だが――
今度は息が合う。
ミオがリズムを整え、
バルクラインが一点突破。
巨大ノイザーは爆散する。
煙が晴れる。
ミオはすぐに姿を消そうとする。
だがその時。
「……ミオ?」
後ろから、ユナの声。
ミオの動きが止まる。
ユナは真っ直ぐ見ていた。
「今の、もしかして――」
沈黙。
そして。
ビートが突然暴走する。
「警報!警報!ボクのネジが限界です!」
「えぇ!?」
ビートが変な音楽を爆音再生しながら暴れ回る。
校内は再び大混乱。
その隙にミオは逃走
夕暮れ。
屋上。
「……危なかったぁ……」
ミオがへたり込む。
ビートは煙を出している。
「ボク、ナイスアシスト」
「偶然でしょ絶対」
だがその頃。
ユナはスマホの動画を見返していた。
そこに映る仮ヒーロー。
そして今日聞いた声。
「……やっぱり、ミオ?」
疑念は、まだ消えていなかった。




