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コレが私のフライトプラン。Good Day‼【第1部 フライトプラン】  作者: ちとせ鶫
第3章:陸、見てしまう

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第14話 追いかけられなかった

空港という場所には、時々“理由のない出会い”がある。

名前も知らない、声も聞いていない、ただ一瞬視界に入っただけの誰かが、

なぜか心に残ってしまうことがある。

この章は、雲雀陸という青年が、そんな一瞬の気配に心を奪われる物語だ。

彼はまだ知らない。

その背中の正体が、誰より身近な存在であることを。

空を生きる姉と、地上で見上げる弟。

二つの視点が、静かにすれ違い、重なり始める瞬間を描いた章です。

どうぞ、その揺らぎを味わってください。

おかえり、蒼空。

 田中と空港を出た。


「腹減ったな、どっか食いに行こうぜ」

「いいよ」


 田中が適当な店を探し始めた。

 俺は隣を歩きながら、相槌を打っていた。


 頭の中に、まだあの女がいた。


 ディープテラコッタのワンピース。

 迷いのない歩き方。

 案内板を一瞬見て、また歩き始めたあの動作。


 名前も知らない。顔もはっきり見ていない。

 それなのに、なぜか頭から離れない。


 俺は自分でも、少し可笑しいと思った。


     * * *


 田中と適当な飯屋に入って、昼食をとった。


 田中は北海道の話をずっとしていた。

 調査の話、現地の食い物の話、泊まったホテルの話。

 俺は聞きながら、ラーメンを食べた。


 普段なら、ちゃんと聞いている。

 でも今日は、半分くらいしか入ってこなかった。


「陸、聞いてる?」

「聞いてる。ジンギスカンだろ」

「それさっきの話。今はスープカレーの話」

「あ、そっか。美味かったの?」

「最高だったって言ってんだろ、さっきから」


 田中が呆れた顔をした。

 俺は「悪い」と言って、ラーメンをすすった。


     * * *


 帰りの電車の中で、スマートフォンをいじった。


 特に見るものはなかった。

 でも、何かしていないと、また考えてしまう気がした。


 追いかければよかった、と思った。


 でも、追いかけられなかった。

 田中を待っていた。それが理由だ。

 田中が来るのに、

 知らない女を追いかけて走り回るわけにはいかない。


 分かっている。

 分かっているけど、

 追いかけられなかったという事実が、

 少しだけ引っかかっていた。


 もし田中を待っていなかったら、追いかけていたか。

 たぶん、追いかけていない。

 空港で知らない女を追いかけるほど、俺は大胆じゃない。


 でも、見ていたかった。

 もう少しだけ、見ていたかった。


 電車が駅に着いた。

 俺は立ち上がって、ドアに向かった。


     * * *


 家に帰った。


 部屋に入って、バッグを下ろして、ソファに座った。

 天井を見た。


 あの女のことを、また考えていた。


 空港を知っている人間の歩き方だった。

 あそこが、自分の場所みたいな顔をして歩いていた。

 空港って、ああいう顔をして歩く場所なのか、と俺は思った。


 俺は空港をそんなふうに思ったことがない。

 乗り継ぎで一回通ったことがあるくらいで、特に思い入れもない。

 ただの通過点だ。


 でもあの女にとっては、違うんだと思った。

 あそこが、彼女の場所なんだと思った。


     * * *


 スマートフォンを開いた。


 姉ちゃんから、三日前にLINEが来ていた。

 既読になっている。返信はない。

 いつものことだ。


 姉ちゃんは返信が遅い。

 というか、返信しないことが多い。

 用件があるときだけ返してくる。


 俺は姉ちゃんのトーク画面を開いた。


 三日前のメッセージ。

「今週末、差し入れ持っていっていい?」


 返信なし。


 まあ、行けばいる。いつも。

 返信がなくても、行けばだいたい倒れている。


 俺はスマートフォンを閉じた。


 今週末、また差し入れを持っていこうと思った。

 姉ちゃんはまた「倒れてない、休んでた」と言うだろう。

 同じだよ、と俺は言う。

 そのやりとりが、もう何十回あったか分からない。


     * * *


 ベッドに横になって、目を閉じた。


 あの女のことを、また考えた。


 顔が見たかった、とまだ思っていた。

 でもたぶん、もう会えない。

 空港で一瞬見かけた、知らない女の話だ。


 俺はそれを、頭の中でゆっくり整理しようとした。


 整理できなかった。


 ただ、空港の光の中を歩いていたあの背中が、目の裏にあった。

 ディープテラコッタのワンピース。

 迷いのない足取り。


 かっこいい人だったな、と思いながら、俺は眠りについた。

読んでくださって、ありがとうございます。

陸が空港で見た“知らない女”は、彼にとってただの通りすがりではありませんでした。

迷いのない歩き方、空港を自分の場所のように進む姿——

それは蒼空を内側から見てきた読者だけが知っている、彼女そのものです。

陸はまだ気づかない。

でもその無自覚な惹かれ方こそが、二人の物語の深さを静かに示している。

この先、陸がその正体に気づくとき、何が変わり、何が変わらないのか。

その続きを、また一緒に見届けてください。

Good Day!!

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