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コレが私のフライトプラン。Good Day‼【第1部 マイル修行】  作者: ちとせ鶫
第5章:それでもGood Day‼

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20/22

第20話 最後の修行

旅の終わりは、いつも静かに訪れる。

雲雀蒼空にとって、アレキサンドライトは特別な称号ではなく、

ただ“飛んだ証”が形になる地点にすぎない。

だから今日も、特別な感慨はない。

ただ、飛ぶ。

雲を抜け、海を見て、空の色を胸に刻む。

その積み重ねの先に、結果があるだけだ。

この章は、蒼空が最後の修行へ向かう朝から、

一便ずつ空を重ねていく姿を描いた物語です。

どうぞ、蒼空の呼吸と歩幅に合わせて、

この“静かな熱”を感じながら読んでください。

おかえり、蒼空。

 目が覚めたのは、四時十五分だった。


 アラームより三分早い。

 飛ぶ日の朝は、身体が勝手に起きる。

 いつもそうだ。


 でも今日は、少し違った。


 天井を見ながら、蒼空は思った。

 今日が、最後の修行だ。

 このルートを飛び切れば、アレキサンドライトに届く。


 特別な感慨は、なかった。

 ただ、今日飛ぶ。

 それだけだった。


 さあ、起きよう。


     * * *


 シャワーを浴びた。

 スキンケアをした。

 メイクをした。


 今日のコーデは、前回と少し違う。

 ネイビーのワンピース。

 グレーのトレンチ。

 同じローヒールのパンプス。


 鏡を見た。


 今日の自分だ。


 クローゼットを閉めた。

 バッグを確認した。

 全部、ある。


 財布の中に、株主優待券が二枚残っている。

 今日で使い切る。


     * * *


 家を出たのは、五時ちょうどだった。


 外はまだ暗かった。

 でも空気が違った。

 今日の空気は、少し軽い気がした。


 蒼空は空を見上げた。

 雲がある。薄い雲だ。


 雲があるなら、抜けられる。


 駅に向かった。


     * * *


 羽田空港に着いた。


 自動ドアをくぐった。

 空港の空気が流れ込んできた。

 いつもの匂い。いつもの光。いつもの音。


 蒼空の目が、変わった。


 保安検査の優先レーンに向かった。

 トレイに荷物を置く。パンプスを脱ぐ。トレンチを畳む。

 ゲートをくぐる。

 ビープ音はしなかった。


 制限エリアに入った。


 案内板を確認する。

 那覇行きの便名。搭乗口、三番。定刻通り。


 蒼空は一瞬だけ立ち止まった。


 今日で、届く。


 声には出なかった。

 でも確かに、そう思った。


     * * *


 一便目、羽田→那覇。


 離陸した。

 雲を抜けた。

 一面の青が広がった。


 いつもそうだ。

 何度見ても、これだ。


 蒼空は窓から目を離さなかった。


 今日はこの空を、何度見るだろう。

 那覇まで、那覇から宮古まで、宮古から那覇まで、また那覇から羽田まで、羽田から伊丹まで、伊丹から羽田まで。


 何度も雲を抜ける。

 何度も空が広がる。

 何度見ても、飽きない。


 それが好きだった。


 コーヒーが来た。

 ブラックで頼んだ。

 一口飲んだ。熱くて苦かった。


 よし、と思った。

 声には出なかった。


     * * *


 那覇に着いた。


 乗り継ぎ、七十分。

 ラウンジに入った。


 コーヒーを一杯取って、窓際の席に座った。

 那覇の空が見える。

 青い。濃い。南の空だ。


 スマートフォンを開いた。

 今日ここまでのFCを確認した。

 一便分。


 アレキサンドライトまでの残り。


 数字を見た。

 今日の残り五便を飛べば、届く。

 計算は合っている。

 何度確認しても、合っている。


 スマートフォンをしまった。

 コーヒーを飲んだ。


 ラウンジの窓から、駐機している機体が見えた。

 次に乗る機体だ。

 整備士が周りを歩いている。


 お世話になります、と蒼空は思った。

 声には出なかった。


     * * *


 二便目、那覇→宮古。


 離陸した。

 海が見えた。

 エメラルドグリーンから、コバルトブルーへ。


 着陸した。


 ドンッ。


 いつもの衝撃だ。

 慣れない。

 たぶん一生慣れない。

 それでいい。


 コーヒーは飲み切っていた。

 今回は宙を舞わなかった。

 少しだけ、物足りなかった。


 折り返しの搭乗口に向かった。

 宮古空港の売店を眺めた。

 雪塩のキャラメルがあった。

 前回買わなかったやつだ。


 今日は買った。

 ポケットに入れた。

 帰りの電車で食べよう。


     * * *


 三便目、宮古→那覇。


 同じルート。同じ海。

 でも、光の角度が変わっていた。

 午後の那覇の空は、午前より少し重い色をしている。


 着陸した。

 那覇に戻ってきた。


 乗り継ぎ、五十分。

 ラウンジには入らなかった。

 搭乗口の前のシートに座って、窓の外を見た。


 那覇の空が、少しずつオレンジに変わり始めていた。

 夕方が近い。


 蒼空はその色を見ながら、思った。


 もう三便飛んだ。

 残り三便。

 那覇→羽田→伊丹→羽田。


 今日が終わったら、届く。


     * * *


 四便目、那覇→羽田。


 夕暮れの那覇を離陸した。

 オレンジの空が、窓の外に広がった。


 蒼空はしばらく、その色を見ていた。


 今日何度目の離陸だろう。

 四回目だ。

 四回目でも、離陸の瞬間は別物だ。

 毎回、地上が遠くなる。

 毎回、何かが置いていかれる。


 機体が高度を上げる。

 雲に入る。

 白くなる。


 そして。


 抜けた。


 夕暮れの空は、オレンジと紺が混ざっていた。

 地平線の向こうに、太陽が沈みかけていた。

 雲の絨毯が、その光を受けてオレンジに染まっていた。


 蒼空は息を呑んだ。


 何度見ても、これだ。


 今日飛んだから、この景色を見られた。

 それだけで、今日は十分だった。


     * * *


 羽田に着いた。


 乗り継ぎ、四十分。

 地下通路を歩いた。

 動く歩道に乗りながら、次の搭乗口を確認した。

 伊丹行き、第三ターミナル、搭乗口二十一番。


 動く歩道が、蒼空を運んでいく。

 通路の蛍光灯が、頭上を流れていく。


 あと二便。


     * * *


 五便目、羽田→伊丹。


 短い。

 離陸して、雲を抜けたら、もうすぐ着く。


 でも蒼空は窓から目を離さなかった。


 短くても、空は空だ。

 一時間でも、雲の上にいられる。

 それだけで十分だ。


 大阪が近づいてきた。

 伊丹空港が見えた。

 着陸した。


 折り返しの搭乗口に向かった。

 売店を見た。

 大阪土産が並んでいる。


 今日は買わなかった。

 ポケットの中に、宮古の雪塩キャラメルがある。

 それで十分だ。


     * * *


 六便目、伊丹→羽田。


 最終便だった。


 機内に入って、席に座った。

 シートベルトを締めた。

 窓から外を見た。


 夜の伊丹空港だった。

 滑走路の灯りが、青と白と赤に光っている。


 離陸した。


 大阪の夜景が広がった。

 光の海だった。

 無数の灯りが、地上に広がっている。


 蒼空はその景色を見ながら、思った。


 これが最後の便だ。


 感慨深い、というほどではない。

 ただ、最後だ。

 今日の、最後の便だ。


 機体が高度を上げる。

 夜景が小さくなっていく。

 雲に入る。

 白くなる。


 抜けた。


 夜の空は、深い紺だった。

 星が見えた。

 雲の絨毯の上に、星が光っていた。


 蒼空はしばらく、その景色を見ていた。


 地上がどんな状態でも、雲の上はいつも晴れている。

 夜でも、そうだ。


             いつも、そうだ。


 羽田まで、あと少し。


 今日は、飛んだ。

 全部、飛んだ。

 一便も落とさなかった。


 蒼空は目を閉じた。


 アレキサンドライトまでの数字が、頭の中にあった。

 家に帰ったら、確認する。

 届いているはずだ。

 計算は合っている。


 でも今は、まだ空の上だ。

 今はまだ、飛んでいる。


 それだけでいい。

 今は、それだけでいい。

読んでくださって、ありがとうございます。

蒼空が積み重ねてきた時間と距離が、

今日の六便でついにひとつの形になろうとしています。

石垣の青、宮古の衝撃、那覇の夕暮れ、伊丹の夜景——

どれも数字には換算できない“飛んだ証”です。

アレキサンドライトは、努力の象徴ではなく、

蒼空が空を愛し続けた結果として自然に辿り着く場所。

その最後の一歩を、彼女は静かに、迷いなく踏み出していく。

もしあなたにも、積み重ねた時間が形になる瞬間があるなら、

この章がそっと寄り添えていたら嬉しいです。

Good Day!!

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