第28音 ミオの決意と試作品
――現在より4年前。
ゼロビートが消えた直後。
世界はまだ傷だらけだった。
街のあちこちには戦いの跡。
壊れたビル。
止まった電車。
ニュースでは毎日のように言われていた。
【世界を救った英雄、ゼロビート消失】
だが。
人々の顔は暗かった。
英雄を失ったから。
音羽ミオ 13歳
学校。
教室。
ミオは窓の外を見ていた。
ぼーっと。
何も聞こえていない。
友達が話しかける。
「ミオー?」
「大丈夫?」
ミオは無理やり笑う。
「……うん」
でも。
笑えていなかった。
放課後も。
帰宅後も。
ずっと。
心に穴が空いていた。
夜。
自室。
ビートは机の上で分解されていた。
ミオが工具を握る。
「……ここかな」
カチ。
火花。
「ぴぎゃっ」
ビートが感電。
ミオが慌てる。
「ご、ごめん!!」
ビートが煙を出す。
「修理下手」
「うるさい!」
少しだけ。
笑った。
ゼロビートが消えてから。
初めてだった。
ミオは研究所から持ち帰ったデータを開く。
そこには。
父・レイの記録。
映像。
少し疲れた顔。
だが優しい笑顔。
『もしミオがこれを見ているなら』
『たぶん私達はいない』
ミオが息を呑む。
『ミオ』
『君は普通の子として生きてほしかった』
『原初音なんて関係なく』
『笑って』
『歌って』
『幸せになってほしかった』
ミオの目から涙。
『でも』
『もし君が誰かを守りたいと思った時』
『その力はきっと』
『誰かを救う』
映像終了。
静寂。
ビートが小さく言う。
「……レイ博士らしい」
ミオは涙を拭く。
そして。
ゆっくり立ち上がる。
翌日。
街。
突然警報。
【ノイズ発生】
人々が逃げ惑う。
まだ小型だったが。
ノイズは危険だった。
ヒーロー到着まで数分。
だが。
近くには子供が取り残されていた。
ミオが立ち止まる。
怖い。
足が震える。
でも。
頭の中に浮かぶ。
ゼロビート。
最後の言葉。
『生きて』
ミオが拳を握る。
「……ビート」
ビートが振り向く。
「うん」
ミオは真っ直ぐ前を見る。
「私」
「ヒーローになる」
ビートが目を丸くする。
「……本気?」
「本気」
その目には迷いがなかった。
数日後。
音羽家地下研究室。
工具だらけ。
ミオは徹夜していた。
「うわぁぁぁぁ!!」
「また爆発したぁ!!」
ボン!!
煙。
ビートが咳き込む。
「センスゼロ」
「うるさいなぁ!」
試行錯誤。
父のデータ。
母の設計。
そして。
自分のアイデア。
音楽。
歌。
感情。
全部混ぜた。
数週間後。
ついに完成。
《試作型ポップスーツ》
イヤホン型接続装置。
スピーカーユニット。
音響増幅機構。
そして。
手作り感満載。
ミオがドヤ顔。
「できた!!」
ビートが静かに言う。
「ダサい」
「えぇ!?」
夜。
小型ノイズ出現。
誰もいない路地。
そこへ。
ぎこちなく現れるヒーロー。
ヘッドホン。
ジャケット。
即席スーツ。
ギター型武器。
ミオは震えていた。
「む、無理かも……」
ビートが肩で言う。
「逃げる?」
ミオはノイズを見る。
怯える人。
泣く子供。
そして。
小さく深呼吸。
イヤホンを耳へ。
音楽再生。
鼓動と同期。
ミオの目が変わる。
「……やる」
ギターを構える。
「いくよ!!」
飛び出す。
ド派手に転ぶ。
ズシャァ!!
「痛ぁぁぁぁ!!」
ビートが即ツッコミ。
「カッコ悪」
「うるさいぃ!!」
でも。
立ち上がる。
何度転んでも。
武器を握る。
その姿を。
遠くから誰かが見ていた。
黒いコート。
紫の瞳。
《クロノス》
まだヒーローだった頃。
クロノスは小さく笑う。
「……変な奴」
だが。
ミオの瞳を見て。
少しだけ驚く。
「でも」
「いい目してる」
その瞬間。
ミオのギターから。
小さな虹色の音が弾けた。
クロノスの表情が変わる。
「……原初音?」
物語は。
新たな時代へ進み始める。




